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私が一番アツイ夏。

 月山は今年も晴天だった。

 「牛首」下部の雪渓を通過。
 雪渓末端の通過をフォローするため、セカンドを歩く佐藤先生にすぐ先の休憩所まで行くよう指示し、私は最後尾の子供達の通過を手伝う。

 騒ぎは休憩所で起こっていた。

 雪玉をぶつけられ、女の子が泣いているという。
 雪玉がぶつけられたという服の袖は、夏の汚れた雪のために黒くなってしまっていた。
 泣いている子ではなく、他の女の子が訴えるには、ブランドの●●の服で、「高いんだよ!」「すぐ洗濯してよ!」と言う。
 対する男の子たちは、
 「奴らが先に股間蹴ってきた」
 「なんで俺だけ謝らなくちゃいけないんだよ」
 の一点張り。

 間に入った自然の家のスタッフ達が仲裁に入る。
 それでも男の子と女の子は火花を散らし、気分が収まらないようだった。

 歩き始めても、男の子も女の子も、それぞれ怒りが収まらないようだった。
 まだ文句を言い合ったり、持っているストックに怒りをぶつけている女の子が目に入る。
 セカンドを歩く、温厚な佐藤先生もたまりかねて「ちょっとまて」と注意している。

 その瞬間、「これじゃだめだ」と私の中で何か直感のような、胸騒ぎを感じる。
 これじゃ絶対にまずいんだ。

 「おい、ちょっと止まれ!」
 先頭を歩く私は隊列全体を止め、全員の見える所で叫んだ。
 「俺の話聞け!静かにしろ!」
 ちょっと息を吸ってから皆に向かって怒鳴る。
 「イライラして山を歩くとなあ、怪我するぞ!」
 皆がしーんとなる雰囲気を感じた私は、続けてこう言う。
 「温泉が待ってるよ。楽しく歩こうか。」

 ガイドは常に冷静でなければならない。
 しかし皆の気持ちがバラバラのまま歩かせていては、不測の事態が起きるような気がしてならなかった。

 中高年の登山ツアーは、いわば参加者が登山を目的に、自発的に参加するものである。
 一方、自然の家の夏期キャンプ登山は、親御さんから子供達を預かった形式になる。
 人の命に軽重は無い。
 そのことを踏まえてなお、先頭を歩く私にとって、子供達を無事に山から下ろすことが絶対の課題となる。

 帰りのペアリフトは、心理学に詳しいT先生と一緒になる。
 「大滝さんの一言で、締まりましたよね」
 とは言われたものの、 全員を怒鳴りつけたことが最善の策だったのか、迷い続けていた。
 話題を変え、ウチの娘が学校のクラブ活動で挫折したことを相談。
 T先生からは勇気づけられるアドバイスを幾つか受ける。
 日本全国の傾向として、少年自然の家運営が民間に委託されるケースが多くなっている。
 山形県は、教職員が少年自然の家の運営にあたる。こうして身近に教職員のアドバイスを受けられる環境にあることは、ありがたいことだと私は考えている。

 ふっと気が抜けた時だった。
 「だれか落ちたー」
 子供の声が響いた。
 落ちた帽子を拾おうとした女の子が、リフトから落ちてしまったらしい。
 幸いトレッキング用リフトなので、高さは1メートルもないところで、怪我もなかった。
 女の子にはそのままリフト下の斜面を歩いてもらい、下部ではリフト職員の指示を受け、女の子も無事リフト下駅に到着。

 最後の最後まで、気の抜けない嵐の一日。
 子供達を野外に連れ出す難しさを、改めて思い知る。

 いや、難しいからこそ、子供達に大自然に触れてもらうことに私は力を注ぎたい。
 8000m峰や広大な荒野に身を乗り出すことは、もう無いだろう。
 子供達と一緒に野外に飛び出すこと、それが現在の私の夢であり、目標だ。

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 昨年は会社の出勤扱いで参加した夏期キャンプ。
 今年もありがたいことに、少年自然の家から登山講師として「派遣要請文書」を発行していただく。諸事情で勤務先の社内がバタバタしていることもあり、上司には文書を提示して、今回は公休を取得して参加する旨願い出る。会社の看板を背負って参加するよりも、ある意味、身軽な立場で参加したかったのだ。


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8月2日、登山の日の朝。
テントからはい出して見上げれば、空は快晴。

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毎年眺めるのが楽しみな、子供達のクッキングタイム。
慣れない手つきで男の子たちがハンバーガー用のトマト切りに挑む。
女の子が遠巻きに見つめながら、小さい声で言う。
「トマトのへた、とらないの~」
その不安まじりの声がおかしかった。


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午前中は鳥海山も顔を覗かせる。
午後からは雲に隠れ、私たちも雷雲の発生を懸念して下降。

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毎年恒例、下山時のリフト下駅での水くみ大会。
冷たい沢水を飲んだ男の子、
「超強力にうまい水だったね」
国語としての正確さはさておき、水の美味しさが伝わる言葉でした。


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月山登山を終え、キャンプ場に帰還。
キャンプ場に続く、緑囲まれた道を歩く子供達の後ろ姿を見るとき、それが先頭を歩いた私が安堵するひととき。


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「おなかすいたー」
という子供達に、自然の家のスタッフの皆様が猛暑の中用意してくださった豚汁と五目ご飯。

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あまった五目ご飯は、おにぎりに。

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おにぎりシェフは、自然の家の高橋所長。
「よし、作るか」と見事な手さばきで次々と握って下さった。
「おにぎりにすると、皆不思議と食べるんだよな~」
という先生方の予言どおり、月山の野生動物のごとく子供達が一人、二人と近寄ってきて、おにぎりに手を伸ばしていました(笑)


過去の山形県朝日少年自然の家・夏期キャンプ登山の記事

真夏の果実(2011年)

月山で一番熱い夏・2010

月山で一番熱い夏2009

月山で一番熱い夏。【後編】(2008年)

子供達との、熱い夏。【後編】(2007年)

子供達と、大朝日へ。(2005年)

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山岳ガイドのアドバイス

8月1日、登山前夜。
下界の山形市は36度を記録したこの日、夜の20時で志津キャンプ場の温度は19.6度。
長袖シャツが必携な温度です。
盆休みなど利用して遠方からテント泊で東北の山に来られる皆様、山の中のキャンプ場では防寒対策をしっかりしておいで下さい。

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コメント

子供たちと接するのはとても楽しいものですよね。自分の山のためでなく、子供らの山にアツクなっているガイドさんにエールをおくります。

投稿: panawang | 2012.08.08 06:43

re: panawang様

<<子供たちと接するのはとても楽しいものですよね。

 時折、大人には思いもつかない鋭い感性を示してくれることがありますね。

<<自分の山のためでなく、
人をリードするぶん、人より経験と思索を重ねなければ・・・と思うんですが、子供を連れて行く場合、小手先のテクニックなど、自然の差し出してくれる感動の前にはかなわない、と思うこともあります。

 引率を終えるたび、「日暮れてなお道遠し」ですね(笑)

投稿: 聖母峰 | 2012.08.08 23:21

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