無許可登山はいかんよ 【「対立の山」8/20改題および修正】
トルコ領内に位置するアララト山(標高5137m)。
「ノアの箱船」伝説で知られる山ですが、この山に登ったグループを巡ってトルコ・アルメニア両国のメディアで問題になっています。
Turks threaten to kill Armenian climbers on Ararat by NEWS.am2010.8.10
(トルコ人、アララト山のアルメニア人登山者を殺すと脅迫)
アララト山頂上に立つチーム「Ararat11」の面々。
左がアルメニア国旗、右がナゴルノ・カラバフ国旗。
ナゴルノ・カラバフはもともとアゼルバイジャンの自治州でしたが、多数のアルメニア人が居住しています。
アララト山はトルコ領内に位置していますが、もともとはアルメニア人が多く居住していた地域で、隣接するアルメニア国民にとっても「心の山」となっています。
歴史に詳しい方ならご存じかも知れませんが、20世紀初頭、オスマン・トルコがアルメニア人に対して加えた迫害・虐殺事件(トルコ側は公式には否定)がアルメニア人にとっての大問題として苦い記憶となっています。現実は苦い記憶どころではなく、この虐殺を発端に民族系テロ組織が幾つか誕生し、近年までトルコ政府の要人・外交官に対する暗殺・テロが起きていました。
この問題の発端となった「Ararat11」は、アメリカ、カナダに住むアルメニア人グループです。
トルコのメディアも検索してみましたが、トルコ側の報道では彼らが無許可登山であることを問題視しています。
前述のリンク記事はアルメニア系メディアですが、アララト山山麓のAgri村の住人Mehmet Eratのコメントとして、事実関係を確認していないが、アルメニア人の二つの国の旗がアララト山頂上に立てられたことが発覚したならば、住人達が登山者を「山に埋めるだろう」と語っています。
この件に関しては、アルメニア系のメディアに扇情的な記事が目立ちますが、トルコ・アルメニア間の感情対立が山頂に旗を立てるという行為を通じて浮き彫りになった出来事でしょう。
英字メディアでは最近、パレスチナとイスラエルのクライマーが共にモンブランに登り、平和運動の象徴として取り上げられていましたが、現実にはアララト山のような例が存在する訳です。ま、中には「FREE TIBET」なんて旗上げられたらどうしよう、とばかりに山自体をシャットアウトする中華人民凶悪国みたいな例もあるわけですが。
8月。
日本では「戦争」「平和」とマスゴミと市民平和団体(笑)の皆さんがお元気な季節。
平和あっての登山と言う人は多いですが、その登山が民族対立の火種になっているという現実を、へーわな登山者の皆様はいかがお考えなんでしょうか。
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【追記】
当ブログをご覧になった方からメールを頂戴いたしました。
トルコ在住の経験を持つ方で、トルコ人のご友人にも確認していただいたとのこと。
同国メディアでは今回のアルメニア系登山者に対する避難は無許可登山に対するものであり、トルコ当局は「登山者が記念写真を撮り、踊ったり歌を歌い、旗を立てたことを主に捜査したらしい」とのことです。
またトルコのメディアにおいても、「旗を立てることはどの登山家も行うことで、旗を立てたからといって国を征服されたわけではない」としてトルコ国内でも議論になっているとのこと。
長年テロやクルド問題を抱えているトルコで無許可登山に対して脅迫的な言葉が出たとは考えにくい、アルメニアのメディアが扇情的に騒ぎ立てているのでは、というご感想を頂戴いたしました。
この件に関しては私も幾つかのメディアを検索しましたが、アルメニア系メディアがえらく「脅された」「脅迫された」と報道しているのに対し、トルコ側の報道では「無許可登山」が問題になっています。
というわけで、当初のタイトル「対立の山」から「無許可登山はいかんよ」に改題し、内容も修正を加えました。
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