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第21回ピオレドール ノミネート全隊受賞の波紋【2013.4.9追記】

去る4月6日、第21回ピオレドールが発表されました。
既にツイッターで情報が流れているように、日本の花谷・馬目・青木氏らキャシャール・サウスピラーを含むノミネートされた6隊全員が受賞という結果になりました。
受賞された各隊のクライマーの方々には心より敬意を表します。

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Photo by Dario Rodriguez DESNIVEL

 受賞されたクライマーの方々に敬意を抱き、喜ばしく思いますが、ノミネートされた全隊受賞とは、ピオレドールの在り方についてどのような意味をもつのか。
 日本人の受賞という点で思考停止しているアウトドアライターもいるようですが、ヨーロッパ各国のクライミングサイトの記事を参照して、今回の「全隊受賞」の意味するところを考えてみたいと思います。

全隊受賞の経緯

 4月6日付の山と渓谷社クライミングネットでは「審査経緯については不明」と報道されていますが、過去あれだけ批判に晒されたピオレドール、審査経緯を明らかにしないはずがありません。
 4月5日、7日に公開されたイタリアMontagna.tv、スペインDESNIVELの記事では審査員の判断理由が明らかにされています。フランスのKairn.comはあっさりと結果のみを報道しています。

Piolet d’Or 2013: premiate tutte le salite. Vincono tutti oppure nessuno? by Montagna.tv 2013.4.5

Seis Piolets de Oro 2013. by Desnivel 2013.4.7

 イタリア、スペインのクライミングサイトの記事が紹介している審査員の判断理由は次のとおりです。

1.2012年はピオレドールの価値観を具現化したハイレベルなクライミングが揃った、稀な年(公式サイトでは「exceptional」と表記)であった。

2.6000m峰新ルートから8000m峰の長大なルートまでバラエティに富んでいるが、ノミネートされた6隊には一つの共通点がある。それは登高ルートと下山ルートが異なること。しかも困難さが持続する、非常にハイレベルなルートだった。

3.これらの理由から、審査員全員一致で全隊受賞を決定した。

これらクライミングサイトのソースと思われる、公式サイトのプレスリリースがこちら↓
ピオレドール公式サイト 全隊受賞に関するプレスリリース(PDFファイル)


全隊受賞の波紋

 1992年に始まり今年で21回目となるピオレドール。
 複数の受賞者が決定した事はありましたが、ノミネートされた隊全て受賞というのは今回が初めてです。
 スペインのDESNIVELは淡々と事実を記事にしていますが、イタリアのMontagna.tvは『Vincono tutti oppure nessuno?』(全員が勝者か?勝者無しか?)というタイトルに象徴するように、来年度以降のピオレドール審査に大きな影響を及ぼすことを示唆しています。

 今回受賞した6隊の中には、ムスターグタワー東壁を登ったセルゲイ・ニーロフらロシア隊も含まれます。彼らは既にロシアのクライミング・アワードであるピオレドール・ロシア、クリスタル・ピークを同時受賞しています。
 彼らの故郷ロシアの某クライミングサイトでは、今回の全隊受賞について

「賞としての価値低下を招くのでは」
「間違った決断。6つの金メダル。」
「審査員の責任は?」

など辛辣な意見が挙がっています。


第21回ピオレドール審査員を支持する

 しかしながら、そのような辛辣な意見やMontagna.tvによる来年度のピオレドールを憂う報道は杞憂にすぎない、と私は考えます。
 Montagna.tvで報道されていますが、今回審査員長を務めたStephen Venablesは7年前の審査でスポンサーから圧力がかかっていたこと、選定は抽選に等しかったことを明かしています。
 そのようなピオレドールの「負」の面を知り尽くしているからこそ、全隊受賞という大胆な結論を導いたのではないでしょうか。
 審査の内情については、日本からも横山勝丘氏が参加されていますので、今後新たな事実も明らかにされるかもしれません。

 長らく実践を積み重ねているクライマーの方々には非常に卑近な例で恐縮です。
 私が登録しているロシアのサイトが関わっているクライミングアワードでWEB投票する時でさえ、非常に戸惑いを覚えました。
 実践に実践を重ねて命をかけているクライマー達の成果に、順列をつけていいものか、と。

 まして国際的に呼び声高いピオレドール、さらに自らクライミング界の先頭で活動している今年の審査員の方々であれば、なおさらノミネートされたクライマー達の心情を慮るのは当然ではないでしょうか。

 今回の全隊受賞は、

 1.ピオレドールという賞の在り方を改めて考えるべき契機である
 2.ピオレドール公式サイト・全隊受賞に関するプレスリリースで「more emphasis on diversity.(多様性を尊重する)」とあるように、今後のピオレドールの方向性を示すエポックである

 と評価されるべきだと私は考えます。

ピオレドールをめぐるあれこれ

かたい話は脇において。
セロトーレのボルト事件をめぐって、今回審査員のSilvo Karoがイタリアのチェザレ・マエストリを名指しして「彼の後に続くクライマーの将来を奪った」と強い調子で糾弾しております。
あーあ、我らがチェザレ・マエストリ。
糾弾するのもいいけど、そろそろ誰か許してあげよーよ。

 さてロシアの某クライミングサイトでは、「ピオレドールにふさわしいのはどの隊か?」とWEB投票が始まっています。北方領土問題ではのらりくらりと逃げるくせしてピオレドールではしつこいな。
 4月7日現在、77名が投票してその結果はこちら↓

 キャシャール 1名
 シヴァ     4名
 ムスターグタワー 17名
 オーガ       4名
 カメット       6名
 ナンガパルバット 45名

意外にも、ロシア隊のムスターグタワーを超える45名がナンガ峰マゼノリッジに投票しています。

 それでは、そうそうたる審査員のコメントはさておき、当の受賞者たちはノミネートされた他隊をどのように思っていたのでしょうか?
 公式サイトでは見あたりませんでしたが、ポーランドのクライミングサイト wspinanie.pl にて、ポーランドの山岳ジャーナリストJanusz Kurczabによる記事が紹介されています。
 この記事中において、ノミネートされたクライマー達のコメントが掲載されています。
以下記事引用開始
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Mick Fowler(イギリス、シヴァ峰にて受賞)
「う~ん、もちろん、私たちですよ。しかし本音を言えば、私はマゼノリッジを推します。昨年は多くのアルパインスタイルが成功を収めた素晴らしい年でした。」

Sebastien Moatti(フランス、カメット峰にて受賞)
「シヴァですね。私はファウラーとラムズデンを尊敬していますし、私にとって英雄なんです。私が子どもだった頃からクライミングを続けてしますからね。私は彼らを推します。」

Hayden Kennedy(アメリカ、オーガ峰にて受賞)
「私はノミネートされた6隊全てを推薦します。全員がこの賞にふさわしいですね。」

David Lama(オーストリア、セロトーレのクライミングで審査員より特別コメントを言及)
「これらのクライミングを比較することは困難です。同じルートでもシーズンが違えば困難な課題が与えられます。彼ら6チームは全く異なるクライミングなんです。」

3人のロシア人はそれぞれ異なるチームを推薦しました。
ドミトリー・ゴロフチェンコはシヴァ、セルゲイ・ニーロフはオーガ、アレクサンダー・ランゲはカメットです。
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以上引用おわり

 残念ながら日本から参加された花谷氏らのコメントはありませんが、受賞したクライマー達はそれぞれ、彼らなりの価値観で自分達だけの「ピオレドール」を思い浮かべていた事がわかるインタビューです。
 そしてそれは、数々の素晴らしいクライミングを「最高」という一つの枠組みの中に当てはめることの困難さを象徴しています。

最後にあらためて、今回受賞した各国クライマーの方々には心より敬意を表します。

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【2013.4.9 追記】
 フランスの山岳雑誌『Montagnes Magazine』と『Vertical』の関係者が部活・・・じゃなかった、ピオレドールの委員辞めるってよ。
 いやいや、Planetmountainも今回の選定結果には か な り 批判的な論調だし、嵐を呼ぶ第21回ピオレドールですなあ。

 ちなみに、海外の名の知れた山岳雑誌やクライミングサイトのおっさんが何言おうと、今回の審査員の選択がピオレドールという賞の在り方を改めて考える契機である、という私の主張に変わりありません。

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