虎毛山から
お客様たちの乗ったバスを見送る。
栗駒山塊の虎毛山のガイドを終え、無事下山。
バスが去った後、林道入り口は静かになった。
前夜からその動向が悩ましかった、日本海の寒冷前線。
雨が降り出したのは、登山道も抜けて最後の林道を歩き始めた時だった。
大気の状態が不安定なのだろう、激しい降雨もしばらくして止んだ。
お客様たちを見送り、一人林道に残った私は、気晴らしに近くの野草を眺める。
イヌタデの淡い紅色を眺めながら、本日の反省。
大昔、二ヶ月もかけて地球の一番高いトコに登り損なった私が、帰国して最初に登った山らしい山が、この虎毛山だった。
心身ぼろぼろだった私に、「これが日本の山の良さだっ」と強く印象づけた虎毛山。
今回のガイドのオファーが来た時には、即答で引き受けた。
しかし自分の思い入れの強さが良いガイディングに結びついたかは、別問題である。
大人数のツアーを引率していて、「この人はどうしてこの山を選んだんだろう」「どういう想いで今回の山行に参加したんだろう」と気になるし、本来はきめ細かくコミュニケーションをとるべきなのだが、口下手な私にはそれができない。
虎毛山は、登山コースは一本だけなので往復となる。
「往復登山って、私好きなんですよね。登っている時には気がつかなかった風景とか見られますよね」
と、山頂で持論をぶっておいたが、かくいう自分はそんな風景を楽しむ隙は無い。
登山コースが急なので、頻繁に振り向いては参加者の足取りを確かめる。
お客様たちに虎毛山で語りたいことは沢山あったが、その一方で、涼しい風や時折姿をあらわす見事な紅葉に歓声をあげるお客様たちを見ていると、「山に語らしめる」方が良いのではないかとも思う。
最近活躍されている、若い世代のガイドや山屋さんのプレゼンの巧さには舌を巻く。
私があちこちで実体験した山のすばらしさは、もう表現せずに仕舞ったまま、墓に持って行った方がベストなのかとも思う。
登山口に停めておいた自分の車に乗り込み、山形に戻る。
車中、NHKラジオ第二で放送の『文化講演会セレクション「京の彩り~源氏物語の色~」』を聴講しながら運転。
講師の染織史家・染色家である吉岡幸雄氏が、「色」をメインテーマに源氏物語を解説。
源氏物語にはあまり関心はないのだが、古人の「自然観」は大いに興味がある。
吉岡氏の解説の中で印象に残っていたのは、「京都の山は四季が明確だ」として京都の山、京都の自然の魅力を語られていた。
ふーん。京都といえば古くさい寺とか仏像とか、八つ橋くらいしか知らんがな。
日本にはまだまだ私の知らない魅力ある自然がある、ちょいと謙虚になれよ、と自分に言い聞かせ、雷が光る暗闇の中、山形の自宅めざして国道を走る。
| 固定リンク
「山岳ガイド日記」カテゴリの記事
- 八宝堂【山形県上山市】(2020.12.29)
- 設備投資 2020年11月(2020.11.18)
- 2020年を振り返って(2020.12.31)
- オボコンベ山(595m) 宮城県川崎町(2020.11.01)
- 名号峰、花崗岩の山(2020.09.20)
コメント
連休直前の7日から南アルプス北岳に行ってました。8月は雨にたたられ続きでしたが、今回は晴れ。大樺沢ルートは台風で崩れて使えません。山は秋の終わりで冷たい風が吹いていました。早朝の白根御池小屋はどこをみても霜で真っ白。10cmもの霜柱の中を歩きます。山頂近くは5分も休んでいると歯が鳴り出す寒さでした。次に降る雪は溶けないでしょうね。群青色の空が硬くみえました。
帰り、スモール灯の消し忘れで大失敗。JAFを呼ぼうにもauが繋がらず、茶店の人のドコモを借りました。山中の車トラブルは遭難同様の一大事で。(@o@);; アワワ!
投稿: かもめ | 2011.10.11 21:55
re:かもめ様
<<連休直前の7日から南アルプス北岳に行ってました。
南アルプスですか、いいなあ。
テレビニュースで東北の山々の紅葉、もう冬同然の大雪山を見て冬近しと感じておりました。
<<次に降る雪は溶けないでしょうね。
今滞在している場所からみえる鳥海、月山はまた黒くなりましたが、山と同様の標高にある山岳道路を仕事で越えなければならない私たちは、「そろそろ冬タイヤに換えなくちゃね」と話しています。
<<帰り、スモール灯の消し忘れで大失敗。
ありますよねー。
ドコモ繋がって無事下山できたんですよね?
車のキー付けっぱなしだとピープ音が気になるので早めに抜き・・・バッテリー昇天させたのは幾度かありますです。私も車トラブルはあらためて気を付けたいところです。
投稿: 聖母峰 | 2011.10.15 22:36