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2014年 第22回ピオレドール 審査の内幕

 2014年 第22回ピオレドール賞はアンナプルナ南壁ソロ、K6西峰の2隊に決定したことは既に山屋な皆様にはご承知のとおりです。

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 その審査過程の 生 々 し い 内容の一部が、韓国から参加した審査員イム・ソンムクによって明らかにされました。

FOCUS 第22回ピオレドール賞授賞式 by 月刊「人と山」2014年4月号

記事中から、審査過程に関する部分を抜粋・引用します。

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『あなた方が評価する登山ではない!』

難産の末、ウェリ・シュテックとカナダチーム共同受賞決定
ジョン・ロスケリーはアメリカ人初の生涯功労賞受賞

審査委員らは鋭く対立し、6時間にわたる激しい議論が続いた。
第22回ピオレドール審査委員会(委員長ジョージ・ロウ)は3月28日、フランス シャモニで審査委員会を開催、生命を担保にした登攀に対する昔から続く論争を重ねた結果、フリーソロでアンナプルナ南壁に新ルートを開拓したウェリ・シュテックとK6西峰北壁の自然な氷壁ラインをたどったカナダチームの共同受賞を決定した。
クライミングの危険性と安定性を同一線上に置いた今回の決定は、この時代を代表するアルピニズムの中に2つの極端なクライミングスタイルが共存することを認めたものである。

(中略 訳者注:ノミネートされた各隊の解説が続く)

第22回ピオレドール審査委員会

 第22回ピオレドール審査委員会は、新しい審査規定を追加した。 新しいアルピニズムを定義して、その未来を提示した委員会の今回の決定は 2002年9月6~8日にオーストリア・インスブルクで開かれた「マウンテンスポーツの未来に関する会議」で採択されたチロル宣言に、「頂上に関する新しい原則」を追加したのだ。
  これは将来の登山に対する明確性を確立する点で多くのアルピニストたちが共感した。

第22回ピオレドール賞審査規定

1.エレガンスな登山スタイルか?
2.創造性と革新性があるか?
3.探険の精神があるか?
4.独創的か? 他人の助けを受けたか?
5.遠征隊の自律性があるか?
6.高度の登山技術があるか?
7.参加と自律性はあるか?
8.パートナーと地域住民を保護したのか?
9.自然保護を実践したのか?
10.登頂の証拠は明確か(新規定)?

 審査規定は「クライミングの発展に貢献した模範的なクライマー」を受賞者として選定するという点は以前と同じだが、登頂に対する新規定を追加した。
 細かく見れば、コマーシャリズムのために犠牲を払って頂上に登る行為、スポンサーの莫大な資金支援、大規模な人員、シェルパと高所ポーターの補助、酸素と固定ロープそして衛星通信の利用、薬品利用(ドーピング)によるクライミングなどを否定し、同時に登頂の証拠は明確でなければならないという点がそれだ。 これはアルピニズムの源であると同時に、その象徴が頂上にあることをもう一度強調したことで、今回の審査で論争の中心となったウェリ・シュテックのアンナプルナ南壁登攀を指したものである。 登頂の証拠を提示することのできない場合、今後はノミネートから排除するという意志の現れでもあった。

審査の過程と結果

「ウェリ・シュテックは俳優と同じだ。彼の言葉は人々を惑わしている。」
 候補チームのブリーフィングと質疑応答後に開かれた審査委員会で、カトリーヌ・ディスティベル(フランス)の発言はその場を一瞬沈黙させた。 イタリアの国民的作家であり登山家であるエリ・デ・ルカ(イタリア)は反論する。
「七十を越えた私が俳優とアルピニストを区別できないというのか? ウェリ・シュテックを信じられないならば、なぜ彼を最終候補に挙げたのか」とトーンを高めた。
 するとカトリーヌは「生命を担保にした危険なクライミングを排除して受賞者を選定しなければならない」として、重ねてウェリ・シュテックを間接的に批判した。
  これに対して審査委員で参加した記者は「ヒマラヤ登攀とアルピニズムから、どうやって危険性を排除できるのか?」 デニス ウルブコ(ロシア)も「候補チームの中で危険に直面しなかったチームがどこにいるのか?」として彼女を責め立てた。 審査委員長であるジョージ・ロウ(アメリカ)は「生きて帰ってくることが重要だ」という原則的な言葉でカトリーヌを擁護した。

 様々な意見が飛び交う中で雰囲気は険悪となると、すぐにジョージ・ロウ委員長は「何チームを受賞者と選定するか」を先に決めることを提案した。 昨年、最終候補に挙がった6チーム全員受賞の決定に対して批判的なしたエリ・デ・ルカは、アルパインクライミングのオスカー賞であるピオレドール賞の権威を考えた場合、1チームが適当だという意見を表明した。委員長とカトリーヌは3チーム、記者とデニス ウルブコ、カリン・シュタインバッハ(ドイツ、ジャーナリスト)は2チームが適当という意見を提示してこれを貫いた。


 受賞者の選定過程はより一層険しいものだった。 デニスは最も衝撃的なクライミングを展開したウェリ・シュテックとチェコチームを推薦した一方、審査委員長とカトリーヌはスイス-オーストリア合同チームとアメリカチームを推した。 この過程で大声が行き交ったりもしたが、委員長の仲裁でもう一度投票を進めた。
 その結果、ネパールのタルン北壁を登ったチェコチームはカリン・シュタインバッハが反対票を投じて脱落した。 代案としてカナダチームを受賞者として推薦した記者は「極限のクライミングと最も自然なクライミングを展開した2チームを受賞者で選定するならば、現代のアルピニズムの立ち位置をありのまま示せるいう点で意味がある」という意見を述べた。そして再投票が成り立った。

ウルブコとエリ・デ・ルカ、カリン・シュタインバッハが賛成票を投じて結局、ウェリ・シュテックとカナダチームが第22回ピオレドール賞の主人公となった。 投票後、ウルブコは審査委員長であるジョージ・ロウを正面から見つめて「ミスタージョージ! ゲーム オーバー!」と話し、延々6時間続いたマラソン討議の結果を受け入れるよう迫り、終止符を打った。

審査委員の審査評

ジョージ・ロウ(審査委員長) 「クライミングとは生きて帰ってくることだ。将来のアルピニズムはやはりこの枠組みの中で考えなければならない。いつまで困難で危険なルートだけ探して登るというのか!」

エリ・デ・ルカ 「私の著書『蝶の重さ』でも語ったように、人生は選択だ。アルピニストの精神は危険に対して、それを克服する過程で芽生える。 私たちが人生を生きて数多くの選択をすることと違いはない。」

デニス・ウルブコ 「クライマーの精神は死も辞さないという意志にある。 タルンを登ったチェコチームとウェリ・シュテックはその神髄を見せてくれた。 安全な登攀スタイルに慣れた者が評価できるクライミングではない。」

イム・ソンムク 「アルピニズムの歴史は犠牲の歴史であり、克服の歴史だ。 クライミングの自然的・人為的な危険の克服は登山家個人の選択だ。その選択まで審査することはできない。」

カリン・シュタインバッハ 「ウェリ・シュテックを選定しないというのなら、現在の最も価値あるクライミングを冷遇するということだ。 評価は後日になろうとも今はウェリ・シュテックだ。」

カトリーヌ・ディスティベル 「生きて帰ってくることができる前例を将来に伝えるべきで、危険を減らす方法を認知させなければならない。アルピニストがそのような選択をする一助になりたい。」

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以上引用おわり

 昨年「全チーム受賞」という画期的な結論をだしたピオレドール審査委員会でしたが、今年は激論の末に2隊受賞という結論を導きました。
 私は「全チーム受賞はピオレドールという賞の在り方を考える上でのエポックである」と当ブログで主張しましたが、現実はさらに混迷と対立を増しているようです。
 
 かねてからピオレドールに批判的な論調が目立つイタリアのMontagna.tvはじめ、一部のヨーロッパのクライミングサイトがとりあげていますが、今回選に漏れたクンヤン・チッシュ東峰を登ったハンスヨルク・アウアーなどは「今回のピオレドールに意味なし」 「自分たちを理解してくれたのはジョージ・ロウとカトリーヌ・ディスティベルだけ」 「今後(選考過程などに)変化が無ければ、ノミネートされてもピオレドールには参加しない」など、その不満と怒りを自身のfacebookでぶちまけています。

 なぜか日本の山岳メディアは「誰それが受賞した」という時点で思考停止していますが、それでいいのでしょうか?

 くりかえしますが、私はこういった賞の存在が悪いとは思いません。
 どっかのアルパインクライマーの爺が「クライミングは比較の対象ではない」とか批判してますが、80~90年代に
「酸素パカパカ吸って8000m峰か」とか「今さら極地法か」とか、散々自分たちと他人のクライミングを比較しまくっておいて今さらどのツラ下げて言ってんだヴァーカ、としか私には思えないわけですね。

 しかしここ数年のピオレドールにまつわる話題をみていますと、当事者であるピオレドール受賞者・ノミネーターであるクライマー達の「不満」の声を無視できない事態に陥っていると思います。

 前述のハンスヨルク・アウアーは自分たちのクンヤンチッシュ、そしてK6、アンナプルナ南壁ソロはそれぞれ異質のクライミングであり、異なるクライミングを一線に並べて評価されることに違和感を抱いていることを述べています。
 さらに賞の授与対象を細分化するか、もしくは賞の存在自体を発展的に解消するか。
 いずれにせよピオレドールという賞は、現状のままではその存在意義を問われ続けることになるでしょう。

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