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山形銘菓と日本政府との、ビミョーな関係。

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 くじら餅。
 名称の由来には諸説あり、山国の人間に食されてきた「鯨肉」に似ているとする説、または保存がきくことから久持良(漢字ではこう表記する)餅とする説などさまざまである。
 山形県内でも新庄を中心とする最上地方の産品として知られる。また青森の浅虫温泉でも名産として売られているようだ。

 くじら餅は山形ではポピュラーな伝統菓子である。
 ネット検索するとレシピも見受けられるが、本来は製造法は非常に手間がかかる。というか、昔は各民家で大量に作り、近隣や遠方の親類に配るなどしていたらしい。今現在では、店で買うのが一般的である。
 上記画像の「くじら餅」は、道の駅・尾花沢で購入した山形県大石田町の木村宣子さん手作りの黒砂糖味くじら餅。

くじら餅のつくり方
 1.もち米・うるち米を3~5日間、水に浸す。
 2.むしろ、紙の上などに米をひろげ、軽く乾燥させる。
 3.杵、臼で米を粉にし、ふるい分けて米粉にする。
 4.砂糖と醤油で砂糖液を作り、冷ましておく。
 5.米粉を砂糖液の中に少しずついれ、ヘラでこね、トロトロになるまで練る。
 6.味噌または醤油で味付け、ゴマ・クルミ等を混ぜ、一晩寝かせる。
 7.型に流し、せいろで二時間程、強火で一気に蒸す。

 その昔は桃の節句の菓子として、製粉は女性の役目でかなりの重労働、多い家では二斗(約20升)製粉したという。
(参照文献 社団法人農山漁村文化協会『聞き書 山形の食事』)

 さて、昭和天皇崩御から間もない平成元年のこと。
 この「くじら餅」を売り出している新庄の菓子店に、全国菓子工業組合連合会の理事長が直々に「くじら餅の製法を教えてほしい」とたずねてきた。
 店の人は全国組織の幹部を丁重にお迎えし、くじら餅の製法をひととおり説明したところ、その理事長から「実は・・・」と切り出されたのが・・・

 内閣からの指示を受けた農水省の依頼により、緊急災害発生に備え、非常食を模索しているという。その条件は、首都圏住民2000万~2500万人分の数日分、火や水、電気をつかわず食べられるもの。
 その非常食の候補として、このくじら餅に白羽の矢が当たったという。
 農水省関係者もまじえて話が進んだが、保存期間がネックとなったらしい。求められる保存期間は数年だが、くじら餅もさすがにそれだけ長期間はもたない。栄養剤を混入するなどアイデアが出されたが、残念ながらこの話は担当者が病気で急逝するなどして立ち消えになったという。
 
 このエピソードは新庄市の菓子店『新庄の菓匠たかはし』から出版されている『くじら餅物語』に掲載されています。
 この話から伺えるのは、内閣もしくは農水省が水面下で、非常食の候補としておそらくは「くじら餅」だけではなく日本全国の伝統食を研究していたであろうということ。

 残念ながら、先の震災では行政機関の非常食として「くじら餅」が活躍することはありませんでしたが、私自身今回めずらしく「くじら餅」を買ったのも、震災で郷土文化が脅かされているという危機感があったからでしょうか。いや、いつものように甘いもの食べたいなという軽い気持ちに決まっています。

 地元の人間から言わせれば、「くじら餅」は伝統食・伝統菓子の中でも現在まで生き残っている数少ない食のひとつです。
 今年も遠方の県外から、多くの方々が山形県の山を訪れることでしょう。
 帰路、土産物屋や産直で「くじら餅」をみかけたら、ぜひお勧めします。
 なぜならば、それは既成の土産菓子とは一線を画す、山形の地元の人間なら誰もが知る伝統の味だからです。

参考記事 『味な山形』くじら餅 山形県ウェブサイト 

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