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葛藤の夜、奮迅の朝

7日は国民宿舎浅草荘に投宿。
夜、明日の行程について旅行社の添乗員K君と 徹 底 的 に 検討。
この国民宿舎浅草荘、山奥の谷間にあるため携帯は勿論ダメ。テレビは衛星のNHK し か 映らず、ローカル局の気象情報が見られない。私のアマ無線機はAMも受信できるのだが、谷間にいるためか、補助アンテナを忘れたせいか、受信不能。
なんとか衛星放送の全国版ニュースで気象情報をキャッチ。
しかし最近の気象情報、気圧配置図を写さないのは非常に困る。
夜9時のニュースでようやく気圧図を見る。
日本上空、こんな感じ↓
Spidermaninweb0013

あ違った、翌朝の予報こんな感じ(図示しているのは実際の気圧図)↓
Spas_100806

選択肢は
1.登山中止
2.登山予定どおり実施
3.登山コース変更

そこへ北アルプスでの遭難事故の報道。
私とK君の、二人の間に小錦より重い空気。
気圧図から、明日も悪天は続き特に風が強いことを考える。
予定下山路の田子倉コース、稜線の急坂で、帰路の沢の渡渉が危ぶまれる。
鬼ヶ面への縦走は問題外。
往路ピストンか催行中止か。
様々に二人で検討して第三の選択、ルート上に避難小屋があり風雨を避ける樹林帯に期待して「入叶津コース下山」を決める。
不測の事態に備えてバスも午前中は宿に待機してもらうことにする。

翌日。
雨と風は止まない。
クライアントは10名。
前日にもバス中で説明したが出発前に再度、気圧配置図から悪天が続くこと、稜線は低温が予想されること、場合によっては途中で引き返すこと、ガイドの自分はクライアント用のお湯、予備手袋、予備フリースウェアを携帯しているので体の冷えが気になる人は必ず声をかけること、等々お話する。
ストレッチしながら改めてクライアント一人一人の装備、服装等を確認する。
ネズモチ平を出発、雨は強弱を繰り返し風は強い。
樹林帯を抜けた地点に、ちょっとした岩場がある。
結び目を付けたトラロープが下がっているがかなり風化している。手がかり足がかりはしっかりしていることを伝え、手がかりの根っこ等をクライアントに指示する。
この岩場を越えた時点で、クライアントの安全を守るには入叶津に抜けるしかないと判断。
稜線近くで雹が降る。
昨日の北アルプス関係者のご苦労が頭をよぎる。
稜線に抜け、頂上に立つ。
休憩は取らず「写真タイム」だけにして、避難小屋に急ぐことを説明。
この雨で頂上稜線の木道が滑りやすくなっていた。
滑りやすいをこえて、登山靴のフリクションが全く効かない。
私も一度見事に転び尻餅を付く。
木道上でバランスもとれない風のため、結局木道を外れて歩いてもらう。
転倒で手をついて骨折、というケースはよく聞く。判断の遅さを強く反省させられる
浅草岳の名前の由来となった見事な大草原も、残念ながらお客様に楽しんでもらえる状況ではない。
避難小屋で昼食後、入叶津コースを下山。
入叶津コースは浅草岳の登山路では最も平坦なコースである。
さすが奥只見、月山のブナ林でもなかなか見られない、見事なブナの大木。
そのブナの大木のおかげで、強風から守られた。
クライアント達もおしゃべりする余裕ができ、雨も止んできた。
14時、入叶津口に下山。

今回は下山コース変更という選択で悪天を回避した。
お客様の安全のために催行中止という選択がベストではなかったのか。
お客様の代価に値する行動と選択は一体、何なのか。
自分のガイドスキルに何が足りないのか。
登山中、雨があがってからも考え続けていた。


日が変わり、各地で山岳事故の報道が相次いでいた。
白馬の事故はAGS-Jの田上氏率いるガイドパーティーとのこと。
複雑な想いである。
ネットではガイド責任追及が盛んになるだろう。
某大型掲示板の屑議論はさておき、改めて私自身もガイドの責任について考えることになる。
この山行の前後に耳に入った、各地でガイド仲間達が率いたツアーの判断の苦労。
ツアー登山やガイドを高みから批判する方々は多いが、今回の悪天下、全国各地で引率・奮闘していたはずの、多数のガイド達の心境に関心を向ける方はいないようだ。

記事の最後に、今回の低気圧通過により亡くなられた方のご冥福をお祈りするとともに、関係者の方々の全ての御苦労に敬意を表します。

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コメント

私のまわりの近しい人が山で亡くなりました。
この連休のニュースで心配していましたが、それとは別な場所でニュースにもならなかったのですが、自宅に電話がはいりました。悲しいもんです。

ガイドさんって本当に大変だと思います。
楽しく生きて帰って思い出を語る。やはりどんなときでもこれがありきですね。

聖母峰さん、ガンバレ!

投稿: POP | 2006.10.09 20:57

 白馬の場合、ガイド2名は生還してますから、当然たたかれるでしょう。それは結果でしかないんですけど。ご遺体の見つかった位置は小屋から200mほどでしたね。晴天であれば目の前でも悪天では伸ばした腕の先も見えない、そんな状況は私も経験しました。そのわずかな距離、計れないほどに遠いもの。
 保険代理店の事務をしていた頃、ガイドさんの山岳保険をあつかったことがあります。その方も槍近くでお客を死亡させてしまいました。完全に事故でした。遺族の方々に責められ苦しんでおられたのを思い出します。
 季節の変わり目は天候も変わりやすいもの。無事故でお帰りになられますよう願っています。

投稿: かもめ | 2006.10.09 22:17

re:pop様
 大変お気の毒でした。つるつるの木道には、改めて危険というものは身近に存在する事を考えさせられました。
 山は楽しく、ですね。

re:かもめ様
<<保険代理店の事務をしていた頃
 そんな修羅場をご経験されておられましたか。
 山で遺体を見たときは、「命は何ものにも金額にも換えられないよなあ・・・」と思った次第です。
 東北の長い時間を占める冬に向けて、また気を引き締めて山に向かおうと思います。

投稿: 聖母峰 | 2006.10.11 18:56

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