【映画】 越後奥三面 山に生かされた日々
山形に戻り、イベント『山の恵みの映画たち』の一環として上映される『越後奥三面 山に生かされた日々』を鑑賞。
この機会を逃せば、おそらく観る機会は無いだろう。
この映画は、民俗記録映像の作り手として名高い姫田忠義氏製作・演出の147分の長編ドキュメンタリー。
山形県・新潟県県境、朝日連峰の奥地、今は奥三面ダムに沈んだ、新潟県朝日村、かつての奥三面集落の生活を記録したものである。
映画はダム問題に触れながらも、あくまでも人々の生活を淡々と記録していく。
上映後、最近は山岳雑誌にも寄稿されている東北芸術工科大学教授の田口洋美氏がゲストトークとして登場、この講演がまた興味深く時間を忘れさせるものだった。
田口教授は24歳当時、この映画制作スタッフとして関わっており、貴重なお話を伺うことができた。
映画がとりあげているのは昭和50年代後半、日本がバブル期に突入する直前の三面集落なのだが、その時期において、このような素朴な、山に生きる人々がいた事に大変驚かされた。
今はもう東北地方でも滅びかかっている「ゼンマイ小屋」の暮らしが描かれる。
自宅から離れた山中の粗末な小屋で暮らし、ゼンマイを穫り、加工する生活が一ヶ月以上続くのだが、小学生・中学生の子供も同行する。
「ええ!?学校どうするの!?」
と、心の中で思ったのだが、映画は子供達の様子ももれなく記録している。
なんと、当時の三面地区では、
『 ぜ ん ま い 休 み 』
なる、10日間の休みが学校から与えられていたのだ。
映画の中で子供が宿題をする様子が描かれているが、宿題帳の表紙にもしっかり「ぜんまい休み宿題」と記されている(笑)
ゼンマイは高値で売れるため、三面集落の貴重な現金収入を占めることも描かれているが、公教育において「ぜんまい休み」が認められているのも、いかにゼンマイ穫りが生きるための手段であるか社会的に認知されている証左であろう。
子供達が山菜を採り、栗を拾い、魚を釣る様子が記録されている。
それは「野外体験活動」などというものではない。
子供達が穫った山菜、栗、魚はその日の糧であり、家族の食卓のおかずであり、時には現金収入の一部となる。 生きるための行為だったのだ。
この日、映画館は年配の観客で満員、パイプいすも急遽用意される程の満員であった。
おそらく東京あたりで上映される客層とは異なり、多くの観客が懐かしさと共に観たのではないかと推測する。
くりかえすが、昭和50年代にこのような生活が続けられていたことに、私は感動と後悔に似た感情を覚えた。
幼少だったとはいえ、自分自身、貴重な生活習慣を山形という土地で目にしながら、もう忘れ去ってしまっているのではないか、と。
田口洋美氏のコメントによれば、この映画はダム問題にはあまり深く突っ込まず、人々の普通の暮らし、特に「普段何を食べているか」を丁寧にとりあげているという。そこもまた私のツボにはまる記録映画だった。
この映画には、奥三面ダム完成後、移転した三面集落を描いた続編がある。
環境保護団体やら日本パタ何とか社員とは異なり、ダム建設現場で汗と涙を流した経験を持つ私は、その続編をいつか見てみたいと思っている。
一つの集落がダム着工・建設を経て完全に移転する。
そんな時の流れを実際に経験した私は、何を見て、何を見失っていたのだろう。
奥三面の記録映画を通じて、それを改めて知りたいのだ。
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コメント
ご覧になったんですね。私は見逃してしまいました。見逃したのは山形ではなく、新潟県十日町市の「まつだい郷土資料館」での姫田忠義ドキュメンタリー作品連続上映会での分です。三面の回はぜひ観たいと思っていたのですが、都合がつきませんでした。この上映会は、姫田氏の作品119本を何年もかけて上映するという壮大?な企画です。三面は、昨年のシリーズ「山に生きる」の1回目か2回目で上映されたと思います。いまは「アイヌ・日本の原風景」で5本が、来年以降「祈りとまつり」「海のくらし」「山に生きるⅡ」というテーマでそれぞれ6本の上映が予定されているようです。お近くにお出ましの際は、ぜひ寄ってみてください。
投稿: yukibuna | 2014.10.06 16:16
re:yukibuna様
コメントありがとうございます。
<<姫田氏の作品119本を何年もかけて上映するという壮大?な企画です。
新潟でそのようなイベントが企画されているとは知りませんでした。情報ありがとうございます。
「記録映画」ってなかなか上映される機会がありませんので、機会があれば行ってみたいと思います。
投稿: 聖母峰 | 2014.10.13 06:09