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二人のノエル 【書評】ヤングハズバンド伝

Yaアジア探検史の大家・金子民雄氏の真骨頂ともいえる大作。
まあ過去に当ブログではフォートナム・メイソンの訳で金子氏を茶化した記事を書いてますが、もちろん探検史の大先達として尊敬しております。

 さて、私にとってヤングハズバンドといえば、学生時代にろくでもない日本語訳の迷著、今は絶版となった角川文庫の「カラコルムを越えて」を読んだくらいですな。探検家ではなく、チベットで虐殺行為を繰り広げた軍人として認識していたのですが、『ヤングバズバンド伝』は大いにその認識を変える本でありました。
 この本の内容については、私など足下にも及ばない日本山岳会あたりの秀でた研究者たちの方々にそれぞれ思うところはあるでしょうが、ヤングハズバンドもイギリス、ロシア、シナ、チベット、各国の思惑が絡み合う中央アジアという魑魅魍魎の世界に生きる軍人という名のサラリーマン、という印象を受けました。
 ロシア人と国を背負った互いの立場を憂いつつ、親交を確かめ合い分かれるシーンなど泣けるところですが、実はそのロシア人に退却ルートを書類上閉鎖されていたことが後々判明するなど、いっぱい喰わされる経緯もあったりして、まあ私など鬱になりそうですな。

 さて二人のノエルと表題に書きましたが、この本の後半を占めるのはおそらく日本人にはあまり知られていないであろう、1920年代のチョモランマ英国隊のドタバタスキャンダル劇。
 ノエル少佐なる人物が登山隊に関わり、登山記録の映画制作会社を立ち上げ、チベット僧をヨーロッパに呼び寄せ上映会・講演会などで演舞のデモをやったことが外交問題に発展します。
 このノエル少佐、本名はJohn Baptist Lucius Noel (金子氏の著書ではG.B.L.ノエルと表記)、この本読んでいて少し登山史に詳しい方ならどきどきすると思いますが、あのマロリーらを最後に目撃し、晩年は来日も果たしているノエル・E・オデル(Noel Ewart Odell) 氏と混同してしまいます。
 二人は別人で、『ヤングハズバンド伝』ではノエル・E・オデル氏は一カ所にだけ「オーデル」として記されているだけですが、やはり日本の山岳関係者にとっては1920年代のイギリス隊の「ノエル」といえばノエル・E・オデル氏を思い浮かべる人が多い(はず)ので、注釈が欲しいところ。

 まあノエル氏表記のことは些細なことでして、晩年のヤングハズバンドの御乱交も漏れなく書いたこの本、金子民雄氏も後書きにその心情を吐露していますが、未公開資料を巡って長い年月を重ね、地道な調査活動を継続してこられたことにはまことに頭が下がる思いである。
 この本に描かれているのは探検家、軍人ではなく、人間としてのヤングハズバンドである。中央アジア・チベットに関心を持つ者ならぜひ一度お読みいただきたい。

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