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フェアなのは、誰か。

 この話題は土方仕事が落ち着いてから書こうと思ってましたが、事態が急展開しそうなので、今のうちに簡単な思いを書いておきます。

 中国の高所クライマー王静(Wang Jing)がアイスフォール帯をヘリですっとばしてC2に乗り込み、今季初のネパール側からのエベレスト登頂を果たしたのは既にご承知のとおり。

 この件について、ネパール当局が王静のヘリの運用について調査に入った、または告発したという見出しの報道が流れ始めています。

 各メディアは王静の登頂の事実を伝えるだけでしたが、私が気になったのは、次の点。
 
 中国の新華社通信が「ネパール観光省も認める方向」とやや肯定的に報道。
 その一方、中国最大のアウトドア・登山ポータルサイトで中国登山協会の息がかかった中国戸外資料網は、全く王静の登頂を取り上げていないこと。

 なおツイッターなど読むと、日本の多くの方が勘違いされているようですが、16名のシェルパが亡くなり登山自粛を打ち出しているのはあくまでもエベレストのネパール側。
 北面のチベット側では例年通りの登頂ラッシュが続き、多数のロシア人、中国人が登頂を果たしています。

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ご自分を計量あそばされているセレブな王静様。

 王静のナマの声が知りたい。
 幸いなことに、ウクライナのスポーツサイトが王静の登頂後のインタビューを取り上げていました。
 今土方仕事が忙しいんで詳細の紹介は省きますが、

 「4月18日の事故はネパールそして私自身に大きな悲しみでした。しかしそれが私が諦める理由にはなりません」
 と語り、ヘリコプターによるC2入りを尋ねられた王静いわく、

 「その件に関しては議論したくありません」

 とコメントをはっきり拒否しています。

 さて、王静が騒がせていたネパール側と反対の北面、チョモランマ北稜ルート。
 あまり話題になってませんが、ドイツのラルフ・デュモビッツが自身の8000m峰14座登頂経歴中、ただ1座ボンベを使ったチョモランマに無酸素・単独で再挑戦していました。

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チョモランマ北面C2でのラルフ・デュモビッツ

 そのラルフも8300mで登山活動を断念、下山を決定しました。
 インタビューによれば、ラルフ自身の言葉によれば「2つのミスを犯した」とのこと。
 1つは同時期に入山していたスイスのカリ・コプラー運営の国際公募隊のシェルパと協力体制を築けなかったこと。
 2つ目は、ガスバーナーがうまく作動せず、登山活動に必要な水を十分に作ることができず、ウェア、寝袋、登山靴も湿気がひどく乾燥させることもできなかったこと、を語っています。

 二人の「対照的な」インタビューを読み、考えさせられます。

 王静は16名のシェルパの死亡事故で登山自粛の中、ヘリでアイスフォール帯をショートカットする、それまでの登山の価値観に多大なインパクトを与える行動をとっておきながら、ノーコメントという。

 ラルフ・デュモビッツは、既に8000m峰14座登頂を達成しながら、よりよいスタイルで登りたいと酸素ボンベ無しで挑み、他隊との協力、装備の不備を自ら正直に語る。

 なお王静の登頂に関しては、ロシアのクライミングサイトを読みますと歓迎する声が多いようです。
 ヘリでショートカットした件も、「エルブルース入山にキャットが用いられ始めたのと同じ」と言う声もあります。
 私自身も、ネパール観光省の動向次第では、将来的にアイスフォールをヘリでカットする行為が普遍化する可能性もあり得ると思っています。
 (シェルパ、登山者の生命を保護するため、とか言われ始めたら、なかなか逆らえないよな?)
 また多くのメディアで報じられていませんが、王静は今回の登山に伴い地元クーンブの医療機関に3万ドルの寄付を行っています。まあ資産数億ドル(Forbes記事による)の王静にとってはポケットマネーでしょうけど。

 くりかえしますが、記録のためと語り従来の慣習を「乱して」まで登頂し、それに伴う議論は拒否と明言する王静と、よりよいスタイルで登りたいとチョモランマ(エベレスト)に一人で向かったラルフ・デュモビッツ。

 王静の今回の行動は「波紋を呼んでいる」とぼやかした表現で報道するメディアもあるようですが、登山の在り方を考えれば、二人の内どちらが正道なのか、自ずから答えがでるのではないでしょうか?

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コメント

「将来的にアイスフォールをヘリでカットする行為が普遍化する可能性」 - 高度を除けば一般ルートの最難所ですから安全性は高まると思うのですが、高度順応的には不利ではないですか?

時代の流れからすれば、ヒマラヤ登山観光から、ローツェ・サウスコルトンネル鉄道展望台岩小屋ホテル加圧室へと進むかもしれませんが、高度順応の問題だけは野外に出ると残りますね。

投稿: pfaelzerwein | 2014.05.28 05:30

re: pfaelzerwein

<<高度順応的には不利ではないですか?
 ネパール側BCの5300mからC1の5900mまでで結構な高度差ですのでご指摘のとおりかもしれません。
 最近は多くのクライマーが近隣の6000m峰で高度順応を果たしてから入山していることもありますので、将来的な可能性としてありうるかなと思いました。

 なお私の記事ちょっと飛ばし気味ですが、今現在の報道では、王静氏はヘリで物資を運んだもので、自身がヘリでC2入りしたことを否定しているようです。

<<時代の流れからすれば、
 はい、この「時代の流れ」というものが曲者でして・・・10年20年前には考えられなかったことが8000m峰の世界にも変化が起こっているわけで、特に地球の最高峰として人気のエベレストははっきりいって「何でもあり」の山になるのではないか、と正直思ってます。

  pfaelzerwein様のブログで音楽勉強させてもらってます。今年はR・シュトラウス年ですか。日本のNHKはラジオでもテレビでも「アルプス交響曲」ばかり流しているので、もっと幅広くR・シュトラウスの曲を聴きたいと思ってます。

投稿: 聖母峰 | 2014.05.31 10:25

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