映画『天脊』 ~人、何故に山へ登る~
世界最高峰を国内に擁する中国で、ついにチョモランマを舞台にした山岳映画が制作されました。
タイトルは『天脊』、英題は「THE SUMMIT」です。
《ストーリー》
登山家は皆、1つの残酷な「高山の掟」に直面する。それは、標高8000m以上の高所では、パートナーが事故に遭っても救いようのない場面に直面することだ。そこから生じる人間性と倫理の衝突と対立に、人は考えさせられる。
チベット登山隊が8000m峰14座登頂計画の登山活動中、登山隊の撮影技師の仁青はチョモランマのクレバスに転落、妻の徳吉、兄弟であり登山隊隊長の巴桑は断腸の思いで救助を断念して下山する。下山後、彼らを後悔と懺悔の念にとらわれ、仁青の息子・岗热(gang ren)に向かい合うことさえできない。
岗热は新世代の登山家で、彼はずっと父の死因を追及、チョモランマ登山中の父の死因を知った時、彼は危険を冒してチョモランマに登頂することを決意する。しかし、母の徳吉はあらゆる手段を尽くして彼が山に向かうことを阻止するのであった。
岗热のガールフレンドである卓嘎はカフェを売り払い、岗热と共に商業登山隊に参加することとなる。
そしてチョモランマの山中で、彼らは父親たちと同様に「高山の掟」に遭遇、彼らは困難な立場に立たされる・・・。
この映画の主演は、映画『可可西里』(ココシリ)で主役を務めた多布傑(デュオ・ブジエ)で、中国メディアでもそれが話題になっているようです。
出演者で注目すべきは、山岳ジャーナリスト柏澄子女史のブログでおなじみの、チベット族の女性登山家、吉吉が出演。
監督・脚本は中国映画界の新鋭・赵鹏逍。
赵鹏逍はこの映画について、こう述べています。
『チベット登山隊は8000m峰14座を全山登頂を果たし、これは世界的にも偉大な行為を完成した登山隊だった。それを達成するまでの喜びと悲しみが私を動かした。隊長の桑珠、故・仁那の未亡人であり北京五輪のチョモランマでのトーチ・ランナー、吉吉ら登山家たちと家族同様の付き合いの中で、私は繰り返して1つの問題を探究していた。「登山の意義は一体どこにあるのか?」 有名な言葉『山がそこにあるから』は決して真実ではない。それでは、人と自然との関係は一体どうあるべきなのか?』
監督・脚本を務める趙鵬逍は1969年生まれ、江蘇省出身。共産党幹部の家に生まれ恵まれた環境で育ったようですが、1988年に大学受験を放棄、6年かけて中国国内を旅して廻るという、変わった経歴の持ち主。その後、中国の名門・上海戯劇学院に学び、北京電視台に勤務後、これまた名門の北京電影学院に入学。
今回の『天脊』が制作2作目で、2007年~2010年の4年の歳月をかけて作られました。
私が注目するところは、中国において 個 人 の 創 案 で チョモランマを舞台にした山岳映画が作られたこと。大昔、中国のチョモランマ登山の記録映画の一部を見る機会がありましたが、アレはもう「毛主席と共産党のおかげアル!」といわんばかりのプロパガンダ映画でしたからね。
私もまだ本編を見てはおらず、メディアに流れる情報が頼りなのですが、主人公らが「商業登山隊」に参加という設定も、なかなか現代のヒマラヤ登山を反映しているようです。
監督・趙鵬逍がチベットに入れ込み(撮影期間中に例のチベット暴動があり、また趙鵬逍自身もチベットのナムツォで交通事故で瀕死の重傷を負い、人の生死について考えさせられたとのこと。)、映画制作時もすべてチベット語、役者も全員チベット族でかためたこの映画、なんとか見てみたいものです。
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