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「私は機械じゃない」 ウーリー・ステック、韓国で語る

 スイスのウーリー・ステックが先日来日したのは、既に山屋な皆さんにはご承知のとおりですが、今回はマウンテンハードウェアの販促で韓国も訪問、各種イベントで注目を浴びていたようです。
 早速、韓国の月刊MOUNTAIN誌に興味深いインタビューが掲載されました。
 スピードクライミングの意義、トレーニングの秘訣、その中で語られる意外にも「楽しむ」ことにウェイトを置いた主義主張が印象的です。

最高のクライマーでないとしても、まだクライミングを愛する by 月刊MOUNTAIN 2016.02.02

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Ueli

「最高のクライマーでないとしても、クライミングを愛するだろう」 世界的な登山家ウーリー・ステック訪韓、今春シシャパンマ未踏の岩壁の計画が明らかに 文ミン・エンジュ 

 世界的なスピードクライマーであり登山家のウーリー・ステックが韓国を訪れた。
 ウーリー・ステックは、私たちの時代を一歩先行く「前衛」を象徴する名前である。アルプス3大北壁のソロクライミング・スピード記録を立てた彼は、その後も継続して時間を短縮、昨年11月にはアイガー北壁を2時間22分で登る驚異的な記録を残した。
 ヒマラヤでの活躍もすごい。2008年サイモン・アッターマンテンとテンカンポチェ北壁に新ルートを開拓してピオレドールを受賞した。2012年にはアンナプルナ南壁を単独登攀して2度目のピオレドール賞を獲得した。
 昨年にはアルプスの4000メートル峰を登頂する「82サミットプロジェクト」を完登予定日より18日早い62日後にすべて登頂した。 尖鋭的なスピードクライマーであり、優れたアルピニスト、ウーリー・ステックに会い、クライミングにかける情熱と今後の計画を聞いてみた。

韓国訪問を歓迎いたします。よく「スイスマシーン」と言われていますが、誰がそのように言い始めたのですか?その通称はどう思われますか?

 以前に私の映像を製作していた映像会社が付けてくれたニックネームです。私としてはそう呼ばれることは好きではありません。実際、変なニックネームだと思ってます。私は機械じゃありませんよ(笑)

遠征登山の対象と目的は、どのようにして決めていますか?

 頭の中にはいろいろなアイデアがあり、何かを選択する理由は、それぞれ異なります。時には、ただ登ることができるから登るということもあります。何より、遠征を実現するには良いパートナーを見つける必要があります。それが目標の選定が非常に難しい理由ですね。ただ今後は8000m峰を登ることに力を注ぎます。最近の私の関心はそちらに集中しています。

ソロクライミングとパートナーがいるクライミングと、どちらが好きですか?

 これらの2つのクライミングは完全に異なっているので、どちらか一方を好きだと言うのは難しい。実際にはパートナーの有無は、プロジェクトの性質に依存します。多くのプロジェクトの場合、パートナーと一緒に登ること自体が不可能です。アイガーのスピードクライミングのような場合はソロクライミングがはるかに有利です。逆にパートナーがいてこそ可能なプロジェクトもあります。私はクライミングの方法に基づいて柔軟に決定します。

主に一緒に登山するパートナーはいますか?

 8000m峰を一緒に登るほど強力なパートナーを見つけるのは非常に難しい。ドイツのダーフィット・ゲットラーがいますが、多くの場合、私は試みたいプロジェクトについて意欲に満ちた人を見つけることもあります。私はそれぞれのプロジェクトに最適なパートナーを選ぼうとします。

最も忘れられない登山やクライミングは?

 唯一の登山・クライミングを挙げることはできない。すべての山行が充実しているからです。もちろん、アイガー北壁を最初に登った時のように、特別な瞬間も訪れます。初めて8000m峰を登った時も同じです。
 その「特別さ」は「新しさ」から来ます。 私の考えでは、本当の特別な瞬間は、「どこかを最初に登ったた時」に生まれます。そのような感覚は、すでにその山に慣れた後は感じるのは難しい。もちろん、2回目の登山もいいのですが、すでに経験しているので冒険と不確実性の領域は減りますね。

アンナプルナ南壁単独登攀という素晴らしい挑戦をすることになった動機は何ですか?

 私は2007年にアンナプルナで落石に遭い、2008年には遭難者を救助するために登らなかった。その後も多くの人々がアンナプルナに登りましたが、誰も私が試したルートは登っていませんでした。それが私の頭の中に深く印象に残り、そのルートを上りたい情熱が消えませんでした。だから2013年にドン・ボウイと一緒に登りに行ったのです。当初は単独登攀をするつもりは全くありませんでした。
 ところが、氷河の下に到着したとき、ドン・ボウイが体調がすぐれず登山は難しいと言って下山しました。今日8000m峰で、本当に大変なルートは、いくらも残っていない。ジャンクリストフ・ラファイユとピエール・ベジャンが初めて試みたアンナプルナ南壁もその一つであり、私は必ずそのルートを試してみたかったんです。だからなんとか一人で登る方法を見つけることにしました。そして、そうしたんです。

アンナプルナ南壁単独登攀を計画していたのではなく、現場で即座に決定したというのは驚くべきことです。

 うまく説明することは難しいですね。もちろん、リスクが大きくなったのは事実です。しかし私はソロクライミングを熟知しており、何よりも私は一人で登る能力があることを知っています。だから、パートナーが去っても、まったくいないとしても、私はまだ登山を続けることができます。
 このようなことは私の故郷のアイガー北壁でも行いました。私のパートナーが体調不良で登れないと言ったときに、私は「じゃあ、後で!」と言い残して、単独でクライミングを続けました。私たちは、その後、レストランで再会しました。もちろん、これは非常に危険なゲームであり、いつもそうしている訳ではありません。

ヒマラヤに戻る計画や、具体的にクライミングを構想している他の山はありますか?

 この春にシシャパンマ南壁を登る計画があります。

シシャパンマの未踏ルートですか?

 そうです。まだ一度も頂上まで登られていない、南壁の素敵なルートを登ろうと考えています。私はまだ8000m峰を夢見ています。シシャパンマは私が長い間あこがれ続けてきた、大きな挑戦になると思います。

引き続きアイガーの速度記録を短縮しています。スピードクライミング自体があなたの目標なのか、それともより大きなクライミングのためのトレーニングの一環ですか?

 スピードの短縮には、特別な意味を置いていません。わずか6分早くなったことに何の価値があるんでしょう?。ただしアイガーを速く登ることは本当に良いトレーニングですし、私は常に新しいものを発見しています。記録更新は、後から続く結果にすぎません。
 私の場合は、最後の記録の価値は、2時間22分で更新したことではなく、私は160程度の低い心拍数を維持しながら、スピードクライミングが可能なことを発見したことです。それは昨年のアイガーから得られた結果です。また、私たちの家から車で20分しかかからないということも、私がアイガー北壁によく通う理由の一つです。

それはあなたの8000m峰登山にも役立つでしょうか?

 もちろんです。これは非常に有効なトレーニングです。スピードクライミングをする前に、私はキリアン・ジョルネとアイガー北壁を登りました。私たちは、グリンデルワルドから登り始めました。それは1800mを走って登攀開始地点に取り付くことを意味します。登山が終わった次は再びそれ同じ高度差を降りてくる野蛮なものです。本当に長い一日でした。総行程28kmを一気に移動することは8000m峰登山のための非常に良いトレーニングです。
 また、このようなトレーニングは8000m峰に接する態度を変化させる大きな助けになります。人々は山一つを登るためにあまりにも多くの時間をかけて非常に多くのキャンプを設置します。私の考えでは、すべての8000m峰はベースキャンプから一日で登ることが可能だと思います。

スピードを意識した登山をすると、危険度は高くありませんか?

 登山中の危険性が増加するのは事実です。しかし最近、私は非常に安全に登っています。記録のために一定のリスクを甘受した昔とは違います。おもしろいのは、安全に十分に配慮しながらも、私はまだ速いという事実です。

アルプス4000m峰82座を登ることに成功しました。このプロジェクトを試みた特別な理由はありますか? 一定期間内に4000m峰すべてを登るというのは、どのような意味がありますか?

 特別な理由というよりも、ただ登山がしたかったんです。途方もないアルピニズムではなく、毎日外に出て登山をして、楽しい時間を過ごすことが目的でした。シンプルだが素敵なプロジェクトですし、私にとっては最高の経験の一つです。

速度の短縮のためにアルプス82座登山を再びやってみる考えはありますか?

 全くありません。今回のプロジェクトでは、62日もかかりましたし、パートナーを待つのに無駄な時間を除けば、総行程55日から50日程度かかりました。再びやってみれば、記録は短縮できるでしょう。天気がよければ、より早く終わることもあると思います。しかし、それは今回の登山の目的ではありません。私には、このプロジェクトを介して友人と一緒に登った登山がより重要なんです。記録にはあまり興味はありません。

遠征登山中に天候待ちをする時は、何をしていますか?
 
 ああ、私はその時間が本当に嫌いなんです。待つことはできないですね。何かを読んだり映画を見ることもありますが、率直に言って本当に耐え難いです。それでも最近は、遠征の計画を立てるが少しうまくなりました。まずクーンブ谷に行って高所順応、天候に関係無く、ロッジに泊まって毎日トレーニングをすることもできる。クーンブ谷の天気を確認して、登山計画を立て、以前のように悪天候で二ヶ月もベースキャンプに閉じ込められなくてもいいですし。

どこでインスピレーションを得ていますか?

 その時その時で違いますが、時には本で読んだクライミングの歴史からインスピレーションを得ることもあります。アンナプルナ南壁の場合、私はそのルートが最初に試みられた時の記録を完読しました。登山の歴史と自然の魅力が組み合わされた結果のようです。山はいつも私を魅了させてくれます。そこには、私は本当に好きな、素晴らしい美しさがあります。

木工が得意と聞きました。どんなものを作ったんですか?

 住宅を建築しました。最後に作ったのは、私たちの家です。とても多くの時間を注ぎ込んだ私の自慢ですよ。

個人的な生活と登山とのバランスはどのように維持していますか?

 「登山家」は実質、大変な仕事です。私の個人的な私生活は重要だと考えますが、プロの登山家は、一種の公認であり、遠征や旅にも数多く行かなければなりません。例えるならば、私は2つの世界に住んでいるわけです。時には、その中でバランスをとる事が難しいこともあります。

将来のアルパインクライマーにトレーニングのヒントをいただけませんか?

 状況に応じて異なりますが、トレイルランニングは登山にとってすぐれたトレーニングです。私はトレイルランニングと室内の人工壁を並行することが非常に効率的だと思います。
 しかし、成功するトレーニングのためには、何よりも、そのトレーニングを好きにならなければなりません。もし、その時間を楽しめずにトレーニングのためのトレーニングをすると、良い結果を期待するのは難しいですね。成功するトレーニングのためには、自分が楽しく続けることができるよう見いだす必要があります。あなた自身を成長させ山で強くなる秘訣です。

長期的な登山の目標は何ですか?

 重要なのは、最終的にはそのプロセスにあると思います。私の登山は、これまで着実に成長してきたが、いつかはこれ以上進まない瞬間が来ます。遅く、弱くなる過程を喜んで受け入れ、クライミングの別の意味を発見することができたら良いでしょう。おそらく10年以内に、私の登山は、記録よりも冒険の要素がより重要になるでしょう。
 私の目標は、その変化の過程の中で、登山の楽しさを失わないことです。

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※当ブログでは名前 Ueli Steck を「ウェリ・シュテック」と表記してきましたが、編集者森山憲一様のブログ記事にならい以後「ウーリー・ステック」と表記します。

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