紅花摘み
14日朝5時。
無言でひたすら、紅花の花を摘み取り続ける。
縁あって、アグリビジネスを展開する株式会社アイ・タックルの畑で紅花摘み作業の手伝いを行う。
ジブリの映画『おもひでぽろぽろ』でも主人公が作業に従事していたので、ご存じの方も多いかと思いますが、紅花はトゲトゲで覆われているため、朝露に濡れた棘が軟らかい早朝から作業が始まる。
この日集まったボランティア作業員は私を含め5~6人くらい(広い畑で時間差で作業に来ていた方がおられたので正確人数は不明)、アイ・タックル社員さんと共に無言でひたすら紅花の花びらの収穫。
腰に「はけご」をつけ、オレンジ色になった花びらを摘み取っていく。
空は今にも雨が降りそうな曇り空。
近くの里山・大岡山も、低くたれ込めたガスに包まれている。
周囲のカッコウやキジの鳴き声をBGMに、ひたすら摘み取り。
やってみて初めてわかったのだが、
上記画像のように、畑の紅花は腰から膝の間くらいの高さ、花を摘み取るには中腰にならざるをえず、時間の経過とともに腰にくる。
作業開始して30分くらいすると、あちこちから「腰が・・・」のつぶやき声がもれる(笑)
ちなみにジブリの映画や観光協会の紅花畑の写真だと、紅花はこれくらい↑の高さ。
午前5時から初めて1時間後のはけごの中。100gにもならない。
山形で紅花栽培が盛んになった理由として研究者が様々な理由を挙げているが、そのうちの一つが山形県人のねばり強さだという。トゲトゲの痛みに耐え抜き、換金作物として出荷できるようにするためには、どれほどの労力が要求されるのだろう。
江戸時代に生まれていたら、私には絶対無理。
予定では午前10時くらいまで作業が予定されていたようですが、この後強い雨のため作業中止、朝食のおにぎりとお茶、株式会社アイ・タックルで運営している農場『とまとの森』のトマトをいただき、解散となりました。
ちなみに午前5~7時までの作業で、三人のはけごにつみ取った紅花をネットにまとめ、約300g。
これは花びらを煎餅のように加工する「紅餅」にして出荷されるそうです。
株式会社アイ・タックルの皆様、貴重な体験をさせていただき、ありがとうございました。
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今回、紅花摘み作業従事を思い立ったのは、昨年の金沢長期滞在にさかのぼる。
私はもともと、山形県が紅花を観光名産として売り出す姿勢が大嫌いだった。
理由は簡単、紅花栽培の現場なんぞ見たこともない。さらに、現代の日本社会において、紅花はいったい何の原料に用いられ、どんな産業に貢献しているのか?「紅花の里」などと宣伝文句は立派だが、その紅花が何の役に立っているのか、明らかにされていないではないか。単なる過去の遺物ではないのか?
そういう思いがあったのだ。
その意識が変わったのは、金沢滞在に端を発する。
昨冬、金沢にウィークリーマンション住まいすることになり、当然の如く金沢市内の和菓子屋を次々とのぞいていくことになるのだが、金沢を代表する和菓子屋といえば、老舗中の老舗、「森八」。
日本三大銘菓にも数えられ、森八を代表する菓子が「長生殿」。
長生殿は300年余りの歴史を持つ落雁だが、非常にシンプルな和菓子である。地元金沢市民にとっても日常の菓子というわけではなく、「よそ行き」の菓子というポジションである。
この長生殿は白と紅の2種類があるのだが、この着色に用いられているのが山形県産の紅花である。
山形のローカルメディアや観光関係者は一切伝えないが、遠く離れた金沢で、山形の紅花が高級菓子の生産を支えているのだ。
森八は一時期経営が傾き、その動向は石川県の地方紙でもトップで報じられる程だったが現在はなんとか持ち直している。
余談ではあるが、上記画像は森八の広告によく用いられている写真。
長生殿を載せている高坏(たかつき)は森八に代々伝わる蒔絵仕立ての物で、長生殿専用の器なのだが、経営不振によりついに古美術商に手放すことになった。
しかし古美術商の機転により高坏は転売されず保存され、森八が経営を立て直した際、経営者に無事戻されたというエピソードがある。
これら様々な歴史と人間模様に彩られた菓子の材料に、山形の紅花が使われている。
自分の不明を恥じると共に、紅花栽培の一部、花の摘み取りを実際に経験しておきたいと思ったのだ。
そもそも山形の紅花栽培は明治時代に一度完全に途絶えた。
関係者の尽力により、宮内庁行事に用いられるために復活、栽培が続けられ、現在に至っている。
もっとも、それらの出来事は表舞台の一コマにすぎない。
紅花が中東からシルクロード経由で仏教と共に日本に渡って以来、農業にたずさわる人々は朝露に濡れた紅花摘みを、棘の痛みに耐えながら気の遠くなる時間にわたり繰り返してきたのだろう。
ちょっぴり、それを体験してみたかった、休日の早朝でした。
参考文献:
『金沢の和菓子』 千代芳子著 十月社刊 1994
『あなた、私も闘います』 中宮紀伊子著 叢文社刊 2002
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紅花摘みをやってみたい方へ
7月中旬になりますと、山形県各地で紅花関係のイベントが多くなります。
関連リンク:心が和む紅花のみち2013年版(山形県観光物産協会サイト)
私は観光イベントではなく産業としての紅花摘みの現場に興味があったので、株式会社アイ・タックルのボランティア作業員募集に申し込みました。
関連リンク:株式会社アイ・タックル 感謝御礼! 最上紅花収穫お助け隊 募集
最上紅花「収穫お助け隊」募集強化!
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コメント
おばんでございます。
その行動力、素晴らしいですね。
普通だったら、ふぅぅんそぉなんだぁ…
で、済ませるのに、実際に行動されるんだもん…
見習いたいものです。
落雁繋がりではありませんが、
連休で出かけたお山ですが
畜生の雨で断念。
無理すれば行けたかも知れませんが
皆、仕事のことが頭を過ぎり
『無理すねびぁ』となりました。
お土産の落雁ポリポリで
拝見しておりました。
投稿: は。 | 2013.07.15 21:55
re:は。様
<<その行動力、素晴らしいですね。
いーえー、物好きなだけです・・・
<<連休で出かけたお山ですが
前線のおかげで、どこも散々だったようですね。
<<『無理すねびぁ』となりました。
いやいやそれが一番です。
雪渓状況の下見とかビジネスと割り切って荒天の中突っ込んだりしますけど、「えー俺なんでこんな山にいるんだろう」とよく思います(笑)
梅雨明けが待ち遠しい・・・
投稿: 聖母峰 | 2013.07.16 23:49