高校から登山を始め、それなりの思い入れを持って登山を続けてきたが、時折思うことがある。
「もし事故か何かで、登山を続けられない身体になったら、どんな人生を送ることになるのだろうか?」
それは大学在学中、就職課で資料を閲覧していたとき、クライミングの事故で半身不随となり福祉の道に進んだ男性のエピソードを読んだことがきっかけだったと記憶している。
豪快なクライミングシーンを表紙にした『If You Fall...』は、イギリスの女性クライマーKaren Darke(カレン・ダーク)がクライミングでの転落事故で半身不随となってからの人生を綴った本である。
事故により胸から下半身が不自由な身となったカレンはこう綴る。
『I felt a prisoner within my own body.』
この短い一文に、それまでクライミングやトライアスロンなど、肉体を駆使してフィールドを駆けめぐっていた彼女が突然に自由を奪われた戸惑いが表れている。
同書に挿入された写真も、事故前のイギリスやアルプスでの岩場の写真が多く、過去への憧憬が感じられる。
しかし彼女の生き方はあくまでもポジティブであり、半身不随後に地質学の学位を取得、チェアスキー、そして彼女にとって人生の軸となる「ハンドサイクル」(両手でこぐ自転車)と出会うことになる。
このハンドサイクルで天山~カラコルム山脈を走破、2000年には日本列島ツーリングも果たしている。
同書の後半を占めるのは「Spiritual journey」として、いわゆる「心霊手術」をめぐるエピソードで占められてる。
心霊手術とは、オカルトマニアの方ならブラジルのホセ・アリゴーをご存じであろう。
清潔でもない器具で、麻酔も消毒も一切せず患者の身体を切っていく。
不思議なことに、血は流れることなく、施術中は身体を切り刻まれているはずの患者が変わりなく会話できるという現象。
ドクター・フリッツという、第一次世界大戦で死んだとされるドイツ人医師の霊が憑依していると言われる。フリッツの霊は幾人もの人間に乗り移り、近年ではやはりブラジルのコンピューター技師Rubens Fariaに憑依しているといわれる。
カレンはこのRubens Fariaに幾度か施術を受けることになる。彼女が心霊手術に関わるきっかけは、日本人ジャーナリストmakiという人物の本である。
このmakiなる人物は、おそらくは「牧まさお = パンタ笛吹」氏であろう。
私はヒーリングとかチャネリングとかに熱中している人物とは関わりたくないので説明は省くが、牧まさお氏らしき名前がでてきたところで一気に読む気が失せた。
Rubens Faria氏はやはり事故で半身不随となった俳優クリストファー・リーヴにも施術したといわれるが、結果は皆さんご存じのとおりである。
最近の心霊手術に関しては私は知らない。過去のブログにも書いたように疑似科学は嫌いなのだが、ホセ・アリゴーに関する現在もなお解明できない治療成果は注目すべきものがあると認めるし、なにより、それまでスポーツウーマンとして活躍していたカレンが希望を求めて心霊手術に期待を寄せたことは、その心情を察せずにはいられない。
現在はカレン・ダークはいわゆる「スピリチュアル」な世界から離れ、ハンドサイクルのアスリートとしての生活に専念している。2013年にはチェアスキーによる南極遠征も予定している。
彼女は同書の後半にこう力強く述べる。
『I'd spent time recalling good memories and feeling sad that I didn't have time any more. I'd spent time looking to the future, imagining what life could be like.』
世界には科学で解明できない「奇蹟」があることは認めるが、誤解を恐れずに書く。
アスリートに「奇蹟」は似合わない。
その前向きなひたむきさ、パッションが、我々凡人の心に強く訴えるのだ。
現在のカレン・ダークについて知りたい方はこちら↓
カレン・ダークのウェブサイト
カレン・ダークに会いにイギリスを訪問された方のサイト
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berghouseアスリート、カレン・ダークのページ
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