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いのち

An
ラファエロ・サンティ 『システィーナの聖母』(部分)

 夜。
 病院で、担当医師から父の余命宣告を受ける。
 「その時」の対応について医師と確認を行い、バリウムをジョッキで飲んだような重苦しさを抱えて帰宅。

 帰宅した私を待っていたのは、息子、娘が通う小学校校内で生徒が亡くなった、という通知だった。
 通知には明記されていないが、周囲から伝わる情報で、自ら命を絶ったらしい、という事を知る。

 しかも御遺体の第一発見者は、息子と大の仲良しのA君だった。

 緊急搬送された病院が、私の父が入院している病院。
 その時、父の検査に付き添っていた姉が、救急車で搬送された児童の保護者の悲痛な叫び声を聴いていた。
 姉はドラマの撮影かと思ったほど、悲痛な叫び声だったらしい。

 小学生が、学校で、自ら命を絶つ。

 ささやかながらでも、微力ながらでも、自然を通じて子供達に「何か」を感じ取ってもらいたい。
 そういう思いで少年自然の家行事に関わってきたのだが、自分の子供達の通う学校で、子供が自ら命を絶つ。
 
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 その年、ギラギラした名誉欲に憑かれて登ろうとした山は、頂上には届かなかった。
 朝、2人で出発し、夜、1人で戻った。
 8200mのテントに帰り着き、無線機のスピーカーから聴いた、帰着を喜んでくれた仲間達の歓声。

 翌朝、救援に来てくれたシェルパと合流。
 テントの吹き流しから顔を出した。
 その時見た、太陽の日射し。
 呼吸をしているだけで感じる、「生きている」「生かされている」喜び。

 人は、8000mより上を「デスゾーン」と呼ぶ。
 私はそう思わない。
 8200mで理屈抜きに実感した、あの生きている喜び。

 時は流れて。
 1年2ヶ月にわたり、鳥取県のダム建設現場で過ごした日々。
 ダムに沈むであろう清流で遊ぶ子供達の姿に、高所登山ではなく、野外教育の道に進むことを考えた日々。

 それから10数年。
 多くの人と出会い、子供達と野外で過ごす経験を積んできた。

 それは私のうぬぼれに過ぎなかったのだ、という無力感。
 1人の小学生が、学校で自殺したという現実。
 
 私自身、自殺を考え、手首にカミソリを当てて逡巡したこともある。
 その私が8200mで全身で感じた、生きている喜び。
 あの喜びは私の中で完結してしまい、子供達に伝える術も無く努力もしていなかったのだ。

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 翌々日、作業現場から真っ直ぐ学校に向かい、緊急保護者説明会に参加。
 そこでは事実関係の説明は簡潔に済まされ、子供達へのケアの話が中心だった。

 学校を出るとマスコミの記者が待ちかまえていた。
 竹内力なみのオーラを発しながら歩いていたのだが、なぜかカメラマンと記者に捕まえられる。
 彼らは開口一番こう尋ねる。
 「学校側の説明には納得されていますか?」
 「ええ、納得してますよ」
 どうも彼らの頭の中は『学校 vs 保護者』、という構図でいっぱいらしい。
 適当に答えて記者を振り切るが、背後からは記者達の態度にキレたらしい若いママの「他の人さ聞いでけねっ!」(他の人に聞いて下さい!)と怒鳴る声が聞こえる。
 ワイドショーそのままの光景。

 知己を自殺で亡くした時、ある人からこう言われた。
 「自殺ってさ、とても何か言いたいことがあるってことなんだよね」
 小学生の彼は、何を言いたかったのだろう。


 そして翌朝。
 病院から呼び出しの電話が来た。

 どんよりと曇った朝、私は父の最期を看取った。 

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日常」カテゴリの記事

コメント

聖母峰さんへ

なかなか更新されないので、どうしたのか気になっていました。

色々と大変でしたね。
御尊父様のご冥福を心からお祈りいたします。

少年の悲しいニュース。とても胸が傷みます。
生きていれば、きっといつかは報われる…と希望が持てない社会になってしまったのは大人の責任でもあります。
それでも負けないで生き続けて欲しかったなと思います。

生きてこそ。

消え行く命を私もいま、身近に感じながら、強くそう思っています。

投稿: かうんちゃんママ | 2013.12.03 22:15

亡くなられたお父様の安らぎを心からお祈りいたします。

おっしゃいました生きている喜びをわたくし自身、あることが原因で、あんまり感じないまま長く経ちました。
でも、時折、生きて行きたい!と感じることが少しは前向きにさせてくれたりもします。
何かしたいとか、欲しいとかではなくて、ただ生きたいという切実な願い。
これは命の喜びがほしいのと同じでしょうか。

自分はどうやれ、やはり人は悲しまないでほしいですね。少年のこと、すごく残念です。

投稿: jik | 2013.12.04 01:18

re:かうんちゃんママ様

コメントありがとうございます。
<<それでも負けないで生き続けて欲しかったなと思います。

 ちょっと個性の強い子とうかがっているのですが、遺書という形ではなく、誰かに相談できなかったのかなあ・・・と考えておりました。

 病を重ねて逝った父と、未来があるはずの小学生の死を間近にして、やりきれない一週間でした。

 かうんちゃんママ様にとって良い12月でありますように。

投稿: 聖母峰 | 2013.12.05 22:45

re: jik様
 コメントありがとうございます。

<<何かしたいとか、欲しいとかではなくて、ただ生きたいという切実な願い。

 そうなんです!
 物欲などではない、シンプルに生きていて嬉しいという喜び。
 その喜びの機会は、人によって登山だったり、他の何かでもかまいません。

 今の子供たちには、そう実感できる場がないのかなあ、と考えさせられました。

投稿: 聖母峰 | 2013.12.05 22:50

聖母峰さんへ

色々と落ち着かないと思われる中で、わざわざコメントの返信を下さりありがとうございます。

『いのち』というタイトルに私自身も思う事がたくさんありました。実は私の兄も今から20数年前に自ら命を絶ちました。
大きな悲しみと絶望。そして抱えきれない孤独。家族や友人がいたにも関わらず、その悲しみは救われる事もなく苦悩の末に死を選んだのでしょう。

私自身も韓ドラに負けず劣らず?!波瀾万丈の人生で、いっそこねまま誰にも気付かれずに、存在さえなかったように死ねたら楽なのにと思った事も何度もあります。
それでも生きなければと思えたのは守りたい命があったからではなかったのかなと思います。

その大切な命の子供達は今はやっと手がかからなくなり、私も念願の山歩きを始めました。幼い頃から父と何度も訪れた八幡平での山歩き。運動音痴な私が自分の足で一歩一歩目指す頂上。

苦しい中でふと振り返り、そこから見える景色にいつも胸が熱くなります。『生きているだけでいいじゃないか』と山が言っているようで。

聖母峰さんは子供達に自然の素晴らしさを伝えようとなさっているとの事ですが、一人でも多くの子供(大人も)達が生きる意味を見つけ、強く前向きに自分の人生を大切に生きることに気付いてくれたらいいですね。

山に無性に行きたくなりました。今はまだ行けませんが、春になったらたくさんの山に会いに行きたいです。たくさんの想いをザックの中に詰め込んで。

投稿: かうんちゃんママ | 2013.12.06 10:17

re:かうんちゃんママ様

 身近での残念な出来事、他者が容易に触れられることではありませんが、ご心痛のほどお察しいたします。

<<それでも生きなければと思えたのは守りたい命があったからではなかったのかなと思います。
私も子供を持つ身で深く共感いたします。

 ガイド山行を通じて多くの方々と出会い、ヒマラヤや困難な山だけが素晴らしいものではなく、山の素晴らしさって、登る人それぞれ、1人1人異なるものだ、と教えていただきました。

 来春は、かうんちゃんママ様に山との良い出会いがありますように。
 私も、子供達はじめ多くの方に自然の魅力を伝えられるよう精進したいです。

投稿: 聖母峰 | 2013.12.07 20:49

聖母峰さま

ご無沙汰しております。
お父さまのこと心中お察しいたします。
私の父も病気で10年前に亡くなりました。けれども、私に残してくれたもの、教えてくれたことが沢山あるので、私の気持ちの中で、いまも一緒です!
お父さまのご冥福をお祈りいたします。

それから、いつも聖母峰さんの山を愛するブログを見るのが大好きです。私も、自然を愛する気持ち、そしてそれを伝えたい気持ちから自主企画をしてきましたが、今年は出来ませんでした。来年は、山に復帰して色々とイベントをする予定です。どこかの山でお会いできたら良いですね

投稿: 森の住人 | 2013.12.21 20:40

re:森の住人様
 コメントありがとうございます。

<<私の気持ちの中で、いまも一緒です!

ちょっとうらやましい・・・
山だヒマラヤだと夢中になっている間、家族を養うために人生を賭けてきた父の生き方を理解するのに、私は時間をかけすぎてしまいました。
結婚して家庭を持ち、父の気持ちが理解できるようになるのが遅すぎたようです。
亡くなってから、「ああもっとあの事、話しとけば良かった」とか、そんなことが頭に浮かんでます。

 お子さんも小さいので、自主企画も大変かと思います。
 以前、森の住人さんと二手に分かれて博物園の案内に出たとき、物静かな私の班と違い、森の住人さんの班の方角からは笑い声が絶えなくて「私も案内してもらいたい(笑)」と思ってました。
 復帰楽しみにしております。

投稿: 聖母峰 | 2013.12.23 23:06

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