憩い
積極的休養を兼ねて、朝日連峰・鳥原山へ。
目的は、鳥原小屋の管理人・鈴木正典さんへの挨拶。
鳥原小屋へ向かうルートは様々あるが、今年は ぶな峠からのコース を選択。
8月のぶな峠、誇張表現ぬきで映画『俺たちに明日はない』のラストシーンなみにアブに刺されまくるのだが、沢筋をぬければ、アブの襲撃もおさまる。
そして、ブナの若木が連なる尾根歩き。
曇天でいまにも雨が降り出しそうな空、そして湿度が高い。
少し動いただけで汗が滝のように流れ落ちる。
汗ふきタオルもすっかり重くなる。
樹林帯で体中の水分が絞り出されるような、東北の夏山。
若い女性向けの山岳雑誌のさわやかなグラビア記事とは無縁な、しかしそれが東北の夏山。
朝日連峰でも有数の湿原、鳥原湿原の小山に立つ鳥原小屋。
木々に囲まれたそこはメルヘンチックなロケーションなのだが、ポピュラーな登山ルートから外れているため、訪れる人は少ない。その静けさが、私にとっては魅力なのだ。
小屋近くのトラロープに付けられた道案内。
鈴木さんの文字だ。
小屋に到着、まずは小屋脇の神社に参拝してふりむくと、
「おつかれさん」
今年もまた、鈴木さんが変わらぬ姿で迎えてくれた。
ちょうど同時に到着した単独行の若い男性。
鈴木さんは泊まりか下山か尋ねる。
男性が下山すると答えると、鈴木さんは
「●時のバスですね」と確認する。
「今から間に合いますかね・・・」と単独行の男性が不安そうに聞くと、鈴木さんはまず今日の出発場所と時間を聞く。
「ああ、その脚ではじゅうぶん間に合いますよ。」
そう、鈴木さんは交通機関の時刻表もきちんと把握しており、小屋を訪れた人にはまず出発地と出発時間を尋ねる。その短い会話から瞬時に相手の脚力・体力を把握して、下山や今後の行程のアドバイスをするのだ。
いつもと変わらず、鳥原小屋は清潔で、そして盛夏でも涼しい。
小屋で鈴木さんと積もる話・・・ガイドの話題や、朝日連峰の話題を話す。
そこへ、鈴木さんの所属先であり鳥原小屋を管理する山岳会「朝日山岳会」の花山会長も到着。花山会長とは以前、山形県朝日少年自然の家で大朝日登山に同行させていただいた。無骨な顔立ちに似合わず、バテた子供達をなだめて歩かせるのがとても巧い方だ。軽い昼食をとった後、道具をザックにくくりつけ、花山会長は登山道整備に小朝日方面に向かわれた。
朝日連峰の各避難小屋は各々の社会人山岳会が管理を委託されており、登山道整備も行っている。
私のようにグループに属さず山を歩いている人間からみれば、汗だくで道具を背に小屋を出て行く花山会長の姿には、頭の下がる想いだ。
鈴木さんからいただいたパンと珈琲で私も昼食。
元金融マンの鈴木さんだけあって、ガイド業界の話題から低迷する日本経済の突っ込んだ話題になる。
「あいかわらず鳥原は人来ないなー」
と鈴木さんは嘆くが、すみません、私には人でいっぱいの鳥原なんて想像できない。
この静寂あってこその鳥原山、鳥原小屋なんだ、と外から漏れきこえる鳥の声に思う。
山形の山の歴史から高所登山の話題まで、オールラウンドに話を聞ける人はなかなか少ない。
鈴木さんは私にとって、その少ない人の一人だ。
短いものの、充実した昼を過ごし、鳥原小屋を後にする。
小屋を去るとき、ふと鳥原湿原の木道で立ち止まる。
朝日連峰にあって、やはりこの静寂が素晴らしい。
静けさの中に響く鳥の声を聞きながら、再び歩き始めた。
鳥原小屋近くのナナカマド。
汗だくで歩いているのに、もう秋の色が忍び寄ってました。
| 固定リンク
コメント
お盆で、ございます。
古寺鉱泉から鳥原周回を昨年したとき、たぶん管理人さんと思われる方とスライド。
ひとり?どこから登ったの?日帰り?など声をかけてくださいました。
ちよっと煮詰まった状態をほぐすため登ったので、
あぁぁ、気にしてくれる人がいるのねぇ…なんて嬉しかったことを覚えています。
日帰りの駆け足みたいな山行でした、今年は逆コース行ってみます。
お盆の連休で多くの方が朝日や飯豊におみえになりますね。少し引けてから行ってきまぁす。
投稿: は。 | 2012.08.13 21:19
re:は。様
<<お盆で、ございます。
いや~、今夏の猛暑のおかげで待ちに待った盆休みです(笑)
<<古寺鉱泉から鳥原周回を昨年したとき、
気遣いの細かい「岳人」な方ですので、たぶん管理人さんだと思います。
昨年の鳥原周回はいかがだったでしょうか?
気分転換としては、やたらハードな所よりは古寺~鳥原周辺の穏やかな風景が私も気に入ってます。
今年も訪問されるとのこと、どうぞお気を付けて、楽しんできて下さい。
投稿: 聖母峰 | 2012.08.13 22:55