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8000m峰が6座、増えるかも。

 地球上に存在する8000m峰といえば、エベレスト(8848m)からシシャパンマ(8027m)まで14座。

 と、いうのが一般的な言われ方ですが、ご存じの方はご存じ、他にローツェ・シャールやらヤルンカン、シシャパンマ中央峰など、いわゆる衛星峰がいくつか存在しています。

 2013年秋、スイスで開催予定のUIAA(国際山岳連盟)総会において、新たに8000m峰として6座が認定される動きがあるようです。

La UIAA podría reconocer seis picos secundarios como nuevos ochomiles by Desnivel 2013.8.9

Nepal has 5 more 8‚000m plus peaks by The himalayantimes 2013.8.8

 この件に関しては、UIAAの関係部署とNMA(ネパール山岳協会)会長のアン・ツェリンが組んで「Aguraプロジェクト」なるものを立ち上げ、8000m超のピークを従来の14座とは別個のピークとして認定すべく進めていたようです。

 今回Aguraプロジェクトの俎上に挙がったのは次の6座。

 ヤルンカン(8505m、カンチェンジュンガ西峰)
 カンチェンジュンガ中央峰(8473m)
 カンチェンジュンガ南峰(8476m)
 ローツェ中央峰(8410m)
 ローツェ・シャール(8382m)
 ブロードピーク中央峰(8011m)

 主峰(最高峰)以外のピークを別個の「山」として認める。
 この問題を突き詰めると、なにをもって「山」と定義するのかが問われることになります。

 この定義に関して上記リンクのThe himalayantimesではNMAの見解として、『二つのピークの間にあるコル(鞍部)から距離500m以上隔てられていること、登頂ルートが別個であること』としています。
 またウェブサイト8000ers.comを監修するEberhard Jurgalski は『OROMETRICAL PROMINENCE』(鞍部から最高地点を結ぶ)という概念を掲げています。このOROMETRICAL PROMINENCEという概念がややこしいのですが、クライマーでもありヨーロッパアルプス4000m峰の定義の確立に関わったイタリアのRoberto Aruga氏が、その論文中で次のような図で説明しています。
Op
Roberto Aruga氏の論文『Criteria for 8000ers』より引用
既存峰M1とM2の間にあるXというピークを判定する場合、ピークXにより近く直接最高点に連なるコルC2を基点にしたpが『OROMETRICAL PROMINENCE』となります。

このOROMETRICAL PROMINENCEが60m越えるピークを新たに8000m峰として認めようというのが、今回のAguraプロジェクトです。(Desnivel記事による)

今回選定された6座のOROMETRICAL PROMINENCEは各々、ブロードピーク中央峰(181m)、ヤルンカン(135m)、カンチ南峰(116m)、ローツェシャール(72m)、ローツェ中央峰(65m)、カンチ中央峰(63m)。

今回の記事を読み、私が真っ先に思ったのは、かねてからHAJが問題視しているシシャパンマ中央峰がリストに入っていない点。そもそもこのプロジェクトにはNMAのアン・ツェリン氏が関わっているため、中国領内の山には関与しなかった(したくなかった)のかな・・・とも思ったのですが、このOROMETRICAL PROMINENCEの概念下では、シシャパンマ中央峰のPROMINENCEは30m。と、いうわけで今回のリストからは外れているようです。

 あー数値の羅列でめんどくせー!
 という方がほとんどと思われますので、今回リストアップされた6座を画像で見てみましょう。

Broad_peakgg
左がブロードピーク中央峰(8011m)、右が主峰(8051m)

Kangch
左から、ヤルンカン(カンチェンジュンガ西峰8505m)、カンチェンジュンガ主峰(8586m)、カンチェンジュンガ中央峰(8473m)、カンチェンジュンガ南峰(8476m)

Mzone
右から、ローツェシャール(8382m)、ローツェ中央峰(8410m)

 これら6座が8000m峰に認定されるという事は、どういうことなのでしょうか。
 今まで14座をもって「8000m峰全山登頂」というタイトルが変わるということでしょうか。

 私個人の意見としては、「主峰」登頂をもって8000m峰全山という従来の認識でいいと考えています。
 今回の認定で「実益」として得をするのは、登山料が得られる各国政府ぐらいなもんでしょう。
 これら6座は全て既登峰であり、新たにピークとして認定されたからといって各国のクライマーが登山許可取得に奔走する、という事は考えられません。
 
 前述の論文『Criteria for 8000ers』をまとめたRoberto Aruga氏は、今回の8000m峰認定に関して、ヨーロッパアルプスの歴史を引用しています。
 かつては「山」とひとくくりにされていた山塊に登山者が入ることにより「モンブラン」や「モンテローザ」などと命名されていったように、ヒマラヤ、カラコルムでも同様の事が起こるのは当然の歴史の流れである、と。
 
 ただし、近年の商業公募隊で問題になっているように、主峰手前のピークを「頂上」としたりする風潮があるのは現実であり、Roberto Aruga氏が引用するアルプスの歴史とは異なり、現在のヒマラヤ登山、特に人気の高い8000m峰においては実に微妙な問題といえるでしょう。

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【追記】
 この記事を書いて時間が経ち、何かしら覚える違和感の正体に気が付きました。

 関係者がUIAA総会で「認定」作業を進めている山、ヤルンカンやローツェ・シャールでは、既に私達の偉大な先達が死闘を繰り広げた、立派な「山」なわけです。
 特にヤルンカンは、私がお世話になったHAJの大先輩たちが文字通り人生をかけてカンチェンジュンガ縦走を目指した舞台だったんですね。
 それを今さら「8000m峰」と認定する意義がどこにあるのか?
 UIAA関係者と、実際に血と汗にまみれた先輩クライマー達との乖離を私は感じざるをえません。

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