稲虫送り
山形市 大字 長谷堂 漆房(うるしぼう)。
今もなお、「稲虫送り」行事が行われる。
6月29日、その「稲虫送り」を見学させていただいた。
稲虫送り(虫送り)とは、初夏、松明や太鼓を鳴らし水田の害虫を追い払い、五穀豊穣を願う儀礼。
かつては日本各地でみられた行事だが、農薬が普及し始めた1950年代を境に急速にすたれたものの、最近になって復活している地域もある。
この漆房地区の稲虫送りも昭和55年に地元有志の方々の尽力により、復活した行事である。
(雨の夕暮れにて、手ぶれ画像が多い点はご容赦ください)
当日はあいにくの強雨。
18時20分頃、各家々から子供達が漆房公民館に集まってきた。
公民館からさらに集落の上手、ぶどう畑の真ん中で準備が行われる。
ぶどう畑に集まった漆房の住民の方々。
稲虫送りの主役は子供達である。
「この雨でほんとにやるのー」と美しい若奥様たち。
「太鼓のたたき方わかんないよー」
「集まったとこでおしえてやるよ」
親御さんと子供達とのやりとり。
子供たちは缶で作ったランタンを、大人達はペットボトルを持っている。ペットボトルの中身は灯油。
灯油をランタンの缶に注ぎ、着火準備。
わらで作った「稲虫」はトラックの荷台から下ろされ、いよいよ稲虫送りの始まり。
わらで作られた「稲虫」。
若い奥様方いわく、
「こんなに稲虫って小さかったっけ?私たちが大きくなったってこと?」
「最近は作るのも難しいんで、小型になってるのかも・・・」
子供達いわく「カチカチ山だー」と言われながら、代表の子供1名は火付け用のわら束を背負う。
わら束の背負い方、30代くらいのお父さんの結わえ方が違うらしい。
みかねた地元の老人から、教育的指導が入る。
今も昔も、こうして伝統は継承されていくのだろうか。
「稲虫送り」行進開始。
昔は男児のみ参加の行事とのことですが、今は稲虫を引く6名は全員小学生の女の子たち。
「いなむしおーくた、おーくた、おくーたしょー」
というかけ声、太鼓の音と共に、漆房集落の間を通っていきます。
先頭には太鼓を鳴らす男の子と共に、「御祝儀箱」を持った男の子が歩きます。
時折、民家からおばあさんが出てきて御祝儀を箱に入れます。
「ありゃめんごいなあ、あだま雨で濡れでっどれ。傘さしてげは。」
漆房集落を通り抜け、民家から離れた水田の農道で焚きつけ用わらを盛り、「稲虫」を燃やす準備。
「稲虫」が盛大に燃やされていきます。
あいにくの雨で濡れた稲虫、地元の方も燃えるかどうか心配されていましたが、中は乾いていたとのことで、燃えるわら束にくべられました。
「稲虫さん焼けてく~」
「稲虫さようならー」
という女の子たちの言葉もあれば、
「はっはっはっ、まるでゴミのようだ」
ムスカ大佐風に語る男の子もいる。
燃やされていく稲虫。
地元の当番の方が雨に濡れたわらや稲虫を巧みに燃やしていく。
「○○君は火遊び巧いよな~」
と大人のセリフも飛び出す夜。
だいぶ燃えたところで、
「子供会のみなさーん、お菓子配りまーす」
ああ、どこでも同じですね(笑)
子供達にとってはお菓子が重要なようで・・・
「うまい棒入ってる!」
「金平糖だ!」
なにやら夏シーズンらしくオマケに「心霊写真入り」菓子もあり子供達は興奮の渦。
遠くに見える山形市内の夜景。
市街地から離れ、街灯もまばらな農村・漆房にて、地元の方に守られた伝統が息づいています。
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稲虫送り(虫送り)という儀礼は、日本各地において大きく4種類に分類される。
わらでオスメス二匹の「ムカデ」を作り練り歩いた後に燃やす「ムシ型」は東北地方
杉やアジサイで虫かごを作り川に流す「虫かご型」は福島・千葉
大きな松明を作り練り歩く「松明型」は関東甲信越・中部地方
稲の切り株につまづいて討たれ、稲の害虫に化けたといわれる斉藤実盛の霊を慰めるため武将の人形を燃やしたり奉納する「実盛型」は岐阜・愛知を境とした西日本以西
石川県松任市(現・白山市)の調査では、1996年現在で日本全国316箇所において虫送り行事が確認されているという。
また山形県小国町の「貧乏の神送り」のように、他の行事が虫送りの代替として伝えられている地域もある。
今回私が漆房の「稲虫送り」にひかれたのは、山形のいわゆる観光関係の資料には全く掲載されていない、ローカルな行事であることだった。
静かな農村に伝えられる行事にこそ、メディアに仕立て上げられた作り物の「祭」ではない、本当の郷土の姿があるような気がする。
【参考文献】
季刊地域No.14 現代農業2013年8月増刊 農山漁村文化協会 2013年
やまがた民俗文化伝承誌 菊地和博著 東北出版企画 2009年
【参考サイト】
山形市 本沢コミュニティセンター ウェブサイト
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