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秋の月山 九州の女性は世界最強

本日のクライアントは九州某地区の16名のおばさま方。
あるスポーツクラブの山好きなグループである。
月山の庄内側からの往復登山。
前日、団体の引率者に電話を入れ伺ったところ、メンバーの最高齢は80歳とのこと。
いつものガイド装備に携帯型酸素ボンベも加える。

張り出した高気圧の影響で、昨日に続き奇跡的な晴天。
何より、鳥海山が今日もくっきり見えるのは驚きだ。
紅葉にはまだ早いが草紅葉は始まり、花もエゾオヤマリンドウやミヤマリンドウがお客様たちを楽しませてくれた。

この団体の雰囲気に気づいたのは、中間地点の仏生池小屋で休憩していたときだ。
華奢な体格で活発そうな一人の女性が私に近寄り、
「あの人のペース遅いんですよね。みんな思ってるんだけど誰も言わないし。その辺なんとかして下さいよね」
と、小声で言われる。
あの人、とは、私の後ろにつかせている80歳のおばあさんの事である。
はいはい、と笑顔で返事しつつ、「んなもん聞けるわけねーだろ」と思う。

休憩を終えて出発。
月山庄内側は山岳宗教の「講」の方達がもっとも多く利用するルートである。
全体になだらかであるが、その9割は石畳、火山岩の積み重なった道である。
平場にさしかかると、パーティーの後方から
「平地は早く!」
「もっと早く!」
と、九州弁で怒鳴り声がする。
声の主はさっきの華奢なおばはんらしい。
私の後ろを歩く80歳のおばあさん、彼女のうしろにはパーティーでも温和な方々がついており、
「自分のペースでいいのよ」
「あの人はいつもああいうこと言うのよねえ」
と、私が口を挟む隙もなくおばあさんを優しくフォローしている。
やがてコース中急な岩の登りになる「行者返しの坂」にさしかかる。
その昔、役の小角が山の神に「修行が足りませーん」と追い返されたという伝説のある岩場だ。
「さあて、誰を返そうかな」
と、怒鳴り声おばさんの声がする。このあたりから私もプチッとくる。
「はい、ここが行者返しの坂でーす。勝手に帰らないでくださーい。私はみんな頂上につれてきまーす」
と皆に声をかける。
さっきの怒鳴るおばはん、いつのまにか私の後ろにぴったりくっついている。
私は無視して、あくまでも80歳のおばあさんのフォロー。
登りやすいコースを指示しながら、おばあさんに密着して直上。
行者返しの坂からは再びなだらかな登り。
そのなだらかなコースを見た怒鳴るおばはん、
「あ、これなら大丈夫ですね、もっと遅れるかと思ったもので」
あんたにゃいわれたくねーよ。
頂上稜線に続くモックラ坂を越え、頂上はまだかまだかと急く皆さんに、
「頂上はお社が見えます。お社が目印ですよ」と念を押す。
あいかわらず怒鳴るおばはん、
「もっと早く!」
「眠ってないかー!」
と後ろから叫んでいる。
80歳のおばあさんをフォローする人達が
「あんたこそ寝てなさいよ!」
と言い返す。凄い不協和音(笑)。
どうも怒鳴るおばはん、この団体の中でも「とんでもないことをはっきり言う人」というキャラクターで固定されているらしい。
80歳のおばあさんをとりまく人たちは本当に優しい。
怒鳴るおばはんが何か言う度、
「さ、上をみてみましょう。」
「あそこ、紅葉が綺麗よねー。」
とさりげなく注意をそらしている。

頂上に到着、おきまりの写真撮影を終え、すぐ下山にとりかかる。
私の懸念は80歳のおばあさんの足が下山に耐えられるかどうか。
怒鳴るおばはんの嫌みは相変わらず続く。
仏生池小屋にさしかかろうとする頃、仏の大滝といわれる(推定)私もブチ切れかかる。
ここで迷う。
皆は晴天に恵まれたこの登山を本当に楽しんでいる。
私がキレれば、怒鳴るおばはん、80歳のおばあさん双方が気分を害する。
このパーティー、明日も観光で山形をまわるのだ。
そうこう迷っているうちに仏生池に到着。
「はい、○○のみなさん、ここで休憩でーす」
と休憩を促すと、怒鳴るおばはんは
「私は○○の団体じゃないからね」
と言い、先に行ってしまう。私は無視。
あー、唇ヒクヒクさせながら月山登るのも久々である。
休憩中、みな2、3人のグループに分かれて仲良くおしゃべりして休憩しているのに、怒鳴るおばはんは一人だけ、仏生池小屋の少し先で休んでいる。
ああ、この人、なんだかんだ言いながら、「一人」なんだな、と感じる。
休憩が終わり出発。
少し離れたところにいた怒鳴り声おばはんにわざと近づき、
「お待たせしましたね。さあ出発しましょう」
と笑顔で言ってみる。
「勝手に先に行っててすみませんね」
と殊勝な返事が返ってくる。
そうなのだ。
結局、この人はこういう性格として団体の中で認識され、みんなそれを受け入れている。
さっきはやはりキレなくて良かった。
しかし、チームビルディングとして必要なことは何なのだろう。そんなことを考え、下山を続ける。
80歳のおばあさん、彼女自身は達者な方であった。
仏生池小屋から休憩無しで8合目駐車場に帰着。
今回のガイドは晴天に恵まれたのが良かったのであって、ガイドが良かったわけではない。
そんなことを考えた。

駐車場からバスで皆さんが宿泊している天童温泉を目指す。
バス出発後、バスの中は
「ビール下さい!」
「ビールおかわり!」
「はい、誰かチョコ食べない!」
「明太子煎餅あるよ!」
・・・週末の居酒屋もかくやと思われる騒ぎ。九州の女性は世界最強。
遠足のような騒ぎも一段落したころ、次は携帯の着信音や発信音の連続。
皆さん知り合いや家族に下山を連絡しているのだ。
私の後ろのシートの女性が旦那さんらしき人に
「そう、月山から下りたところ。とっても綺麗な山だったのよ」
とっても綺麗な山と聞こえた時、なぜか嬉しさがこみ上げる。
ああ、私はやはり月山が好きなんだ。
そのことを再認識した一瞬だった。

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コメント

[聖母峰]さん、こんばんは。
ガイドさんも大変ですね。
文面から察するところ、9/24、皆さんと月山でお会いしてますね。仏生小屋の上で。
こちらが下りだったので道を譲りました。
福岡県のスイミングクラブの面々、「いつも水の中だけど今回は山」という会話をしました。皆さんとても元気に見えました(元気すぎ?)。

投稿: bin | 2007.09.28 22:03

re:bin様
 当ブログをご覧くださり、ありがとうございます。
 当日は道をお譲りくださり、ありがとうございました。(団体を引率する際、特に混んでいる月山ではすれ違いに気を遣うものでして)

<<皆さんとても元気に見えました(元気すぎ?)。
見えただけでなくてホントに元気な方たちでした。ちょっと分けてもらいたいくらいに(笑)。

またどこかでお会いする機会がございましたら、どうぞよろしくお願いします。

投稿: 聖母峰 | 2007.09.28 22:35

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