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四川省チョンライ山脈 阿妣2峰登頂レポ ~中国のアルパインクライミングの今~

去る三月、中国戸外資料網に読み応えのある中国人クライマーによるクライミングの記録が掲載されました。
四姑娘山を主峰とする四川省チョンライ山脈の鋭峰、阿妣(あび)2峰の登頂レポートです。
クライマーは徐老幺、默-竽(記事執筆者、ハンドルネーム)の2名。
以下、転載。

国内山友默竽徐老幺阿妣2峰登頂報告 by 中国戸外資料網2011.3.26
以下引用開始
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実際の登攀ルート
(訳注:summit①が阿妣1峰(今回の登攀では未踏)、summit②が阿妣2峰)

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実際の下降ルート

 阿妣山から下山して三日が経つ。徐老幺は再び阿妣山に登ることを考えるのだろうか。思うに、あの未踏ルートを思いついた興奮を隠せなかった。

 天候は良くない。私の夢を断ち切るかのように、これから4日連続して雪が降ることは間違いない。だが、高山への憧れは止まらない。
 周囲を見渡せば、そこにはただ、阿妣峰がある!
 ルートは氷雪が主となり、降雪の影響は岩場のルートを選択するより小さくない。

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 海抜5700mのチョンライ山脈・阿妣山(国内のクライマー顧銘の登頂記録では5680m)

 阿妣山は双橋溝から32kmの場所に位置し、海抜5700メートル。阿妣はチベット語で「末妹」を意味する。チョンライ山脈の奥深くで孤独に見張りに立つ、言い伝えの中では登攀困難の山とされ国内でも登頂記録は少ない。

 数週間前に、中国登山協会の馬博士が東南稜を偵察していた。私達は西面を攻略する。西面は既に偵察ずみのため、勝手知ったるところだ。目的は1、1峰登頂、 2、2峰登頂、 3、東南稜を下降して偵察する、である。

 今回の登山では全行程で全装備を背負うことが求められる。私達にとって重要なのは軽量化だ。
 成都の友人に電話をかけて阿妣山の登山許可を取得、私達は結斯溝から阿妣山にアプローチすることにした。

  登山計画

 第1日め,双橋溝~(バイク)~結斯溝~(徒歩)氷河末端BC
 第2日め 氷河末端BC~C1
 第3日め C1~頂上(1峰)~C1~頂上(2峰)~BC(南坡)
 第4日め BC(南坡)~紅松林~双橋溝
※私と徐は阿妣山に登頂したことはないため、実行程と計画は異なる


第1日め(2月17日)
 早朝に起床、パッキング。もともと頑健な徐老幺が装備を分担したこともあり、ザックは大変な重量になり、26~27kgはある。省くことも出来ず、出発。2台のバイクでスピーディーに結斯溝に向かう。

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 海抜3500mの牧場の柵で、バイクの行く手は阻まれた。

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クライマー徐老幺(左)、默-竽(右、本記録報告者)

 13:40、海抜3500mで牧場の牛柵に阻まれ、計画では最終下車予定地まで10数kmある。あとは二本の足で歩く。見渡しても阿妣は見えない。いつまで歩くのかと心中で泣く。
 道中、食料のパン、米花糖(訳注:四川省特産の餅米と砂糖を使った菓子。日本の「おこし」に近い)、インスタントラーメン、ストーブ、クッカー、登攀具等々、24、5kgあり、さらに高所用登山靴を背負い、ただ歩き続けるのはたまらない。
 17:30、海拔4250mで幕営。夜、ラーメンを袋に入ったまま喰う方法をマスター。外には雪がちらついている。


第2日め(2月18日)
 朝、見渡すかぎり真っ白。雪を溶かし飯を炊き、お茶を飲む。
 11:20、準備を重ね、降雪は想定内のこと。尾根に沿って雪を踏み、風に逆らい、氷河の末端を登る。
 17:30、海抜 5050m 岩壁基部で雪を掘り幕営。

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 尾根に沿って登る

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 海抜5050mの幕営予定地に向かう途中


第3日め(2月19日)
 起きてみると雲は薄くなり、高所には風がある様子。いい感じだ。撤収して行動開始。
9:30 登りはじめは70~80度の岩場。徐老幺が果敢にリード、アイゼンの爪が岩をひっかく音が聞こえる。徐老幺と登山したことのある者は、彼が岩に登るために生まれた来たような者と思うことになる。

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岩場をリードする徐老幺

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岩場をリードする徐老幺

氷河末端まで来た。
誰がリードするか。
もともとはじめに、誰がリードするか決め方は約束していた。

ジャンケンだ。

ジャンケンで負けた者が先に行く。その結果、負けは彼だ。
重荷を背負ってのアイスクライミング、約70度、50mの氷壁を直上する。壁は濃い藍色だ。
アックスを打ち込むのは非常に困難で、スクリューを打ち込み自分の身体を固定する。
氷河の上は風が激しく猛烈で、雪の粒が顔面を強くたたく。
やがて氷河は約40度の傾斜となり、腰までの深い軟雪となったり、硬い氷になったりする。たびたび強風吹きつけ、腹這いになる。

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氷河を登る

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氷河を登る

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氷河を登る

ルートは深雪となり、ゆっくりと前進する。一歩進むことが一つの小さな勝利だ。このとき、誰が登れるとおもうのだろう、私達は頂上に行けるのだろうか。

 氷河を登り終えてすぐに雪崩と遭遇。私はすぐに側壁によじのぼり、巨大な白煙をやりすごす。手にしているロープにはテンションもかからず、後続の徐老幺はぴったりとくっついて登ってきていた。このとき既に17:30。雪崩は私達に良いテントサイトを提供してくれた。

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深雪の積もった斜面を行く

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雪崩で造られたC2幕営地(海抜5450m)

 朝検討した結果、今日中に1峰に登頂してからC2に戻る計画は実現しそうにない。できるのは、2峰に登頂して東南稜を下降することだ。夜、食料を確認した結果、二つの圧縮餅干(訳注:中国版のカロリーメイト)、一本のソーセージ、一枚の紅藷餅(イモ製の餅)、一袋の粉末豆乳だけ。二日はもたない。持ってきたインスタントラーメンが4袋だけだとはホントに思っていなかったし、アプローチで徐老幺が持ってきた一袋は既に食べてしまっていた。


第4日め(2月20日)
 今日はラッキーだ。青空が見えたので早めに撤収、出発。
 頂上は見えず、我々の前には困難が立ちはだかる。
 登っていくと60度程の雪壁となり、幅2mくらいのでかいクレバスがある。クレバスの両側は雪が深く柔らかい。徐老幺が雪を探っていくが通過は困難だ。回り込んで行くには長すぎる。
 ちょいと雪遊びしていくことにする。幸運にも、クレバスにはまだ一つスノーブリッジが残っている。アックスで雪をつつきながら這っていく。ビレイは雪を掘って自分の身体でビレイする他ない。
 この後の雪壁について徐老幺と話し合う。
 この地で生まれ育った彼は、こんな急で険しい雪壁では雪崩の危険があまりに大きいと考えている。理論上あるいは私の経験では、60度を上回る斜面で風を受け、しかも粒雪(訳注:中国語ではいわゆる「粉雪」をさす)で、おそらく雪崩を考慮する必要はない。当然ながら、私は生命を賭けることはできない。明け方に行動することが、最も良い選択であろう。

 岩場にたどり着き、カムをきめ、ハーケンを打って、心が落ち着いた。徐老幺が岩場にたどり着くまで、私はちょっと一休みだ。
 4ピッチ登り、徐老幺が両手のアックスをかかげているのが見えた。頂上に到達して歓呼の叫び。
 12時55分、海抜5570m。(カシオの時計に誤差があると思われる、顧銘の記録によれば5680m)

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頂上直下の徐老幺

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頂上目前の最後の雪壁を行く

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阿妣2峰山頂に立つ徐老幺、背後のピークは阿妣主峰。

 北側200mほどのところに1峰がそびえている。私達より30~40m高くみえるが、徐老幺は20mは越えないという。ルートははっきりしていて、手を伸ばせば届きそうだがしかし、ここから先は未知のルートだ。

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下降する徐老幺

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南壁直下、55~75度

 傾斜50度程の東南稜を下降する。3日間背負ってきた60mのベアール8.1mmロープを用いて速く下降する。
 もう何回懸垂下降したか覚えてないが、出発する際に分け合った一つの圧縮餅干を食べ終え、また半分、徐老幺のを食べ、2人はこの時すでに空腹で気絶しそうだった。17:40、氷河に下りる。

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 南面の氷河の積雪は深く、足がとられ、本当に歩きづらい。
 19:30に日没、山の下方に明かりが見えた。康永が迎えに来たのだ。22時、ついに道路に出た。4630m。帰って来たのだ!

 クライミングの総括

 1.出発間際は慌ただしい。食料を熟慮せず、クライミングギアが多すぎた。徐老幺の体力、技術はとても優れているが、固定観念にとらわれることは極限の登山においては役立たない。けれども私の最も良いパートナーの一人である。
 2.悪天下での重荷を背負っての行動は非常に体力、時間を消耗する。
 3.1峰は登頂できなかったが、既に登攀ラインははっきりしている。2峰に登頂し、東南稜の状況を明らかに出来たことにより、主要な目標は実現できた。
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以上引用おわり
 
 この記録を執筆したクライマー、默-竽 氏の書いた原文はウイットに富んだ文章なのですが、残念ながらその持ち味を生かせるほど中国語に精通しておりませんので、だいぶ意訳しておりますです。

 記録で注目されるのは、デブリを幕営地に好都合と判断する場面に代表されるような中国人クライマーの雪崩に対する考え方、またクライミングのリードを誰にするか決めるのにジャンケンが用いられているのですが、「負けた方がリードする」という所でしょうか。
 (気になったので幾度も読み返し、いろいろと訳を調べましたが、やはりこの記録では「負けた方がリードする」という意味合いのようでした)

 アプローチの途上で、インスタントラーメンを袋に入ったまま食べたという所に、山屋は日本も中国もあんまり変わらねえなあと思います。

 すでに幾人もの日本人クライマーが四川省の岩峰で活躍し、その素晴らしい山々の存在が明らかにされていますが、それは中国のクライマーにとっても同様です。
 国内登山という枠組みで活動できる中国人クライマーの動向が注目されますし、四川省のチョンライ山脈はじめ、『ヒマラヤの東』の山々は今後も精力的に開拓されていくことになるでしょう。

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