子供達との、熱い夏。【後編】
朝、3時半頃には目が覚めてしまう。
今日の登山、一番緊張してるのはこの俺か・・と思う。
最新の気象情報を確認すべく、携帯テレビをつけるが電波が届かないので携帯電話でネットに繋ぐ。
空を見る。
曇り空だが、一部青空も見える。
根拠はないが、経験上、天候は保ちそうな気がする。
今日の登山のポイント、ミクロな視点では雪渓と木道、マクロな視点では疲労しきった子供達を月光坂の下りでいかにフォローするかにある。
朝食はレトルトハンバーグを利用したハンバーガー。
食事中の子供達をみる限り、皆食欲は大丈夫の様子。
バスで姥沢のリフト乗り場に向かう。
リフト駅で登山の講師である山形県自然博物園館長、ブナ林ガイドでお世話になっている横山氏と合流。
姥沢のリフト下駅には、沢水を引水してマグカップも備え付けた水場がある。
それを見た1人の子供が、
「あ、水を出しっぱなしにしているよっ!あれっていいの!?」
なるほど、子供達の視点は面白い。ちなみに、キャンプ場では「鳥の声がにぎやかで寝られなかった」という声もあった。
横山氏は高山植物の近くに名前を書いたペナントを取り付ける、という作業のため、登山パーティーから大きく離れて先行することになった。そして私が子供達36人とスタッフの皆さんを先頭で引率する。
登りはじめはとにかくスローペースで進む。姥ヶ岳山腹をまく道で牛首を目指す。
幸い、天候は崩れることなく視界が良くなってきた。
雪渓の入り口は例外なく凍結している。
雪渓に足を踏み入れる際に転倒しないよう、アックスで硬い氷を叩き割る。雪渓下部が空洞になっているところは踏みつけて雪を取り除く。雪渓そのものはスプーンカットが発達していて、アイゼン無しで通過できる。
牛首への急登はまだ皆元気だ。ここから月山山頂まで、岩が積み重なった急登が続き、一番きついところ。
月曜日にもかかわらず、白装束の参拝客が多い。
登り優先にこだわらず、要所要所で順番待ちをし、他の団体をなるべく先行させる。
途中、単独行の糞爺が強引に道を巻こうとし、派手に石を崩したためヒヤリとする。
この急登に子供達も疲れてきたようだ。
鍛冶小屋跡に到着、ここを頂上と勘違いしている子供が多い。
休憩時間を過ぎても、座り込んでいる子供もチラホラ。
「あともう少しで頂上だよ!サザエさん一話ぶんの時間で頂上だよ!」と説明する。
それに刺激されたのか、元気な子が揃った班はサザエさんの主題歌を歌いつつ、頂上をめざす。
そして頂上。
私が子供達に特に見せたかった、月山神社横に見える鳥海山山頂は厚い雲に覆われていた。
ここで時間をかけて昼食。私の頭の中は帰路の湯殿山コースでいっぱい。
頂上から出発の際、改めて子供達には飛び跳ねたりしないこと、班付きリーダーには子供達の靴紐に目をかけるよう声をかける。
ゆっくり下山するが、やはり急坂の下りに脚力を消耗し、幾人か子供達が遅れ始める。
牛首から1人、姥沢コースに下山。本人もだいぶ悔しそう。
牛首を出発、稜線づたいに歩くが、空が厚い雲に覆われてきた。目指す湯殿山方面もガスに隠れている。雪渓を通過するが、風は冷たいくらいだ。
時間との闘いになる、と思った。
横山氏が「ここは通過しよう」と言い、金姥で休憩をとらず、そのまま施薬小屋をめざす。
子供達には酷な時間帯になる、と思いつつ、天候を考えると止むを得ない。
金姥から先はノウゴウイチゴがいっぱい。
子供達に教えてやると、「これ食べられるの?」と疑問の眼差し。
横山氏と二人で、「(国立公園内のために採取は) やはりダメだよね~」と残念がる。
横山氏はもともと私のブナ林ガイドの師匠。
アメリカあたりの思想にかぶれた狂信的環境保護主義者は自然界のものは一切手をつけるなと主張するが、横山氏は山ブドウなど食べられる実は見るだけでなく積極的に味わってみろ、という主義であり、私も同様である。
施薬小屋に至る道は途中で急になる。子供達が「休憩まだー?」と口にし始めた。
小屋はもうすぐだとわかってはいるが、施薬小屋から先の下山に差し障ることも考え、それとなく横山氏に休憩を促す。横山氏が導いてくれたのは、ちょうど良い沢の合流部で平場になっており、休憩には最適の場所だった。
休憩中、班付きリーダーから子供達に
「沢水飲んじゃダメよっ!食中毒あったばかりなんだから!」と注意が飛ぶ。
朝日少年自然の家では最近、沢水による集団食中毒があった。
もっとも伺うところによれば、後日該当の沢を検査分析しても大腸菌は出ず、正確には沢水が原因なのか、子供達が持ち込んだ食物が原因か、あくまではっきりしないらしい。
そのあおりを喰らい、今回のキャンプ生活でもキャンプ場の水は駄目、子供達の水分補給は備え付けの麦茶または支給のペットボトルのスポーツドリンク。
野いちごも食べられない、沢水も飲めない。
リスク管理の一環でスタッフの立場から見れば仕方ないとはいえ、私からみれば残念でならない。
施薬小屋から先はいよいよハシゴ段。
据付が緩んでグラグラ動くハシゴもあるため、細かく後続の子供達に指示。
なにぶん36名もの集団なため、私の目が届くのはせいぜい先頭の2班までだ。
自分のガイディングの限界を感じると共に、もっと最良の方法は何だろうか、と考えてしまう。
ハシゴ段の後は、油断のならない滑りやすい沢筋となる。
一度先頭の班を砂防ダムの休憩地まで下ろし、私は遅れている子供のところへ向かうため再び登り返す。
ショートロープ方式ではクライアント、ここでは子供が道を先行することになる。
山に慣れない人間は、先行させるよりガイドが先導すべき、と過去のツアー登山から思うことがある。山道に慣れていない人間は、「どこをどう歩けばよいか」すら戸惑っている状態だからだ。
遅い子供の前にぴったりと着いて、歩くコースを示す。
休憩地の砂防ダムが見え、元気な子たちが追い抜いていくが「気にしない!マイペースで行こう!」と声をかける。
湯殿山御神体に至る道も片側が沢に切れ落ちている道のため、注意を促してから出発。
御神体参拝所の駐車場経由で湯殿山神社にたどり着く。
先頭を務め終えた安堵の気持ちも大きかったが、何より子供達が頑張り通してくれたこと、子供達の間に入って歩いてくれたスタッフ皆さんの尽力が大きいことを感じた。
湯殿山神社から水沢温泉で皆で入浴、その後キャンプ地に戻る。
今日の夕食は自然の家厨房の小松主任のおかげで、大変美味な豚汁とごはんが既に用意されていた。
小松主任の一言、「今日は俺はサポーター(ボランティアスタッフ)で来てるからね」に感動。
山形県朝日少年自然の家は、こういった方々に支えられてるんだよ、と、山形県内の自然の家統廃合を画策する山形県の役人共に小一時間ガツンと言いたい。
夕食の時間、既に班付リーダーに甘えて眠り込む小さい子もいる。
すーさんや彦さん、石井氏などメインスタッフは既に明日の川遊びの打ち合わせで忙しい。
私はすっかり気が抜けてしまったが、スタッフの先生方にとってはキャンプはまだ始まったばかりなのだ。
そして夜。
ふりかえりの時間、子供達の反応は・・・
夏のリフトに初めて乗った。
リフトに乗るのが初めてだった。
山頂まで行けて嬉しい。
みんなで励まし合って頂上に着いた。早くおにぎりにかぶりつきたいと思った。
登りきったときの笑顔が良かった。
登った甲斐があった。
などなど。
今回班付リーダーを務め、心理学に詳しい田中先生からは「子供達の口から何々し甲斐があるって言葉がでるのは素晴らしいですよね」と言われる。
私も一言求められたので、子供達には「今日山に登れたのは、今周りにいる仲間達がいるからだよ」と話した。
このふりかえりの時間を終え、スタッフの先生方に挨拶して私はキャンプ場を去った。
長期キャンプは始まったばかり。子供達には素敵な経験を積んで欲しい。
私も来年に向け、まだまだガイディングを磨かなければならない。
今日のガイド、「あと少しで頂上だよ」「少しだけ岩のたくさんある所下るよ」と言い続けた私に最もウケた子供たちの言葉は、
『大 人 の 「 も う 少 し 」 は 結 構 長 い 。』
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コメント
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すごくいいね。
投稿: 陸上競技部監督 | 2007.08.03 10:07
海外の山登り考えるより、子供達に元気もらった方がいいわ~と考える今日この頃です。
投稿: 聖母峰 | 2007.08.04 22:59