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山に消えた命、ビル街に消えた命

去る4月18日にエベレストで発生した雪崩事故。
この事故により亡くなったシェルパ達、16名に哀悼の意を表します。

ネット上では
「先進国の登山家に酷使されたシェルパ」
「金持ちの遊びのために生命を危険にさらす職業」
などと評されているが、かつて実際にシェルパ達と山行を共にした者として書いておきたい。

 21歳で初めて経験した8000m峰、私たちは3名のシェルパ、そしてコック、キッチンボーイらと約二ヶ月の登山期間を過ごした。
 経験も実力も不足している私にとって、彼らの強靱な体力に圧倒される日々だった。

 次に訪れた8000m峰では、私たち日本人隊員より先に、一部のシェルパが高度障害に倒れた。
 シェルパの全員が全員、強いわけではない。
 高度障害に倒れた彼らに対して「金を払ってやってるんだ」という意識を持ったことは、少なくとも私は無い。
 なぜなら、当時の私は勤務する会社で 常 に 会社員としての無能さに悩みつつ生きていたからだ。
 高度障害に倒れ、酸素吸入を受けているシェルパを見守りながら、日頃は会社で散々上司に叩かれている自分の姿をダブらせていた。

 もっとも、そんな事は 「外国人が自身のレジャーのためにネパール人を危険にさらした」 という現実の言い訳にはならない。
 なまじ仲間意識を勝手に持ち、彼らと危険な山を目指したことは、否定できない事実である。

 シェルパは今や民族の名称ではなく「職業」の名称である。
 危険な氷河のアイスフォールにルート工作をする。
 それは彼らの職業、ビジネスなのだ。

 今回の雪崩事故を受け、シェルパ達もしくは関係者が補償額の改善を求めたという報道は、不幸の中のわずかな光といえる。
 あえて書こう。
 自らの意思をもって補償やサラリーの向上を訴える機会がある彼らは、ネパールという国家の中では恵まれた存在なのだ。
(恵まれた存在という書き方は誤解を招くかもしれないが、シェルパ達を危険にさらすことを是とする考えは無いことを明記しておく)

 Nepa
ネパール政府の関係事務所に殺到する、海外出稼ぎ希望者達 (Photo by Andrew North BBC)

 皆さんご存じのように、中東カタールでは2022年にサッカーW杯の開催が予定されている。
 現在カタールでは、インフラ整備のため建設ラッシュが続いている。
 その労働力を支えているのは南アジアからの出稼ぎ労働者である。出身地はインド、バングラデシュ、パキスタン、そしてネパールだ。ネパール人はカタールにおける外国人労働者の2割を占める。
 過酷な気候、異なる住環境。
 カタールの建設現場におけるネパール人労働者の死者は、2013年11月現在で400人を超す。ちなみにインド人労働者は過去2年で450人超の死者が出ている。

 人は登山という「遊び」 「レジャー」でネパール人を危険にさらしたという。
 では、サッカーW杯というスポーツ大会、そのインフラ整備の陰で死んでいった400人超のネパール人達の命はどうなのか?

 もちろん命に軽重は無いし、人数が問題では無い。
 世界各地で、最貧国の人々の命が過酷な現場で使い捨てられていることが問題なのだ。

 彼らには保険も無く、健康診断も無い。(シェルパ達は90年代半ばに労組を立ち上げた)
 労働環境改善を訴える場所すら、無い。
 その惨状に、カタールを「解放された刑務所」と発言した在カタール・ネパール大使は本国に召還された。
 なぜか?
 世界でも最貧国のネパールでは、過酷な環境で働く出稼ぎ労働者達は、貴重な外貨獲得源だ。彼らが稼ぎ出す金は、ネパール国民総生産の5割に当たる。
 過酷で非人道的な現場であろうと、雇い主を怒らせては国家が成り立たないのだ。

 先日のエベレスト雪崩事故を受け、シェルパ達の労働環境に憤りを感じる人も多いだろう。
 過去、ヒマラヤ登山でシェルパ達を雇用して登山活動を行った者として、多くの人が感じる憤りなどは素直に受けとめたい。

 しかし同時に、シェルパ達の死に憤りを感じるのであれば、同様に海外の過酷な現場で働くネパール人たちにも思いを巡らせてほしい。

 勝手ながら、私はそう思う。

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関連リンク

Nepal's World Cup trail brings misery by BBC NEWS 2013.11.18

今シーズンのエベレスト登山 by 雪山大好きっ娘+ 2014.4.27

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