水沢山
休日、榛名山系の東端に位置する水沢山(1194m)をめざす。
事前に訪れた渋川市立図書館の郷土資料室では、赤城山、榛名山の膨大な関連図書の数に驚く。群馬といえば谷川岳と思い込んでいたが、人々の暮らし・文化・芸能に影響を与えてきたのは、赤城や榛名らしい。
しかし。
毎日目にしている、渋川市街から望む、登高意欲をそそるピラミッド型のピークが気になって仕方がない。
それは水沢山といい、地元の方々に愛されている山らしい。
県内外から多数の登山者が訪れるメジャーな山。
地元の方が多く訪れる、県外者には知られていない、情報量の少ない山。
私が選ぶのはもちろん後者である。
早朝、宿で山行の準備をしているとスマホが鳴る。
ガイドの師匠からのメールで現在は東北ガイド中との連絡。
所属するガイド協会の遭難対策担当している私、御嶽山噴火の後、会員消息確認のメールを配信した。
ガイド仲間のSさんは御嶽山ガイド予定であったが都合で日程を1日ずらしたため、無事だった。
最近は全国区で活動する会員、県外在住の会員もいて油断はできない。
ガイド仲間の事もさることながら、噴火で被災された方々・救助活動に携わる方々を思うと暗澹たる気持ちになる。そして自分自身が抱える、予想以上にハードな作業現場。
いや、やはり今の自分には休息が必要だ。
師匠からのメールを読んだ後、ザックを背負い宿を出る。
JR渋川駅から「うどん」で知られる水沢に移動、水沢観音から取り付く。
山はツリフネソウの群落が歓迎してくれる。
少し登ったところから、ひたすら容赦ない急登。
まさに見上げるような登りが私のペースで約40分続く。
朝早くから登ってきたのだろう、上から下りてくる登山者も多い。
へばりつくような箇所も有り、すれ違いには気を遣う。
どうみても相手がヤバそうな急傾斜の箇所で、上からご夫婦の登山者が下りてきた。
私が山側に寄ってすれ違おうとするが、「あら、どうぞ登ってきて下さい」と言われる。
下から眺めると、初恋の女性に同窓会で出会った時よりドキドキするような谷側の足場に、その女性登山者が寄りかかっているため、こちらも素早く登る。
すれ違いざま、「最近は登り優先知らない人がいるんだねえ・・・」と話し声が漏れ聞こえる。
登山では「登り優先」が原則だが、それはあくまでも原則であって絶対ではない、と私は認識しているのだが・・・。ふー。
特にクライミングが必要な箇所があるわけではないが、ひたすら直登が続く。山慣れない方にはペース配分が難しいところだろう。
水沢観音を出て1時間、十二体の石仏が並ぶ尾根に出る。
素晴らしい眺望。
ここからは気持ちの良いヤセ尾根歩きで、まもなく山頂に出た。
快晴。
周囲360度の眺望。
その素晴らしい眺めは、ぜひ御自分の足で登ってご覧下さい。
賑やかな山頂は短時間で切り上げ、反対側の伊香保温泉方面に下山。
立木や灌木で高度感が緩和されているが、素晴らしいヤセ尾根。これが上州の山か。
ヤセ尾根もおわり、滑りやすい軽石の斜面を慎重に下り、伊香保森林公園のゆるやかな登山道へ。
下山途中、休憩をはさむ。
急ぐ必要は無い。
分岐点のベンチでアイスコーヒーとパンを口にする。それからいろいろな事を考える。答えの出ない考え事。
「蒸し湯跡」に出る。だんだん温泉地らしくなってきた。
大正初期までは熱い蒸気が噴き出し、日本式サウナとして賑わったらしい。
今はさびしい限り。
ここでスマホが鳴る。
同じガイド団体所属で岐阜在住のAさんからの電話だった。
よく御嶽山に行っていると聞き気になっていたのだが、噴火当時は影響のない場所にいたとのこと。ほっとする。
電話を切り、深呼吸してから伊香保温泉方面に進む。
水沢山と同時に訪れたかったのが、
ワシノス風穴。
持っている温度計では外気温19度、吊されている温度計は5度、風穴の前に立つとひんやりと冷たい風を感じる。岩が含む水分の気化熱で冷やされたとはいえ、不思議な感じ。風穴の前では、吐く息が白くなる。
山形では天童の「ジャガラモガラ」、尾花沢の延沢銀山坑道の風穴が知られる。
ちょうど居合わせた地元の女性の話では、今目の前にあるワシノス風穴は岩を組み直したものであり、昔はもっとラフに岩を積み重ねたような所だったらしい。年間を通じて気温5度前後のため、冬季は逆に暖かいらしい。
風穴から歩くこと約30分、観光地の伊香保温泉にたどり着き、今日の山行は終わる。
-----------------------------
水沢山のアプローチ
JR渋川駅バス停から伊香保温泉行きバスに乗りますが、「関越交通」と「群馬バス」の2社が運行しており、まぎらわしい。同じ伊香保温泉行きでも、関越交通バスは登山口のある水沢観音には立ち寄りません。群馬バスの伊香保案内所行きバスに乗りましょう。(私の他にも間違えた方がおられました。)
登山ガイドや記事などでは単にバス停「水沢」下車などと記載されていますが、水沢でも「うどん街」「水沢観音」の2箇所下車する所があります。登山者は「水沢観音」まで行くこと。
ワシノス風穴のある伊香保森林公園、および雌岳・雄岳を擁する二ッ岳山麓は、遊歩道が幾本もあり迷いやすいですね。
県立伊香保森林公園管理事務所にある詳細地図が非常にわかりやすくて良いです。
なお登山ガイド記事等に掲載されている、ワシノス風穴から沢筋を通り伊香保温泉・湯元源泉に通じる「遊歩道」は落石・崩壊のため廃道に近い状態に荒れています。通行にはご注意を。
| 固定リンク
コメント
ほんとう見るに登りたくなる姿の山ですね。
登り優先というルールに関して、私も聖母峰様と同じく、状況によって判断するようにしてます。
ですが、いちいち相手を説得するのも若干面倒なので、今回のお話のように上から下りてくる方に先を譲りたい時は、
「疲れて一息入れたいです。お先にー」
って言ったりしますね。
まあ、相手がルールを知ってればのお話ですが。
投稿: jik | 2014.09.29 13:43
re: jik 様
<<いちいち相手を説得するのも若干面倒なので、
お互い足場の悪いところに長居するのは嫌なもんでして、すみませーんと素直に登っていきました(笑)
まあ山道といっても様々な状況がありますので、臨機応変を心掛けたいと思っています。
<<ほんとう見るに登りたくなる姿の山ですね。
図書館で赤城山や榛名山、妙義山といった名山の資料を読みましたが、どうにも目の前の山が気になって仕方が無い、そんな気持ちでした。
また、そんな気持ちに応えてくれる良い山でした。
投稿: 聖母峰 | 2014.09.29 22:42
聖母峰 様
いつも楽しみに拝見いたしております。
『登り優先が原則』が引っ掛かりましたので、
久しぶりにコメントさせていただきます。
出発前に大規模な遭難に関する業務をした後だけに、
件の「ヤバそうな急傾斜の箇所で、上からご夫婦の登山者」
に遭遇して、聖母峰様は無意識に(転倒、滑落する場面を)
想像されたのではないかと思います。
負傷者を救護し、ことによっては付き添って
下山する必要も起こります。有能な山岳ガイドなら、
当然の想像力です。
『登り優先が原則』とは、余裕があれば譲るという
程度のものであり、自分の立ち位置の危険度すら
超えてまで守るほどのものではないと考えます。
そのような原則を、どんな場所でも守りたい人にこそ
山岳ガイドが必要なのだと思います。
日々の現場作業、ご自愛ください。
投稿: nishimura | 2014.10.01 22:13
re: nishimura様
コメントありがとうございます。
私がフィールドにしている月山では、頂上直下の登山道が狭く傾斜もきつく、時間帯によって混雑するため、ガイド山行の実際では「譲り合う」という相手とのコミュニケーションを図りながら登ることがままあります。
<<『登り優先が原則』とは、余裕があれば譲るという
程度のものであり、自分の立ち位置の危険度すら
超えてまで守るほどのものではないと考えます。
nishimura様のコメント、あらためてかみしめたいと思います。
以前、「登り優先ちゃんと教えろよ!」とキレて大声で怒鳴る登山者の方にも遭遇した経験ありまして・・・
常に状況を把握する心の余裕を持つよう心掛けたいと思います。
投稿: 聖母峰 | 2014.10.02 19:53
聖母峰 様
ご丁寧でお気遣いあふれるお返事をいただき、
恐縮です。
「キレて大声で怒鳴る登山者」や、混雑する
登山道がいやで雪山へ行くようになったなあと
思い出しました。
今も昔も変わらないようですね。原則だ、ルールだ
と言わなくてもスムーズにすれ違える時代が
来るといいですね。
投稿: nishimura | 2014.10.02 22:51