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登山の悦びを教えてくれた人

訃報は突然にやってきた。

91年、シシャパンマ峰遠征を共にしたOBのTさん。

遠征当時48歳の最年長隊員。
生意気盛りの私は、「登頂もおぼつかないのに、どうして登山隊に入れ込むことができるのだろう」というのが、心の奥底での正直な思いだった。

そして登山活動。
Tさんの存在は、鬼の○○と呼ばれるF川OBを隊長に擁する隊の中では、まさに雰囲気を和らげてくれる存在であった。
ある日、私は中間キャンプを最高地点として下山するTさんの付き添いとして、エボガンジャロ氷河を二人で下降することになった。

91年当時、シシャパンマ峰はまだ公募隊でにぎわうこともなく、入山していたのは私たちの他に長野県隊、バスク隊だけの静かな山だった。
エボガンジャロ氷河の源頭に立つと、見事な氷河の流れが一望できる。
そこでTさんは立ち止まり、私にではなく、遙か彼方に流れる氷河の方を向いて独り言のようにこうつぶやいた。

「僕はここに来られて幸せだなあ」

不動産業を営んでいたTさん、携帯電話も一般的ではない当時、自動車の車内に高価な自動車電話をとりつけ、チベットのラサでも国際通話で取引先と連絡をとっている仕事ぶり。
金銭には不自由してない人が、こんな荒涼たるヒマラヤの高所でつぶやいた言葉。

「僕はここに来られて幸せだなあ」

人の数だけ価値観が存在し、同様に登山にも様々な価値観があるだろう。
私はTさんの言葉を聞き、Tさんのような、そんな言葉が言える登山を目指したい。
そう思った。

故人のご冥福をお祈り致します。

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