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韓国・平昌冬季五輪の落とす影

 今は昔、1998年に長野で開催された冬季オリンピック。
 もはや多くの方が忘却の彼方でしょうが、この1998年冬季五輪開催場所に私の住む山形が立候補していました。

 で、1988年に行われた開催場所を決定するJOC委員会の投票で長野は34票獲得して開催決定。
 この時の投票結果、山形は堂々の 0 票

 後年、山形の地元メディアがこの経緯を分析、JOCを牛耳る堤グループの用意周到な根回し工作に田舎者の山形勢はかなわなかったことを明らかにしていました。
 それ以前に、私は山形に決まらず安堵していました。
 なぜなら、主会場になるであろう蔵王連峰が、これ以上開発の手にさらされずにすむからです。

 長野五輪から20年後の2018年に韓国で予定されている、平昌(ピョンチャン)冬季五輪。
 韓国でもスキー競技会場建設を巡り、環境破壊が社会的問題として大きくとりあげられ、月刊山岳誌でもとりあげられる事態となっています。

 長野五輪当時も、まだ気骨ある頃の『山と渓谷』誌が詳細に自然破壊の動向を報じる記事を掲載していましたが、やはり歴史は繰り返されるのでしょうか。
 まずは月刊『人と山』の記事を引用します。

【ISSUE】ガリワンサン関連国会討論会 by 月刊『人と山』2015年1月号

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P1

【ISSUE】ガリワンサン関連国会討論会

 破壊後は復元も困難なガリワンサン、「環境破壊オリンピック」なぜ誘致したのか

 ガリワンサンは500年の歴史の高山性希少生物の自生地として朝鮮時代から保護区域に指定されており、現在も第9等級・環境省指定緑地に該当する原生林である。
 この貴重な山が2018年の平昌五輪における3日間のスキー競技で破壊される危険にさらされている。
 環境破壊だけでなく、財政赤字も無視できない問題だ。
 スキー競技場の建設費用だけで少なくとも1千100億ウォン以上、復元費用は最低1億ウォン以上投与される予定である。
 泣き面に蜂で江原道議会経済建設委員会は、6時間の開閉会式のために、人口4,000人の平昌郡・横渓里に1千300億ウォンをかけての開閉会場を建てるというのに・・・。

文・写真/チャン・ボヨン記者

 去る12月1日午後3時から6時にかけて、汝矣島国会図書館小会議室で『環境破壊、赤字懸念、平昌オリンピックこのままいいのか』をテーマに、国会討論会が開かれた。

 シム・サンジョン議員室、オイリョンフォーラム、緑色連合、文化連帯が主催した今回の討論会には、イ・ビョンチョンさん(山自然の友人オイリョンフォーラム共同代表)、ジョン・フイジュンさん(東亜大体育学部教授)、ユン・サンフンさん(緑色連合協同事務局長)、キム・サンチョルさん(国家財政研究所研究員)、チェ・ジュンヨンさん(文化連帯事務局長)、ナム・ジュンギさん(明日新聞政策チーム記者)が総合討論に参加し、活発な議論を行った。
討論の後は、参加者の質疑応答が20分ほど進行された。

ガリワンサン破壊の現状と復元の限界

 会場でガリワンサン関連映像を視聴した後、イ・ビョンチョン オイリョンフォーラム共同代表の祝辞の後、ガリワンサン破壊の現状と代案摸索に関するイ・ビョンチョン代表の問題提起が続いた。
 まず、イ氏はデータを示し、国際オリンピック委員会(IOC)、組織委員会、江原道、文化体育観光部、環境部、山林庁、国会などによってガリワンサンが破壊されるに至るまで、直接・間接的に関連がある様々な部署の過失と職務放棄に対して冷静に問い質した。

 その中の3点を選び出してみる。 
 IOCは、彼らが提示した環境オリンピックの概念(環境オリンピックとして自然環境と文化社会的環境を破壊することなく、オリンピック大会を計画・建設し、開催した大会が終わった後の環境において肯定的遺産を残すこと)を破り、国家に過度の施設を要求し環境破壊を誘発している。組織委員会も変わらない。
 スキー競技場の代替地として、ガリワンサン以外の龍坪、H1、茂朱、北朝鮮の馬息嶺スキー場など、さまざまな地域をIOCとよく検討しなければならなかったが、それを行わなかった。

 これに関してイ氏は、1998年長野オリンピックの事例を引用した。

「IOCが国立公園内に新しい競技場の建設を主張したが、交渉を通じて既存スキー場である八方尾根スキー場で行うことを貫徹した。また八方尾根スキー場のスタートラインが1,680mであったが、 IOCが競技の質を高めようと 230m 高い1,850mを主張した。組織委は希少な高山植物自生地が破壊されることを理由に拒否、 交渉を通じて 85m 高い1,765mにスタートラインを作った。またスロープ内の希少な植物保護地域はジャンプ台を作って破壊を防いだ」

 非難の矢は、江原道にも向けられた。ガリワンサンの生態系に関する重要性について検討もせずに冬季オリンピックスキー競技場に指定しただけでなく、使用後の復元を国民に約束したにもかかわらず、現在までに復元のための具体的な計画がないという指摘である。
 本当に復元を念頭におくならば、伐採前の地形、土壌類型、植生の生態的指標種、核心種、貴重種、貴重植物および老巨木に関する資料収集をしなければならないにもかかわらず、急いで伐採を許可した。
 また、スキー場建設のために切り捨てた木が40,000本であるのに対し、生態系復元計画によって移植する木はわずか250本に過ぎない。

 批判に続いてイ氏はガリワンサン復元のための具体的な提案をおこなった。
 まず、単純な作業ではなく、土壌生態系の復元をしなければならないという主張である。ガリワンサン地域のように全地域が土と岩石が互いに堆積し植物の根を支えていく地域が破壊されると、他の地域にも影響を与えるのは確実である。
 第二に、ガリワンサンに自生するすべての植物種の種子、発芽、苗、移植などの種別復元処理はもちろん、種と種の間をもフォローする「コンビネーションプロセス」を出さなければならないという主張である。

 しかし、現在のいかなる部署も生態系復元のための十分な立場と具体的な実践項目を出せない状況である。
復元のためのいくつかの提案をしたが、最終的には「破壊される以前以上の完全な復元は当初から不可能である」というのが結論である。

P2

大規模な国際競技イベントの経済性分析

 大規模な国際競技イベント誘致論者が最も主張する点が、まさに「経済効果」だ。
 国民が競技イベント誘致に熱狂する理由もまさにその点にあり、開会式が織り成す壮大な光景の中に、自分たちの街が「ブランド都市」に格上げした満足感を得る。
 これに対してジョン・フイジュン氏はオリンピック、アジア大会、ワールドカップ、世界陸上大会、F1のような、いわゆる「メガイベント」が経済効果に貢献する点について、一種の「虚像」と皮肉り、観光収入、雇用創出、内需活性化、地域経済の活性化の観点から、その根拠を質して批判した。

 まず観光収入に関して、地域観光業界に持続可能な成長を保証しないという結論である。
 イベント開催当時は、外国人観光客(実は大会関係者)の数が増えるように見えるが、すぐ翌年には例外なく平年レベルに戻ったという点が、ソウル、釜山、大邱、麗水で開催された国際競技イベントの事例で証明された。
 メガイベントが告示されれば、その地域の物価は上昇し人も混むに決まっている。そのため観光客はそのような地域を避ける。実際に、2004年のアテネの観光業者は、観光客が減ったために政府に抗議し、2008年の北京、2012年ロンドンのすべての地域の観光業者の収入には大差がなかったという統計が明らかにされた。

 第二に、雇用創出に関して、メガイベント開催の準備に入ると地域の各所で行われる工事が中断され、競技場などの大会施設を建設するための土木工事に集中するため、雇用の総量は増加しないという結論である。
 韓国の場合、オリンピック、ワールドカップ、アジア大会が開かれたとき、利益を得る業種は、チキン配達店、ビール店、競技場近くの飲食店、限定的ではあるが新型テレビに買い換えることから家電業、その程度だ。
 それ以外は何の関係も存在しないか、むしろ打撃を受けるだけである。特にメガイベントに国民の関心が傾く場合、映画、公演、展示会場などは最初から収入を諦めている。

 第四に、地域経済の活性化に関して、アクティブなどころか、かえって問題が生じるとの結論である。
  2002年ワールドカップ当時、全国に10カ所のサッカー競技場を設けたが、これら競技場は、自治体に年20〜40億ウォンの財政負担を強いて、これは市民にとって多大な税金負担となっている。
 江原道が冬季オリンピック誘致のために1兆6千836億ウォンを投入した「アルペンシアリゾート」は、現在の赤字運営に加えて借金が1兆ウォン、毎日1億ウォンの利子が発生している。

P3

平昌オリンピック合理的な予算編成のための提案

 最後に、「平昌五輪の改善策と合理的な予算編成のための提案」をテーマにユン・サンフンさんの問題提起が続いた。
 ユン氏は最近の仁川アジア競技大会を例に挙げて、新規のスポーツ施設の建設を最小限に抑える必要があり、建設するとしても規模を最小限に抑える必要があると述べた。
 仁川アジア競技大会の閉幕式が行われた競技場の場合、文化体育観光部が既存施設である文鶴競技場の改修を勧めたが、これを無視して新築し、4千673億ウォンの施設費が追加され、このような無理な投資費用が、最終的に公共料金引き上げ計画発表につながった。

 江原道は、分譲率25.8%のアルペンシアリゾートを建設して、毎日1億3千万ウォンの利子を支払っている。
 にもかかわらず、アルペンシアリゾート内にスキージャンプ、ノルディックセンター、バイアスロン、新規スライディングセンターなど4つの競技場と仲峰(チュンボン)のスキーリゾートを運営しなければならない状況である。
 さらに1千100億ウォンをかけてガリワンサンで3日間のスキー競技を行った後、少なくとも1千億ウォンの予算をかけて施設撤去と復元をすると発表した。
 しかし、冬季オリンピックの競技施設は、一般人が試合を楽しむとはいい難い種目、不人気種目が多く、競技施設の事後活用案を見つけるのは困難である。過度の施設新設は、江原道の財政負担につながることが明らかである。

 代案はある。
 もし国際スキー連盟(FIS)の規定によるツーラン「2Run」規定 (開催地の地形条件上、標高差800mを満たしていない場合は、標高差350〜450mで2度にわたり競技を行う) を導入すれば、局面は全く異なってくる。
 あえて今のようにガリワンサンを破壊することもなく、1千億ウォンの予算浪費も防ぐことができる。何よりも国際競技イベントによる環境破壊国という汚名から脱して、新しい選択肢を示すことができる。

 ツーラン「2RUN」規定の適用のためにはIOCとの交渉力を最大限に発揮する必要がある。 開催が確定している状況にあるだけに、IOC委員の関心を買うために準備した華麗な計画を撤回して、競技場の規模や位置、開会・閉会式のための施設などはすべて現実に合わせて調整する必要がある。

 オリンピックは政治家と資本家に幻想の機会を提供する。一方、開催地の地域住民には、わずかな誇り、楽しさが残るかは不明だが、将来に環境面、経済面の負担を払わなければならない。先行する議論を収束すると、メガイベント誘致による開催地の経済発展は無いか、あったとしても非常に限定的ということが今回の国会討論会の結論である。
 実際に外国では、メガイベント誘致に関しては市民社会の反対が常である。 韓国では、このような認識には未だ遙かに遠いのが実情である。

 本質的に見ると、メガイベントに対する国民的執着は、国土の不均衡な発展がもたらした相対的な剥奪感と疎外感から始まったことがないだろうか?
 地域間格差が減るならば、非常識で非論理的な誘致ブームは消え去るべきであろう。

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以上引用おわり

 このガリワンサン自然破壊問題について韓国メディアを検索していくと、韓国の自然保護運動関係者が実によく日本の札幌冬季五輪による自然破壊、そして1998年の長野冬季五輪におけるスキー競技場を巡る自然破壊、それに伴うスタート地点を巡るIOCとの交渉経緯をよく研究されていることがわかります。

 しかしながら、現況のガリワンサン伐採現場の報道をみるにつけ、平昌五輪スキー会場の計画段階において残念ながら長野五輪の教訓は生かされていないようです。
 古い朝鮮王朝時代から500年以上保護されてきた森と山があっさりと伐採された様子は、こちらのウェブサイトで告発されています。

参考サイト They went and did it! 500-year-old primeval forest at Mount Gariwang unlawfully destroyed for 2018 Pyeongchang Winter Olympics by Gamesmonitor オリンピック神話を暴く ウェブサイト

 また、月刊『人と山』記事で代案としてあげられている「2RUN」競技制に関しては、既に2014年10月の時点でFIS国際スキー連盟会長がチョ・ヤンホ平昌五輪開催委・委員長に対して拒否回答を伝えていることから、実現は困難な状況です。

 既に進められているガリワンサン伐採、実現困難な2RUN制。
 平昌冬季五輪は各国メディアが華々しく報道するアスリート達の姿の陰で、大きな代償を求めることになるでしょう。

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コメント

はじめまして

かなり以前から読んでいます…
昔のクライマーの記事など懐かしい所です。

さて、もう夏冬問わず、オリンピックの存在意義ってあるんでしょうか?
国家の威信?経済効果?もう一般大衆はスポーツなんて見飽きてしまって
僅か二週間のマスコミのお祭り騒ぎなんて、大して興味ないんですよ。

しかも各種目には世界選手権が必ずあって、なんで敢えてオリンピックでも
似たような記録会をやるのか???不思議でなりません。
今更、終わらせられないのか?人間とは愚かな生き物です。

環境破壊までして造った施設を、また維持していかなけれならず
放っておけばいい自然に手を加えて、しっぺ返しを食らうのは
自分達なのに…

投稿: やまじょぐ | 2015.01.04 00:11

re: やまじょぐ様

<<かなり以前から読んでいます…
こんなブログですが恐縮です。ありがとうございます。

<<さて、もう夏冬問わず、オリンピックの存在意義ってあるんでしょうか?

 まだ体型まともだった頃トライアスロンかじっておりまして、トップアスリート達の「五輪入賞で競技を社会的に認知させたい」という情熱をひしひしと感じていた事もあったので、一概に否定できないと考えているのですが・・・

やまじょぐ様おっしゃるとおり、誘致から競技開催に至るまで、「国家の威信」「経済効果」って鼻に突きますね。東京五輪も同様です。東京は福島から遠く離れているそうですし(冷笑)

 最近、札幌が再び冬季五輪に立候補した一方で、アスリート達からも評価の高いオスロが冬季五輪招致を断念したのは、私には賢明な選択に思えます。
(断念の要因としては、やまじょぐ様ご指摘のように世界選手権、W杯開催があるから五輪はもう結構、という意見が大勢のようです)

 私自身、建設業といういわば「開発する側」の人間ですので、記事の内容はなかなか耳が痛い点もありますが、近代五輪開催から百年以上経過した今、もっと環境に調和した開催手法があるのではないかと思えてなりません。

投稿: 聖母峰 | 2015.01.04 22:34

上の記事にも書かれてますが、少し前のアジアンゲームが運営的にこけた事もあって我が国でも、少なくとも私の周りでは、オリンピックを望まない強い意見も結構あります。

おっしゃいました「国家の威信」は、幸いことに、もう古い言葉になったと思いますが、「経済効果」の信者は未だ大勢いるように見えます。
まぁ、19世紀のヨーロッパ帝国だって、一部上層クラスが利益を得て、国全体では損したという学説もありますから、「経済効果」は間違いなく「ある」でしょう。
また、誘致にはキム・ヨナさんの国内人気も役に立ったと思います。

私自身は純粋なスポーツの意味をまだ疑いませんが、
積雪が足りなくて人工雪無しでは全てのスキー場が成り立たない国で冬季オリンピックは正直笑い話に聞こえますね。

投稿: jik | 2015.01.26 10:12

re: jik様

 コメントありがとうございます。
 
<<上の記事にも書かれてますが、少し前のアジアンゲームが運営的にこけた事もあって

 jik様の周囲でも賛否両論のご様子。

 今回の「人と山」の記事で一番印象に残ったのは最後に記されている「国土の不均衡な発展」という点でした。
 最近読んだ韓国に関する書籍でも、韓国国内の地域間における経済格差というものがとりあげられていましたもので。

<< 私自身は純粋なスポーツの意味をまだ疑いませんが、

はい、五輪を目指すアスリート達の姿は素晴らしいと思うのですが、メダル至上主義の中で心身共に消耗していく選手の姿をみて、何か違うなあというのが正直な感想です。
 生涯スポーツとして、老いてもなお地域の体育施設でコツコツと自分の好きなスポーツを楽しんでいる方々の方がアスリートとして素晴らしく、かつ幸福なのではないか、と思うことがあります。

<<積雪が足りなくて人工雪無しでは
近年、各種スケート競技で韓国勢がめざましく活躍されているのを拝見して、冬季五輪開催という選択もあるのかと思っておりました。
 韓国のスキー事情に関しては不勉強でよく知りませんでした。韓国はアイスクライミングの対象となる氷壁が発達する程にとにかく冬季は冷える環境というイメージがあったのですが、やはりスキー場は人工降雪機頼りなんですね。

 いずれにせよ、これ以上の乱開発・伐採無しに会場問題が軟着陸できる方法はないものか祈る次第です。

投稿: 聖母峰 | 2015.01.26 23:01

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