山岳ガイドの二極化 職人と、ビジネスマンと
殿様商売ニフティのメンテの間、気になるニュースを見つけた。
社長修業は脱「座学」──実践型の起業塾/自分の手で事業化 by日経ネット関西版12/5
以下記事引用開始
大阪市が女性のための起業準備オフィス「クレオチャレンジオフィス」を開設した。約3倍の難関をくぐり抜け、女性6人が社長として修業中だ。起業家として初挑戦の人もいれば、社長としての実力を磨こうと参加している個人事業主もいる。本格的な事業活動を通じた実践的な体験が、彼女たちを起業家として育て上げる。
京都学園大学経営学部助教授で、中小企業診断士でもある堀池敏男さん(59)に向かって、事業の進ちょく度合いを説明するのは森本栄子さん(57)。世界遺産に登録されている熊野古道へのツアーを来春にも実現しようと、事業計画の精査を急いでいる。
●最長2年の期限
森本さんはビジネスの世界に本格参戦すべく、チャレンジオフィスに入った。50歳以上の女性に限定した登山ツアーなどの企画を手掛ける計画だ。年齢や性別に制限を設けた狙いについて、「体力的に同じ人をそろえないと、不安がって人が集まらない」と話す。
森本さんは登山好きで、旅行会社で山登りの案内役の仕事をしている。「自分だったらもっと面白く、安全な企画を立案できる」と自信を見せる。だからこそ「社長になりたいんです」と笑顔で話す。
チャレンジオフィスは1つの部屋の中に6つのブースを設けている。森本さんのように入居した女性起業家は、ここで日々の業務をこなす。実体験を積み重ねながら半年間(延長すれば最長2年)で、事業を継続していけるだけの土台を築く。
起業家を目指す人を対象にした起業塾は以前から各地で開催されている。先輩経営者から話を聞いたり、事業プランを検証したりしながら準備を進める取り組みだ。チャレンジオフィスでの取り組みは、より実践的。堀池さんも「座学だけではどうしようもない」と指摘する。この点に魅力を感じて、個人事業主も参加している。
以上記事引用おわり
この、登山をネタに起業しようという森本女史、検索してみると大阪労山の関係者のようで、さまざまなサイトで登山ツアーのオーガナイザーとして活躍している様子がうかがえます。
こういうのって、さすが関西人ですね。
おとなしい東北の人間では、まず滅多にこういう人材は出てこないような気がします。
山で金を稼ぐ。
このことに異様に反発するナイーブな方は少なくありません。
日本の山岳ガイド制度を罵倒しているサイトとか、ガイド組織を問題視しているサイトとか、様々な意見があります。
さて、私は営利目的の山岳ガイドの存在を肯定しています。
今回の森本女史、既成のガイド組織には所属してないようですが、ビジネスという観点から登山にアプローチしているその手法は、とても興味深く(肯定的に)思います。
登山をビジネスにするなという意見がでそうですが・・・
アメリカのレーニア山のガイド組織なんぞはバリバリのマネジメント能力を発揮している「ビジネスマン」の集団です。さらに山で金を稼ぐなというのであれば、観光で生計を立てているインド・ネパール・パキスタンのヒマラヤ山麓の人々に死ねというに等しいですね。
以前飯豊連峰でツアー登山の是非が話題になったとき、山に商売を持ち込むなという方がおられましたが、山菜や林業・内水業で生計をたてている地元の人間は特権的存在なんですかね。
時代錯誤な方々はさておき、森本女史の試みがうまく行くのか、とても注目したいと思っています。
このような、登山をビジネスに結びつけるという人材があのアマチュアイズムの権化のような労山から輩出されたというのも興味深い。
一方、私がよく拝見している山岳ガイドのサイトに、木本哲氏の木本哲Explorer Spiritがあります。
木本氏とはもちろん面識はなく、私にとって雲の上の人ですが、遙か昔、植村直己物語撮影隊のエベレスト登頂手記から、小西政継以上にとても筆がたつ方だなと尊敬しておりました。
先の白馬岳におけるガイド登山の遭難には、木本氏も特に頁を割いています。
木本氏の文で特に考えさせられるのは、フランスのガイド養成組織ENSAではガイド自身も初見のルートをガイディングさせるということ。
下見せずとも、山を読み取り、クライアントの能力を読み取る力が要求される、といいます。
非常に厳しい要求ですが、クライアントの生命を預かるガイドとして、当然のことと木本氏は指摘したいのでしょう。
ビジネスとしてガイド登山を立ち上げる森本女史。
山岳ガイドのさらなる能力の底上げを訴える木本氏。
この二人の記事、サイトを拝見しながら考えました。
山岳ガイドの将来は、マネジメントに長けたビジネスマンタイプと職人タイプの2極化が益々進むだろうということを。
山岳ガイドというのは、すなわち登山のプロです。
他のスポーツでは、野球でもサッカーでも、選手はプレイヤーとして競技に専念し、マネジメントは大勢のスタッフがバックアップします。
一方、山岳ガイドは自身に選手としての能力と、マネジメントの能力が要求されます。
このあたりに、非常に複雑かつ魑魅魍魎たる日本の山岳ガイドの諸問題(主に既得権益)の根本が紛れているのではないか・・・と考えます。
メンテあけでまとまりの無い文章ですが、ちょっとガイドの将来について考えさせられるお二人の記事でした。
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