日曜。
本日の目的は、六甲山横断。
六甲山南麓の阪急芦屋川駅から六甲山最高峰を経由して、北側の有馬温泉に下山する古典的なルート。
六甲山山域では色々訪れたい場所があるのだが、先週まで酷暑の中、疲労した日が続いており体調を勘案してこのルートを選択した。
朝5時30分、阪急芦屋川駅を出発。
ボルボやベンツ等が並ぶ豪邸街を通り抜け、六甲山山中へ。
滝の茶屋を通過し、藤木九三のレリーフを見る。そこに歴史を感じる。

六甲山を象徴する、白い花崗岩が露わになった登山道にさしかかったところで朝日を浴びる。

マサ化(風化)した花崗岩は、素晴らしいほどにシューズのフリクションが効く。
一見、険しい登山道でも快適に登れるのだ。
山麓から森に覆われ、土の上を歩くのとは異なり、ぐいぐい高度を稼ぐことができる。
こんなフィールドでハイキングや登山を覚え始めた人は幸せだ、と思う。

六甲山を覆う笹の多くはミヤコザサ。
雪の多い山形の山を覆うチシマザサと異なり、春の成長期に伸びた一本の茎が大きくなるだけで、枝葉を出さない。
そのためだろうか、笹に覆われた山肌も東北のそれに比べてスッキリとしている。

駅から歩き始めて1時間、風吹岩に到着。
岩の上からは素晴らしいまでの神戸港そして街並みの眺め。
え?画像?
毎度ですが、素晴らしい光景は御自分でいい汗かいてご覧下さい。
風吹岩には子猫の集団が住みついていた。
さらに雨ヶ峠を経て七曲がりの登り坂へ。
周囲は蝉の声、ウグイスの声、

時折、道端を飾るオカトラノオの白い花を眺めてひたすら登る。

幾つもの沢筋を越える。
六甲山といえば、前掲の白い花崗岩の縦走路しかイメージできなかった。
こうして水の音を聞きながら登ると、六甲山が豊かな自然に恵まれたフィールドであることを痛感する。

若い栗の実。もうコクゾウムシが狙っているのか?

ア・ケ・ビ。まだ若い実ですね。
気温27度。
風は涼しいとはいえ、汗だくになって車道が通じている「一軒茶屋」に到着。
登り切った、まさにグッドタイミングなところで

自販機の誘惑に負けた・・・
つべたいスポーツドリンクで水分補給し、六甲山最高峰に向かう。

最高峰に通じる車道の入り口には、アジサイが沢山。
六甲山には「三名花」と呼ばれる花がある。
ツバキ、ムクゲ、そしてアジサイだ。

六甲山最高峰に通じる車道を登っていると、上から「やった!俺はやったんだ!」という叫び声が聞こえる。
叫び声の主は、自転車(ロード車)でここまで登ってきたらしい男の子だった。
そのナルシストっぽい叫びも、この暑さと山の上では、若さだけを感じる。
8時20分、六甲山最高峰931mに到着。
すぐに有馬温泉方面に下山。

六甲山最高峰から有馬温泉までは、魚屋道(ととやどう)と呼ばれる古道をたどる。
白い花崗岩が露出した南側とは対照的に、昼なお暗いような、樹林帯がトンネルを形作る道だ。
木漏れ日に映える緑色を楽しみながら下山を続ける。

頂上で出会った方の話によれば、やはり夏の六甲山は暑さで人が少ないらしい。
花も少ないが、小さい萩のような花(正式名称不明)がところどころに咲いている。

下山するにつれて、ほぼ水平に近いようなつづら折りの道が続く。
この魚屋道(ととやどう)は、瀬戸内海から有馬温泉に魚を供給するために利用された道とされている。
しかし六甲山の歴史をひもとくと、登山道開拓の歴史は、そのまま人々の欲望の歴史であることがわかる。
江戸時代も半ば、幕府は法令を改正、役人・大名は宿場の通過料を半額または無料とした。
それでは宿場町が維持できないため、町民・農民に対しては通過料を値上げし、宿場以外を通ることはまかりならんという改悪である。
当時、いわゆる「灘の酒」を作るために米が必要だった。
宿場の通過料の負担に耐えきれない農民たちは、こぞって六甲山中に抜け荷(いわゆる密輸)ルートを拓き、物資を運んでいった。
そのルートが代官所によって取りつぶしにされれば、別のところにルートが拓かれる・・・という繰り返しだったらしい。
こうして瀬戸内海と北摂地方を南北に分断する六甲山は、人の往来が激しくなっていった。
人は、お経や呪文やお祈りだけで生きていける訳ではない。
カネも食べ物も必要だ。
山岳信仰による隆盛を極めた山形県各地の山々を登ってきた私にとって、「抜け荷」という現実的な目的のために開かれていった六甲山の歴史は興味深い。
頂上から1時間20分ほどで、有馬温泉に下山。
下山口には別世界のようなリゾート温泉施設が建ち並んでいるが、さらに下っていくと、

昔ながらの街並みがありました。

こうみえても1970年代生まれですが、ちょっと懐かしい感じの本屋さん。

有馬温泉から大阪・梅田行きの高速バスチケットを購入した後、「金の湯」で汗を流す。
六甲山。
たしかに開発された山々ですが、豊かな自然と歴史をそなえた、良い山でした。
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