死者と出会う山
話は先週の温海さくらマラソンの日にさかのぼる。
マラソン後、庄内は鶴岡市の湯田川温泉に立ち寄った目的は、ある里山を確認するためであった。
庄内には『亡霊供養』(参照文献の表現による)の山があるという。
それが「三森山」(さんもりやま・標高121m)だ。
文献によれば、昭和初期頃まで、八月の決められた日に三森山に登れば
●肉親の仏の声を聞くことが出来る。
●死に別れた親兄弟とそっくりの人と会うことが出来る。
といわれ、
●仏のある家からは一人が必ず登らなければならない。
●親が生存中の者は登ってはならない。片親・両親と死に別れた者だけが登る。
という風習があったという。
死者の山として知られる青森の恐山などは、イタコという仲介者を通じて死者と出会う訳だが、この山では死者そのものと出会うことができる・・・という言い伝えである。
この山の存在を私はある文献で知ったのだが、ほとんど紹介されている本は無い。観光地である湯田川温泉近辺の里山は遊歩道があるのだが、湯田川温泉北方にあるこの山には全く触れられていない。
そのことがますます私の興味を駆り立てた。
湯田川温泉でマラソンの汗を流した後、地形図を片手に三森山と思われるピーク周辺を車で走る。
登山口らしきものを探すが、それらしきものは見あたらない。
文献では『付近にはたくさんの墓石が並んでいて、見るからに仏の山というにふさわしい感じである』と記述されている。
私がみかけたものは・・・・
数軒立ち並ぶ、巨大なラブホテル群であった。_| ̄|●il|li
山頂付近に目をやると、早春でまだ葉が付かず見通しの良い林の中に、立派なお堂が見える。あのようなお堂があるということは、しっかりした道があるはずだ、と推測する。
やがて林道らしきものをみつけ、そこに車を進めると、畑仕事をしているおばあさんがいた。
こういうときは文献より地元の人に話を聞くに限る。
おばあさんに三森山の位置を尋ねると、
「あれと、あれと、あれだ。」
と三つのピークを指し示してくれた。
地元のおばあさんに教えてもらった、「三森山」または「もりのやま」。
山の様子について聞く。
普段は登る人はいない。
人が登るのは八月の裏盆の供養の日。
もう世代替わりによって、登る人も今は少なくなった。道も荒れてしまった。
昔は水沢駅(現・JR羽前水沢駅)から歩いて参拝に来る人が多かった。
とのこと。
おばあさんに御礼を言い、その場を立ち去ることにした。
この世には、よそ者が安易に足を踏み入れるべきではない里山もあるのだ。
そう考え、私は帰宅すべく国道112号線に車を走らせた。
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後日談
これだけの特異な風習は何らかの形で紹介されているはずと思い、改めて文献資料をしらべてみると、現在は「モリノヤマ信仰」「モリ供養」の名称で幾つか紹介されている事を知った。
参考サイト
三森山で「モリ供養」 鶴岡市清水地区 供物携え山道登る 全国的に貴重な民間信仰 by 荘内日報2008.8.24
厳しい禁忌のあった昭和初期と異なり、現在は多くの子供や若者が関わる伝統行事として捉えられているようだ。
標高120mほどの里山に、死者と生者、古くからの風習が息づいている。
それは人々の生活に深く関わる、里山ならではの魅力でもある。
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