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或る『ツアー登山』の遭難死

思うところあり、昨年のトムラウシ遭難関連の記事を改めて読解中。

 本質的な問題ではないのだが、トムラウシ遭難事故を巡るいくつかの記事・レポートにおいて、「ツアー登山は日本独自の登山形態」という趣旨の文章が見かけられる。
 山の法律学で知られる溝手弁護士しかり、山岳ライターの羽田氏しかりである。(羽田氏の場合、「日本のツアー登山のような形態の山登りも一部の国を除いてほとんど無いそうだ」という表現を用いている。)
 
 だが実際は異なる。
 今夏、中国・北朝鮮国境の山・白頭山(長白山)で発生した、韓国のツアー登山事故を紹介しておきたい。

[遭難詳報] 死を案内したHツアーの白頭山登山 by 月刊「山」2010年9月号

以下記事引用開始
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8月8日、中年女性死亡…悪天候の中、お粗末なガイドで全滅寸前
国内旅行会社らの無責任な低価格競争、事故の要因は残ったまま

 白頭山(ペクトゥサン)登山中の韓国人女性キム某さん(51歳)が死亡した。 中国現地病院での診察結果、死因は心不全とされた。しかしキムさんと登山を共にした一行は、低体温症が死因だと主張した。 遺族側は「大手旅行会社のHツアーを通じて参加したし、普段は心臓疾患どころか病院に行くこともなかった人がなぜ遺体になって帰ってくるのか」と号泣した。

 キムさんはどのようにして亡くなり、大手旅行会社の白頭山(ペクトゥサン)登山の陰に隠された真実は何か、調べてみた。以下はHツアーを通じて登山に参加した山岳会会長K氏と、登山を斡旋した旅行会社代理店社長H氏の話を総合した内容だ。


 A高校同窓山岳会34人は、8月7日朝、仁川空港を出発して延吉空港に到着した。延吉で観光をした彼らは白頭山近隣の観光ホテルで一泊した。翌朝縦走するためにジープに乗って天文峰山麓の駐車場に到着、時刻は午前8時10分だった。 同窓山岳会会長K氏は「山岳会で普段から登山に慣れた者だけ参加申請するようにして34人が集まった」とする。 旅行会社に白頭山、宗主山(チョンジュサン)登山ができるようオーダーし、Hツアー側はこれを受け入れた。 旅行会社を通じて登山ガイドが同行して説明をして引率すると期待したがそうでなかったという。

 K氏は「旅行会社を通して会員たち全員に一日かけて白頭山、宗主山登山をするということだけ知っていただけで、詳細な内容は分からなかった」とする。 しかも地図一枚与えてくれなかったし空港から一行を導いた女性ガイドは普段着でジープに乗って上がってきて、登山が始まるとすぐに帰ってしまった。 旅行会社代理店社長H氏が同行していたが、彼もHツアー本社を通じて顧客斡旋だけしただけで、白頭山は初めて、登山経歴もなかった。H氏は「私も白頭山登山は初めてであったし、コースを辿るのにHツアーに依頼したのだ」と伝えた。

 白頭山観光規定によれば、登山者20人当りに一人の中国人現地ガイドを雇用するようになっている。 34人だったから2人の案内人が同行したが、通訳がいないため意志疎通が全くできなかった。それでもここまできて行かないはずもない立場であるから、登山は始まった。当時の白頭山は厚い雲で覆われ雨が降った。 しかし登山をするのに支障をきたす程ではなかったという。

 鉄壁峰から天池に降りた一行は、龍門峰を登って登山を継続した。 白雲峰を通過して白雲峰と青石峰の間の渓谷に到着した時間がおよそ午後1時30分だった。 ここで彼らは食事をした。
 しかし8月の夏山を想定して準備した彼らにとって白頭山の寒い風雨は予想外であり、話が通じる登山ガイドがいないため、どれだけ歩いてきたのか、どこまで行かなければならないのか、が分からなかった。ここで先頭グループは食事をせず、すぐに青石峰を登って駐車場へ向かった。

 食事を終えた午後2時頃、青石峰に向かって登る頃には強風と激しい雨が吹き付けた。K氏の話によれば「韓国国内でいくつもの山を登ってきたが、本当にこのように強い風雨は初めてだった」という。女性たちは二人ずつ腕を組んで飛ばされないよう努力しなければならなかったという。代理店社長H氏は「70kgを越える成人男子が風に飛ばされるほどだった」とする。 青石峰を登って強い風雨と寒さに皆完全に疲労した状態であった。 がっしりした男性たちも、このあたりでは脚がふらつくほどだった。夏ということで防寒服を準備せず、Tシャツにウインドブレーカー、登山用雨具を着ている程度であった。「7~8時間は雨に降られ服はすべて濡れていた」という。

 中国人ガイドは先頭と最後尾に位置して人々を案内した。 先頭のガイドは食事もせずに長時間行動していたため、一行を案内する者は最後尾のガイド一人だけだった。 結局、最後尾のガイドが先に立って道のりを追った。
 しかし風雨はより一層強まって霧は濃厚になり、視界は4~5mしか効かなかったという。青石峰を出発後、一行の後方を歩いていた9人は先頭を見失ってしまった。9人の中には旅行会社代理店社長H氏が一緒にいた。彼は「4人ほどが一人では歩くことができない状態になり、行動食を食べさせていたら先頭の人々と離れた」と証言する。

 そのような渦中に摩天峰付近で鉄柵が現れ、慌てて道に戻った。この時、時刻は午後3時20分だった。30分の間歩き回ったが、戻ってきたところは同じ場所であった。リング・ワンデリングに陥ったのだ。ここで4人は歩く力を失い、倒れた。周辺に何かを覆っておいたビニールがあり、それを持ってきて分けて被った。2人は道を探し、残り3人は倒れた4人をマッサージしたり頬を打って彼らを起こさなければならなかった。
 
 この時、4人の状態は深刻だったというのがH社長の話だ。
 「幻聴が聞こえて、うわごとを言って、眠ろうとしていた」と、当時の深刻な状況を伝えた。彼も「私はここで死ぬんだな」と考えたという。代理店社長が携帯電話で数十回も通話を試みたが通じなかったという。
 人々が倒れてから2時間後、午後6時頃、なんとしても降りなければならないと考えた彼らは倒れた人を背負って引っ張ってして玉柱峰の下に下山したという。この時、キムさんは意識を失った状態にあり、二人が一番後尾で彼女を引っ張るようにして来る状況だった。

 後ろのガイドと同行したチームに山岳会長K氏がおり、彼らは午後5時頃、駐車場に到着した。30分経過しても後方の9人が到着しないため、長白山管理事務所の所長とガイドが登り、午後6時過ぎ、がすぎて結局遭難した山岳会員たちに会った。この時、駐車場管理事務所と電話を通じて彼らを救助するため何人か人員が必要なことがわかったが、救助隊を呼ぶには2時間待たなければならなかった。山岳会長K氏が男性会員たちと現地に向かおうとしたが、現地管理所から悪天候が激しくて行けないと出発を止められた。結局、現地ガイド6人を雇い、救助に向かうと、玉柱峰をすぎた地点でキムさんを除いた8人が震えていたという。

 K氏の話によれば「縮こまるように座ってふるえながら‘助けてくれ’と話した」という。女性2人、男性1人は低体温症でとても危険な状況にあり、残りの人々も当時の状況については一部しか記憶がないという。山岳会会長K氏がキムさんのいる所にたどり着いた時には、先に登ってきたガイドが彼女のそばにいたという。 キムさんは呼吸をせず、人工呼吸と心臓マッサージをしたが、回復しなかったという。

 疲れきったキムさんは三時間近くの間、強風と雨の中、服がすべてぬれたままで倒れていた。 同行した彼らは、キムさんが普段、国内の山では先頭グループを歩くほど体力があったし、心臓関連の病気は全くなかったとし、低体温症が死因だと確信した。 H氏は「4人が危篤な状況にあり、30分遅れていたら死亡者はさらに増えていた」と当時深刻だった状況を話した。
 山岳会会長K氏は「現地ガイドと言葉が通じず、どうにもできなかった。地図一枚も与えず登山に関する情報も一言もないなんてことがあるのか」と悔しさを炸裂させた。

今後も事故発生の可能性は非常に高い

 延辺で白頭山登山専門ガイドとして16年間勤めたL部長は、この件に関して「低価格競争が産んだ、予想された事故」と明らかにした。
「韓国人らを相手に白頭山観光を案内する旅行会社が15社あります。 この中でロープ、コッヘル、バーナー、非常用医薬品を50リットル以上のザックに入れ、安全に案内できる山岳ガイドがいる業者は、2社ほどだけです。」

 L氏は白頭山登山をしようとする人々が色々な旅行会社に見積もりを出し、少しでもさらに安いところを選ぶ状況から低価格競争が激しくなり、国内旅行会社でも韓国人ガイドが同行せず、現地旅行会社で朝鮮族ガイドが1人同行することになったと話した。この現地旅行会社も低価格競争によって専門的な登山能力を持ったガイドはほとんどおらず、買い物に誘導して売り上げを上げることにだけ汲々とするという。

 今回のA高校同窓山岳会のように、朝鮮族現地ガイドのうち半分程度は登山経験が無く、中国人ガイド二人だけ同行させて送りだすという。 今回の場合のように緊急事態が発生した場合、全く意志疎通にならない問題点がある。

 それでも韓国人らの事故が比較的に少なかったのは、山岳会で参加者を募集してくる場合が多く、韓国人の山岳会のリーダーが先頭に立って案内していたためだという。 L部長は「現地ガイドらのリュックサックを見れば、ヘッドランプ一つすらなく、何の登山能力もない人が多い」「顧客を募集して送りだす韓国の旅行会社社長たちも、大部分は白頭山を訪れたことすらなく、何の対策もなしに客を送りこんでいる」として旅行業界の安全に対する「不感症」を指摘した。 また彼は「ジープであっという間に高度を上げて登山するため、高度障害が現れる場合もある。非常時の対処能力がある山岳専門ガイドが要領よく顧客を導くのが重要だ」と話す。

 一方、遺族側は「普段持病はないのに心臓病と診断されたのが納得できず、解剖検査を依頼した」と明らかにした。また、Hツアー社側の誠意ある謝罪を期待したが「遺体運搬用棺が数千万ウォンがかかる」として「遺体運搬用棺を貸す」という返事がきたという。これに対してHツアー社広報部 チョン・キユン 部長は8月20日「現在、状況把握中のため、公式的なコメントは表明しにくい」とした。

 事故発生時の中国側の管理体制が整っていないことも問題だ。 中国人ガイドが体力低下した人の世話もせず、先立って降りて行ったことは誤りである。一番後ろでガイドの役割を務めなければならないガイドが自分の任務を果たせないのだ。中国側の受け入れ体制も粗末であることは明らかだ。

 白頭山の天池一帯は樹木もなく、晴天の日は視野が広々と開けている。しかし登山道が整っておらず、道標もなく、悪天候時には道を探すのが容易ではない。国内1位の旅行会社Hツアー社で34人もなる団体顧客をこういう危険な状況において、事故発生10日を越えても謝罪や立場表明もなく、遺族が本社を訪ねるとすぐに「遺体運搬用棺を貸す」と一見道義的であるが側面では正しくないという世論の見方だ。

 調べれば、これは低価格競争が呼び起こした予想された事故であった。 消費者の立場としては、どうせならさらに安い旅行会社を探すのは当然だ。 問題は、大小の旅行会社が増えて過度な競争に生き残るために基本を守らないことが一般化してしまったことだ。
 ショッピングを取り込んだ不快な低価格観光ツアーはここ1~2年だけの話ではない。 旅行業界自ら自浄できるラインを越えた。制度を整え、基本的な安全を無視して利益だけをあげようとする業界の競争に線を引かなければならない。

 キムさんは1男1女を苦労して育て、余裕ができたために初めて海外登山に参加したという。普段から登山を好み、初めての海外登山は民族の霊山・白頭山だった。大手旅行会社を信じて出発したキムさんは、残念なことに天池で遺体となって帰ってきた。

 旅行と登山は違うということを、一部の旅行会社は全く知らないようだ。登山には危険が従い、山で他人の安全の責任を負うということがどれくらい困難であるか。

シン・ジュンボム記者
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以上引用おわり

 テキストだけでは状況がわかりにくいので、以下に白頭山の地図を掲載します。
Hkmt
(図に縮尺の記載が無いので距離感がつかみにくいですが、図の天池の直径(東西方向)は約3.4km)

 亡くなったキムさん達が発見されたのは、出発した駐車場とは逆方向の玉柱峰であり、視界不良によって道に迷ったことがさらに一行の体力を奪ったものと推察されます。


 さて当記事の冒頭に述べたように、「ツアー登山は日本独自の登山形態」と考えている方がおられるが、それは誤りである。
 韓国の山岳雑誌ウェブサイトの広告欄には「ツアー登山」の広告が掲載されている。特徴的なのは、登山の対象は韓国最高峰のチェジュ島・ハンラ山、そして韓国の人々にとって民族の霊山・白頭山(長白山)のツアーが圧倒的に多い。そして最近は日本の「北アルプス」ツアーも目立つ。

 前述の記事を読んでいて、意思疎通のできない外国人(ここでは中国人)ガイドが引率という状況とはいえ、多くの方は昨年のトムラウシ事故との類似点にお気づきだろう。
 ツアー、ガイド、顧客、そして旅行社の体制に関しては昨年のトムラウシの事故に伴い様々な論議がなされているので、その議論はここでは割愛する。

 筆者が思うこと。
 現在、日本の地方自治体が韓国の登山熱に注目して盛んに登山ツアー誘致を行う動きを見せているが、こうした外国人による「ツアー登山」には、日本人によるそれとは異なるリスク、また日本におけるツアー登山同様のリスクいずれもが潜んでいることは、十分に考慮しなければならないであろう。
 そしてもっとも気になるのは、韓国の背後にある今や経済大国となった「発展途上国」中華人民共和国の存在である。中国は中国登山協会を中心に、国家が「登山管理法」の下にアウトドア・登山の指導者管理制度を作り、一部の中国人指導者はフランスのENSAにも派遣されている。しかしそれ以前に、無数の旅行社が登山ツアーを催行しつつある。
 はたして、経済発展著しい中国において、利益を求める旅行社が登山をツアーとして催行することと、中国国内における一般市民への登山の啓蒙が行き渡るのと、どちらが先であろうか。

 私個人は当ブログで前々から主張しているように、ツアー登山は今や登山の一形態であり、組織に関わらない一般市民を登山の世界に受け入れる、受け皿として存在すべきであると肯定的に考えている。
 今回の記事を読み、あらためて「ガイドの使命とはなにか」を考えざるを得ない。

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