スティーブ・ハウス講演会
今やネットで情報を得るという方が多いですが、
「経験者から直接話を聞け」とは、ヒマラヤ登山の準備活動で教えられた言葉。
日本山岳協会主催の海外登山研究会の一環として催された、スティーブ・ハウス氏の講演会に出席。
氏のナンガパルバット・ルパール壁アルパインスタイル完登という驚異的な記録を中心に、講演が進められた。
以下、概要
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子連れ(前夫の子供)の彼女と暮らしている。
自宅はスミスロックから1kmほどのところ。
クライミング仲間のコミュニティがあり恵まれた環境にある。
ナンガパルバットアタック時のザック重量は16kg。徹底して装備を省いた。
ビバーク時は十分に食べ休むこと(講演を通じてこれは特に強調していた)、ビバークで十分に眠れなければ、計画はそこでおわりだと思っていた。
頂上付近で五週間前にルパール壁を登った韓国隊の足跡を発見したときは、数日ぶりに人間の痕跡に出会えて感激した。
(パタゴニア社カタログの表紙にもなっている、頂上に跪いている写真を示して)私が山を征服(Conquer)するというよりも、山に私がConquerされたという心境。
頂上にたどり着いたことではなく、頂上から無事にビバーク地に安全に戻ってきたとき誇りに思った。
ルパール壁をアルパインスタイルで登った後は大きな「空白感」を覚えた。
よりよいクライミングを追い求めれば、いつか死んでしまう。その罠に陥らないようにと考えている。自分のアルビニズムを見直すことが重要と考えている。
アルパインスタイルは失敗の確率、頂上を踏めない確率が高いが、失敗から学ぶことも多い。
Steve House氏近影
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以下、参加者との質疑応答
(Q)スロベニアとアメリカでのクライミングの違いというものがあれば教えて下さい。(ハウスはスロベニア留学中にアルパインクライミングを学んだ)
(A)特に両国のアルビニズムに違いは無い。
(Q)ソロや2~3人で登る時の気持ちの切り替えなどはどうしているのか?
(A)ソロかパーティーで登るかは方法論の一部にすぎない。K7峰はタクティクス上の問題でソロで登った。ナンガパルバットは大きく、二人で登るのが合理的だと判断した。
(Q)ロープスケールはどのようにしていますか?アルパインでは「落ちない」クライミングが重要ですがどのようにお考えですか?
(A)ナンガでは8mm×50m、5.5mm×55mの二本のロープを用いた。ただしナンガでは半分以上はノーロープで登っている。「落ちない」クライミングについては、自分の限界の範囲内で行動することが重要と考えている。
(Q)アルパインスタイルにおいて、フリークライミングの重要性についてどのように考えていますか?
(A)ナンガパルバットは全てフリーで登った。エイドは用いていない。(筆者注・質疑応答にニュアンスの誤差があるようだ)遠征スタイル、アルパインスタイル、どちらが良くてどちらが悪いとかは意識していない。ただ、残置物が多いスタイルは問題だと思う。
(Q)ナンガパルバットでの水分補給の仕方、ガスボンベ数、食料選定について教えて下さい。
(A)水分は二人で4リットル/日を行動中持っていた。朝晩は一人一リットルは摂取する。ガスボンベ数は正確に覚えていないがたぶん8本。最初の二日は壁の中に流水があった。生き延びるために、食料よりガスボンベを多く持っていくことを心がけている。講演で食料を科学的に選んだと言ったが、特にカロリー計算はしていない。登山中はとにかく食べることに精力を注いだ。
(Q)高度障害はどのようだったか?
(A)少しむくんだ程度で、特に障害は感じていない。4週間以上かけて7000m以上まで登り高度順応していた。登山中もきっちり休めたのがポイントだと思っている。
(Q)ナンガ遠征後の「空白感」はどのように克服したのか?
(A)遠征後は一年間きっちり休もうと思った。特に克服するような努力はしていない。(ナンガ遠征後の)キンヤンキッシュ遠征で敗退し下山後、(クライミングに対する)モチベーションが上がった。
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アルパインスタイルでのビバークといえばオープンビバークのような過酷なモノをイメージしていたのですが、とにかく講演中に強調していたのは「しっかり食べ、きっちり休む」ということ。
天候にも恵まれ、綿密なプランニングと絶妙なバランスの上にルパール壁のアルパインスタイル完登が成り立っているということを感じた。ルパール壁のクライミングという驚異的な記録でありながら、メスナーのような神秘主義臭は全くなく、ハウス氏の人間臭さがよく伝わっていました。
すばらしい講演会を催した日本山岳協会関係者の皆様およびスティーブ・ハウス氏に深謝する次第であります。
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コメント
>(Q)アルパインスタイルにおいて、フリークライミングの重要性、、(略)
>(A)ナンガパルバットは全てフリーで登った。エイドは用いていない。(筆者注・質疑応答にニュアンスの誤差があるようだ)、、(略)
勘違いされてもしょうがありません。今時こんな質問をする方がどうかしています。
投稿: 西羅(にしら) | 2007.02.18 15:39
質問者は有望そうな若い方でしたので、どうぞご理解ください。
投稿: 聖母峰 | 2007.02.19 18:49
勝手な推測ですが、その若者は時代錯誤した変な年寄りと付き合いすぎではないでしょうか?自分が付き合うべき人物を見極めるのもその人の能力だと思います。
投稿: 西羅(にしら) | 2007.02.19 20:43
Hi! Nice site!
投稿: Alfred | 2007.02.22 12:31
Thank you, Alfred!
投稿: 聖母峰 | 2007.02.23 13:29