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商品スポーツ事故の法的責任

Shouhinhyoshi 『商品スポーツ事故の法的責任 潜水事故と水域・陸域・空域事故の研究』 中田誠著 信山社 2008年出版
山形県立図書館でスポーツビジネス関連の図書を検索中に見つけた本。
この本はダイビング事故事例をメインとした内容であるが、副題にある「陸域」とは登山ツアー、「空域」とはパラグライダーを指している。

 「商品スポーツ」とは聞き慣れない方もおられるだろう。
 この本によれば、商品スポーツとは次のような定義である。

 『一般人に対してその指導や案内(ガイド)または相手などをすることで経済的利益を得ることを目的として販売されるスポーツプログラムと役務を商品スポーツと言う』

 先のトムラウシ大量遭難の報告を受け、ネット上では「山の世界に商業が入ること自体が間違い」という主張をされる方がおられるが、そういった頭の中が夏の鳥海山のようなお花畑な方は現実を知らないお子様なのだろう。
 この本では「山域での商品スポーツ」と題して章立てされており、代表的な登山ツアーの事故例と法的な事項が掲載されている。
 概要を紹介すると、

 1.法的責任
  (1)民事責任
    五竜遠見雪崩事件(県の責任)
    大日岳雪崩事件(国の責任)
  (2)刑事責任
    ニセコ雪崩事件(ツアーガイドの法的責任)
    トムラウシ登山遭難事件(ツアーガイドの法的責任)
    羊蹄山ツアー登山遭難事件(刑事および民事訴訟顛末・ツアー登山添乗員の法的責任)
    屋久島沢登りツアー死傷事件(ツアーガイドの法的責任)

 以上の事例が紹介されている。
 著者自身があまり登山の現状をご存じないせいか、「散策登山」という言葉が多用され、

 『登山には、特別な訓練が必要な冬山登山などのように、その致死的な危険性が社会的に認知され合意されているものがあるが、商品スポーツである商品登山では、積雪のある雪中散策登山を含めて、誰でもできるものとして、その登山プログラムを、特別な訓練のない一般向けに商品化して販売している。』

 と述べられている。公募高所登山や登攀ガイドのセンセイ方が目指しているようなヨーロッパ系のガイドクライミングは眼中にないようだ。
 しかしながら、前述の遭難事例について法的解釈をわかりやすく紹介されている。
 またこの本の大部分を占めるダイビング業界の実情・事故例については、山岳関係者にも参考になるであろう。(ちなみに私自身もダイビングのライセンスは持ってるので興味深く読んだ)

 トライアスロン競技、そしていまだに登山関連の行事において自己責任の名の下にいわゆる免責同意書を求められる場合があるが、法的事例に関して少し詳しい方なら無意味な文書であることはご存じかと思う。
 同書において、ダイビングのライセンスを発行する機関「PADI」の免責同意書を分析し、

 『業者が消費者を殺害しても免責が認められるように消費者に対して要求していると受け取れる可能性がある』

 と指摘している。
 また、ダイビング業界に所属するガイドに関して「兼業ガイドはプロとしてのレベルが低い」と明記されており、兼業山岳ガイドの自身としては大変耳が痛いところである。

 ダイビング業界と現状の山岳ガイド業界ではその生い立ち・在り方は全く異なるが、問題意識を持つ方ならそこに共通する問題点を汲み取ることができ、同書は参考になるのではないかと思います。

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