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村山葉山『十部一峠コース』はつまらないコースなのか?

土曜日、村山葉山のガイド山行を控えて某所に待機。
旅行社の添乗員から電話連絡が入り、お客様の乗ったバスのエンジントラブルで山行キャンセル。
まあ、こんな日もある。
出張とガイド山行とその準備で精神的に余裕の無い日が続いていたので、空いた時間は天からの授かりものと割り切る。午前中仮眠を取り、午後から今まで相手できなかった穴埋めをすべく、子供達を遊びに連れて行く。

さて、この村山葉山について語っておきたい。
月山に隣接し、月山よりも約500m程標高の低い村山葉山。
その低い標高ゆえ、月山が雲に隠れている時でもたいていそのどっしりした姿を見せており、山形盆地に住む人間にとっては、日常目にする機会の特に多い山ではないだろうか。
人々の目に触れると言うことは人々の信仰の対象となることである。
事実、村山葉山はかつて出羽三山の一つに数えられていた。(後に湯殿山にとって替わられる)

村山葉山には、その信仰の歴史を象徴するように幾つかの登山ルートがある。
最短で頂上に至るのが、寒河江市・大蔵村を結ぶ十部一峠(じゅうぶいちとうげ)から登る登山コースである。

 この十部一峠コースに関して、山形県の登山コースについて数々のガイドブックを記している山岳写真家・高橋金雄氏の評価は手厳しい。
 山と渓谷社・旧版のアルペンガイド「東北の山」や旧版「分県登山ガイド・山形県の山」では『みるべきものがない』など散々な評価である。

 だが果たしてそうなのだろうか?

 誤解なきよう書いておくが、長年にわたり東北各地の登山ガイド本を記してきた高橋金雄氏の実績は尊敬しているし、なにより私が以前所属していたガイド団体においてお世話になっている方でもある。
 だが、村山葉山の十部一峠コースに対する評価は納得し難いものがある。

 十部一峠から葉山を挟み、葉山東方に「山の内」という集落がある。
 この集落から葉山に至る「山の内コース」は、急登と岩場の通過を含んで手応えがあり、かつては山形の最上地方・戸沢藩藩主も参拝したという歴史のあるコースだ。
 この出発点となる「山の内」集落の人々、現在では、葉山参拝登山の際には車でわざわざ十部一峠に向かい、この最短コースから村山葉山に登山して参拝するという。(東北芸術工科大学の民俗学調査として行われた聞き取り調査の報告書より)

 今年に入ってから、私もコースを変え幾度か葉山に登った。
 葉山の頂上稜線には幾つもの池溏が存在し、それ自体が人々の参拝の対象となっている。
 ある日の葉山登山の事。
 私が雨の中その池溏にたどり着くと、水辺のほとりに火の消えたローソクが残されていた。
 21世紀の今もなお、葉山は人々の厚い信仰心の対象となっているのである。

 日本全国には、山岳信仰の山が幾つも存在する。
 それらの山々、そしていろんな登山コースが栄え、滅んでいった。
 山岳信仰の登山道は、時代の変節とともにその姿を変えていくということは、今更言うまでもない。
 20世紀に入り、自動車の普及とともに、ある集落の人々がわざわざ山を大きく迂回して、頂上に最も近い登山コースを選択する。
 その背景には集落の人々の高齢化という現実があり、そのためにより近いコースから頂上をめざすという理由がある。それを加味してなお、村山葉山の十部一峠コースは、自動車という現代の利器の発達とともに利用され始めた「新たな」信仰の道と言えるのではないだろうか。

 今もなお稜線の池溏にローソクの灯火を捧げ、参拝する人々の信仰の対象となる村山葉山において、「距離が短い」「景観にみるべきものがない」ことだけを理由に、高橋氏はあまりに十部一峠コースを低く評価しすぎではないだろうか。(新版・分県登山ガイド山形県の山では主観的な文章を排し、客観的な記述のみ記載されている)

 十部一峠コースは現代人の葉山参拝の信仰心を支える、重要な登山道と私は考える。

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コメント

どこにでも【清水】はありますが、村山葉山の【ぶな清水】【長命水】は近くに行った時は必ずいただいてきます。この水で緑茶を入れるととても美味しいです。

あ、『カツ断層丼』見つけましたeye

投稿: は。 | 2010.07.06 20:25

re:は。様
 山の内集落の【ぶな清水】、奥深いところにあるわりにとても整備されていましたが、やはり美味しい水ですね。

<<この水で緑茶を入れるととても美味しいです。
私も、お茶いれると美味しいと言われて笹谷峠の水を汲んでいた時期がありました。山の水は緑茶にあうんでしょうか。

『カツ断層丼』見つけました?(笑)
この前また店の前通ったら、まだ営業はしている様子でしたので、今度機会があれば看板じゃなくて味見てみたいと思ってます。

投稿: 聖母峰 | 2010.07.08 22:30

登山コースの素晴らしいとかつまらないとか何を基準にはんだんするのでしょか。私もこの十部一峠コースを利用します。なぜなら葉山に登ることよりも奥の院から月山をじっくり眺める為に最短で楽だからです。
何時間も月山を眺めた後、肘折の温泉で汗を流してくるのが楽しみです。機会があれば下の登山口からも登ってみたいと思います。それぞれの目的、体力に合わせてコースを選び自然を楽しめれば良いのではと考えいます。

投稿: 時遊人 | 2010.07.13 12:32

re:時遊人様
 レスが遅れまして失礼しました。

<<それぞれの目的、体力に合わせてコースを選び自然を楽しめれば良いのではと考えいます

 ご指摘の言葉、その通りですね。
 現実には平ヶ岳の「中ノ岐林道」コースのように存在自体が論議になる登山道もあるわけですが、時遊人様のように人により様々な楽しみ方があることそのものは尊重されなければならないと思います。

 ふりかえって、山岳信仰の登山道だからといって過度に重視するのも偏った見方になりがちですね。私もこれからいろんな山の登山道を歩きたいと思っておりますので、謙虚に登山道に向かいたいと思います。

 肘折温泉、いいですよね。
 私の小さい頃(小学生の頃はこれでも身体が弱かったもので・・・)の湯治場です。

 またよろしければ当ブログご訪問いただければ幸いです。

投稿: 聖母峰 | 2010.07.17 02:53

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