『国民総幸福量』のいかがわしさ ~ブータンの真実に目を背けるな~
国民総幸福量、GNH(Gross National Happiness)。
ブータン国王が唱えたといわれる、同国の開発政策の根幹を成す概念である。
経済成長は国民の幸福のための手段であって、目的ではない。
この考え方は、バブル崩壊と長年の不景気で疲弊した日本人の心を大きくつかんだようだ。
ネットで検索すると、膨大な数の記事がヒットする。
しかも、ほとんどは肯定的に捉えた記事である。
しかしながら、日本のマスコミが目を背けている現実がある。
それは、ブータンは多数の難民を排出している国家であるという現実だ。
Tents for refugees from Bhutan, ウェブサイト http://www.thetibetmuseum.org/ より引用(現在リンク切)
学生時代、京大探検部の活動に感服していた私がブータンの山に目を向けたのは当然の流れだった。
初めてのヒマラヤ遠征でシェルパにブータンの事を尋ねた。
返ってきた言葉は意外なものだった。
「ブータン・・・あまり政治は良くない。カーストもね。」
彼の言葉を裏付けるように、ブータン難民の多くはネパール東部に流入し、関係者の間で問題となっている。
ブータン難民については、日本ではこちらのサイトが詳しい。
ネパールのブータン難民
当該サイトの年表によれば、私がシェルパにブータンの様子を尋ねた、まさにその年、こんな事が起きている。
1991年 ネパール系ブータン人に対する、恣意的逮捕、レイプ、拷問が激しくなり、大量の難民の流出する
日本のメディアにおけるブータンといえば、純朴な国民、ゴと呼ばれる日本の着物に似た民族衣装、などなど友好的・情緒的な記事・番組ばかりだ。
今や、日本の外務省がリードして『国民総幸福量』をひろめようと活動している。
そりゃ幸せだろうよ、あなたがた日本外務省の役人どもは。ワイン飲み放題だし。
なおブータンの人権抑圧については、左翼活動家や市民活動家があがめたてまつるアムネスティ・インターナショナルもその実態をレポートしている。
国民総幸福量。
その概念については素晴らしい、と素直に思う。
しかし、私はそれがブータンという国家から発せられたことに、ある種の「いかがわしさ」を感じる。
国内での政治犯への拷問、弾圧、難民流出の一方で、「幸福」を説く。
ODAや税金の無駄遣いに睨みを効かせている左翼活動家や市民団体の皆様は、そこに矛盾点を感じないのだろうか。日本からブータンへの援助総額は、約16億円に達している。
ウェブサイトでブータンを理想郷のように持ち上げている方も散見される。
ブータンだけでなく、コスタリカを「軍隊の無い国」と持ち上げたり、左翼活動家や市民団体の方々は『理想郷』がとってもお好きなようだ。
だが、どんな国家・社会にも表と裏はある。
現実の世界に青い鳥などいない。
みせかけの『理想郷』が説く概念よりも、自分たちが今そこにある環境で精一杯生きていくことの方が大切なはずだ、と一会社員の私は思う。
【追記:08年9月29日、当初の不適切な内容を変更致しました】
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コメント
一自営業者もそう思う。同感です。
投稿: 陸上虚偽部監督 | 2007.01.27 09:44
re:陸上虚偽部監督様
きょ、競技部ですよね・・
事務所開きお疲れさまでした。
これから選挙運動本番ですね。
私たちの世代から為政者が出る時代なんだな~と実感してます。
投稿: 聖母峰 | 2007.01.30 05:37