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【書評】ひび割れた晩鐘 

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ひび割れた晩鐘 亀山健太郎・著 本の泉社

結論から書く。
すべての登山者・クライマーはこの本読め。

著者の亀山氏は平成17年、丹沢・源次郎沢F5で転落、両足首解放骨折の重傷を負う。この事故において沢水を介して感染症にかかり、両足切断の危機を『イリザロフ法』という治療法で克服する。

この本において山の場面は冒頭に簡潔に記されているだけで、この『イリザロフ法』による治療法、そして入院生活の克明な記録が大半を占める。それ自体が貴重な記録として、遭難事故に対する啓蒙となっているのだ。
筆者が負った怪我は、転落現場の沢から足の骨片を拾い上げるような、相当な解放骨折であった。著者の筆はあくまでも冷徹に怪我の模様、治療の模様、入院の模様を記録する。

特筆すべきは、入院生活に関するあらゆる事・・・入院費用から保険、糞尿処理、医師・医療スタッフとのコミュニケーション、見舞客と見舞い品に至るまで、ありとあらゆる事が記録・観察されていること。
山野井泰史氏のギャチュンカンによる凍傷・再起の記録に多くの人々が喝采し感動を受けたとネットで感想を拝見するが、それならば亀山氏のこの本は山野井氏の記録以上に貴重なものとして大いに取り上げられるべきであろう。
なぜならば、亀山氏の事故は我々市井の登山者においていつでも起こりうる可能性のある事故だからだ。
筆者はまえがきで語る。
『そして何より、治療とリハビリで、残り少ない貴重な時間を無為に過ごさなねばならない。一瞬の油断で起きた事故が、本人はもとより家族を巻き込んで、本来あるべき幸せな余生に不幸せな波紋を広げていく。』 
著者は登山歴六年とのことであるが、その素晴らしい洞察力は山の本の分野に希有な記録を残してくれたと考える。
 実際に事故に遭えばどうなるのか。
 著者の治療体験は、過去の山岳書やマスメディアでは知ることのできない「遭難の現実」を突きつけてくる。
 書店で、図書館で、この本を見つけた方はぜひ一度ご覧いただきたい。

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