吹雪のちカルボナーラ
開店休業中の兼業ガイドとはいえ、甘いもん喰ったり図書館に引きこもりばかりしてる訳じゃありません。
秋田県は田沢湖の温泉に一泊。
翌早朝から、某山に入山。
同じガイド団体でJMGAの検定員でもある地元遭対の重鎮・小野さん、後藤さんと共に、道迷い防止の竹棹、ペナント設置作業のお手伝い。
私は大型のタブスのスノーシューを愛用しているのだが、それでも膝上まで潜る鬼ラッセル。
避難小屋までは、コンパスの目盛と針の方位を頼りに進む。
小屋で行動食を摂り、下山しながら枝にペナント設置。
低温と雪のため、ブナ林がとても美しく雪化粧しているのだが、カメラを取り出す間もない。
ペナントの視認状況を確認しながら移動、要所要所でペナントを取り付ける。
下山後、ミーティングを行い解散。
田沢湖から山形の自宅までは遠い。
NHK第2で岐阜大学の安東俊六教授の講演を聴講しながら移動。内容は中国の歌人、陶淵明の歴史的評価とその背景に関する講演だ。
陶淵明の有名な詩『飲酒其五』がとりあげられる。
結廬在人境(いおりをむすんでじんきょうにあり)
而無車馬喧(しかもしゃばのかしましきなし)
問君何能爾(きみにとうなんぞよくしかるやと)
心遠地自偏(こころとおければちおのずからへんなり)
采菊東籬下(きくをとるとうりのもと)
悠然見南山(ゆうぜんとしてなんざんをみる)
山気日夕佳(さんきにっせきによく)
飛鳥相与還(ひちょうあいともにかえる)
此中有真意(このうちにしんいあり)
欲弁已忘言(べんぜんとほっしてすでにげんをわする)
山気日夕佳。
先ほど見た田沢湖。
厚い曇り空の彼方、雲の切れ目から射す夕暮れの光が照らした水面の美しさを思う。
いや、印象に残るのは、「心遠地自偏」心が俗事を離れていればおのずから僻地にいるかのような境地に達するものだ、というくだりだ。
この一週間、山岳ガイド資格をとりまく諸問題で考えることが多く、ブログ更新もする気が起きない。
今日、ガイド仲間と共に山に入り、改めて考えることもあった。
陶淵明と違い、私は酒は好まない。
精神的に疲れているときは、旨い食事が摂りたい。
湯沢で高速道路を下りる。
街灯も無い真っ暗な町はずれに、その店はある。
真っ暗闇の中に、玄関の明かりが灯る店、『イル・トゥルッロ』
カルボナーラを注文。
厨房から聞こえる、フライパンに脂がはねる音。
調理されている間、私以外誰もいない店内で、答えの出ない問いを頭の中でグルグルかき回す。
やがてテーブルに出されたカルボナーラ。
ここのカルボナーラは香りと味とで、二度楽しませてくれる。
食事を終え会計。
レジの向こうで、イタリア南部出身のシェフ、フィリッポ氏が「ありがとう」と声を掛けてくれる。
玄関までシェフの奥様がお見送りしてくれる。
そんなお二人が営む店が、まさに積雪に囲まれた秋田の片隅にぽつんと在り続けるのだ。
店を出て車に乗り込み、冷え切った高速道にのる。
自宅まで、まだ先は長い。
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コメント
雪の少ないはずの東京圏でも珍しくたっぷりの積雪がありました。吹き溜まりは膝まで埋まりました。気温が低いので、3日たっても道の脇に山なして残っています。
踏み分けて道をつける苦労は都会でも同じですね。“ラッセル泥棒”、加藤文太郎伝を読んで、はじめて知りました。槍ヶ岳のライブ映像を見ながら、凍る穂先を越えて向こうの尾根へ歩いてゆく人影の幻想を見ています。
標識付ありがとうございます。お気をつけてください。
投稿: かもめ | 2014.02.12 09:49
re:かもめ様
標識付はホントにお手伝い程度です。
<<雪の少ないはずの東京圏でも
今回の降雪はテレビやネットで見ていて心配になる程でしたが、かもめ様の日常生活に支障無かったでしょうか。
3日経過しても残ってるとは意外でしたね。冬の関東の低温や、建物の日陰のせいでしょうか。
「ラッセル泥棒」ほどではないんですけど、先日知人との話の中で、苦労してラッセルしたトレース登ってきた登山者でなんの挨拶も無い、という話題があり、
私も自戒する次第です。
投稿: 聖母峰 | 2014.02.13 04:23