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余韻の山 ~5月連休の大朝日岳~

5月連休、古寺鉱泉ルートから大朝日岳を目指す。

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小朝日岳の頂上から大朝日岳の全貌を望む。ルートは右の稜線をたどる。

銀玉水より先は急勾配の雪面だった。
この季節、銀玉水は雪の下である。
この膨大な雪が、あの美味い水を醸成してくれるのだろう。
広い雪面をひたすら登る。
上を見上げると、青い空に白い雲が強風で流されていく。
だだっ広い雪の斜面を一人で登高していると、某8000m峰での単独下降の真っ最中にいるかのような感覚に襲われる。座り込みたくなるような、孤独感。
 これがフラッシュバックというものだろうか?
 若かりし頃、失恋の痛手は長引いてもせいぜい一週間程度だった私ですが、もう10年以上も前の登山の記憶は消えてくれないらしい。
 過去の記録にはこだわらない振り返らない、と鼻息荒い山スキーヤーさんやクライマーの大先生がいらっしゃいますが、消したくても消えない山の記憶というものも、あるんですがね。

大朝日岳避難小屋には11時半到着。
小屋の二階の入り口が冬に開きっぱなしになっていたという。
管理人さんが苦労して掻き出した氷の塊が入り口周辺に散乱している。
ブナ林や雪稜上の赤布、そして小屋の管理と、地元の大江山岳会の皆様のご尽力にはただ感謝するのみである。
頂上には12時到着。やはり下山を決める。
一泊二日の食料・寝具とガイド装備のフル装備を担いできたが、内心では日帰りすることを考えていた。
管理人さんからも私のパンパンに膨らんだザックを見て「降りちゃうの?」と言われる。
もっとも、出発時には小さいザックで来ようと悪魔のささやきに悩まされたが、師匠の言葉「ザックの重さは命の重さ」で結局フル装備のザックで来た。どうも最近は自分を鍛えようとする自制心が足りなくていかん。
頂上で昼食兼行動食をとり、下山に移る。
周囲の、雪をかぶった朝日連峰の大パノラマを眺めながら。
Panorama

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帰路、雪解け著しい雪庇の滴をカップに溜めて飲む。
「昔の人は、こんな滴で、喉をうるおしていたかもしれないねえ」(立松和平調)

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小朝日岳から熊越の間の登山道は勾配が急で、不安定な雪塊が登山道にのっかっている状態。
帰路はストックをしまい、ピッケルで登る。

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古寺山を過ぎ、広大なブナ林を下山する。
先行者のトレースをたどるのが馬鹿馬鹿しくなる広い尾根。
無雪期と異なり、ブナの根張りに足下を気遣うこともなく、気楽な下り。
なんと表現してよいのだろう、不安定な雪塊に神経を使う上部と異なり、下るにつれて広がるブナ林は登山に「余韻」というものを与えてくれる。

「年ですから、もう二度と来られませんよ」
そんな言葉を残したお客様がいらっしゃった。
いや、朝日には季節を通じていろんな姿がある。
紅葉や頂上からの眺望だけが魅力ではない。
このブナ林の、のんびりした道程こそ、ツアーのお客様達に味わってもらいたい。
頂上の看板を背景に写真をとるお客様達の笑顔に喜びを感じるとともに、もっと味わっていただきたい世界がある、というもどかしさ。
そんな事を考えながら歩く。

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登山道に束縛されない積雪期だからこそ、この枯れたブナに出会えたのかも知れない。

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ブナに混じってマンサクの花。

ひたすら下る。
雪面に写る私の影法師が素敵な長身になり、やがて登山道から積雪も消える。
かすかな薪を燃やす匂い、古寺鉱泉朝陽館の屋根が見えてきた頃、登山道に幾つもの花が迎えてくれた。

Imgp0060イワウチワ

Imgp0064キクザキイチリンソウ?

Imgp0066ショウジョウバカマ

積雪期の朝日をガイドする。
それは、もともとガイドの師匠から聞かされていたガイドプログラムの構想だ。
なるほど、北アや八ツ等メジャーな山域では冬~春季登山のガイド登山が盛んであるが、積雪期の東北の山を舞台にしたガイドプログラムはあまり見かけない。
いつ依頼がくるとも知れぬ「その日」に備えて、私の「下見」山行は続くのだろう。

コースタイム 6時鉱泉駐車場発~12時大朝日岳頂上~16時鉱泉駐車場帰着

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コメント

 いーですねぇ。雪山はやらないんですけど(気力・体力・装備・金なし)中ア・千畳敷カールの雪原を思いだしました。昔々、ロープウェイの修理に便乗させてもらい一往復したのです。
 また、まだ登山者の少なかった頃に、黒部の源で滴の下にカップを置いて、寝転んで空を眺めてました。今では最高のゼイタクだった気がします。
 孤独感は集団のなかにいるときの方が感じます。一人で何日も山を歩いて誰にも会わなくても無心でいられるというのは、変人なんでしょうかね。^^; 

投稿: かもめ | 2007.05.05 10:07

<<今では最高のゼイタクだった気がします。
いいですねえ。
大河の一滴を集めているような感じで。

<<孤独感は集団のなかにいるときの方が感じます。
こちらの方がより「怖い」気もします。
今回の孤独感は、いつもブナ林ガイドの下見で一人で入山している時には感じない寂しさでした。

投稿: 聖母峰 | 2007.05.06 06:01

初めまして。福島県いわき市在住の秋露と申します。
いつも拝見させてもらっています。
私も4〜5日で同ルートを行ってきました。
初めての朝日。久しぶりの登山。
現在体中が嬉しい悲鳴を上げています。
4日、7時20分古寺鉱泉発12時30分大朝日避難小屋着
昼食後大朝日岳へ空身でピストン。眺望が見事でした。
私も日帰りを検討しましたが、久しぶりの登山で無理を
して遭難はしたくないと疲労回復を選択しました。
大学生と思われる集団がうるさかったものの、
まぁ、無い(同行者+酒)者のひがみとなりそうなので、
早々に就寝。深夜は雨の降る音や風の音で何回か目覚めましたが、
小屋の中は安心して過ごせました。
5日、5時30分避難小屋出発9時50分古寺鉱泉着。
帰りに大井沢温泉で疲れを癒し、一般道で帰路につきました。

4日、ブナ林付近で管理人さんの一行とすれ違い
日帰りについて尋ねたところ、小屋泊を勧められました。
やはり、日帰りをするのには、6時の行動開始だったと思います。
(古寺鉱泉到着が6時50分ですから、その時点で不可能でしたね。)
また、初めての朝日、という不安要素もありましたので、
ゆっくりと余裕をもって二日間を楽しんできました。

今度行く時は、もっと余裕と体力をもって行きたいと思います。

投稿: 秋露 | 2007.05.06 13:06

秋露様こんにちわ。
大朝日岳お疲れ様です。 
4日も天気がもったようで何よりでした。

<<今度行く時は、もっと余裕と体力をもって行きたいと思います。

やはり余裕のある山行が一番ですね。
私も帰路、精神的にのんびり下っていると、往路急いでいる時には目に入らなかった景色や花に気が付きます。

管理人さんのお話ではヒメサユリ開花の頃また賑わう、とのお話でした。ぜひ再び山形の山にお越しください。

投稿: 聖母峰 | 2007.05.07 18:18

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