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菩薩が微笑む時 【宮城県 船形山神社 梵天ばやい】

山形・宮城県境に位置する御所山 (宮城県名 船形山)。

 宮城側、船形山山腹のどこかに、古代朝鮮・百済から伝わったとされる日本最古ともいわれる金銅仏が祀られているという。
 その仏像は、「梵天ばやい」と呼ばれる豊作を祈る行事の際に、年に1回だけ、人々の前に公開されるという。

 そんな情報を得て、5月1日、雨が激しい東北自動車道を大和町に向かう。

 神社入り口とされる鳥居から、鎖場と疲弊したフィックスロープが連続する険しい山道を15分程登り、船形山神社に到着。
 数十人の人々、地元の方、見学の方が既に集まっている。

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 12時、神事がおわり、お社から出てきた別当が裏手の神域に消えていく。

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 神域とされる奥は、まるで飾り立てられたかのようにタムシバの花で彩られていました。

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 幸い雨は霧雨に、濃いガスで神事と相まって、周囲のブナ林も幻想的な雰囲気となる。

 山中のどこかに菩薩像を取りに行った別当を待つ間、「どっから来たんだい」 「山形です」という会話がきっかけで、地元の方と話を交わす。
 「1キロぐらい歩いてんでないが」
 「んなわけね、そのへんに隠して時間稼いでんだベ」

 このあとに行われる「梵天ばやい」のことで話は盛り上がる。

 「昔はそれこそ2、3百人くらい、この敷地いっぱい入れないくらいに人が来たんだよ」
 「ケンカみたいなもんだから、入れ墨入れた奴とか来てたりな」
 「来る途中におっきな岩あったべ。昔は女人禁制で、女はあの岩までしか来られねんだ」
 「梵天の奪い合いで荒いから、いこん(遺恨)ある奴とかはここに来ないんだ」

などなど、地元の方ならではの生々しいお話を伺う。

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 神域に姿を消して20分経過、別当が木箱を抱えて戻ってきた。
 菩薩像は一度、お社に入れられ、神事を済ませてから、敷地奥の拝殿に安置される。
 人々は一斉に菩薩像を参拝しようと群がっていく。

P3
 船形山神社敷地奥の拝殿。左に見える小さな木箱に菩薩像が安置されている。右の梵天が「梵天ばやい」の主役。

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 順番がまわってきて、ようやくご対面できた船形山神社の金銅菩薩像。
 菩薩像をご覧になった方々が口々に
 「全身濡れてる」
 と言う。

 この菩薩像、その身体の湿り具合でその年の天候を占うという「作占い」の意味合いもある。
 ちなみに今年は梅雨が長引くのではないかとの判定でした。

P5
 菩薩像の表情近影。

 この菩薩像は、近年までは盗難など万一の事態を憂慮し詳細発表が控えられてきたが、1978年、地元の方々のご了解を得て本格的な調査が始まった。
 近年の研究成果から、6世紀の百済からの渡来仏、現存する金銅仏としては日本最古の可能性も示唆されている。東北地方には日本海側を中心に、平安時代以前の13体の金銅仏が確認されているが、いずれも7~8世紀のものであり、船形山神社の菩薩像だけが6世紀のものと考えられている。
 
 その特徴は頭部の花飾り、そして柔らかい表情とその笑みだ。

 日本への仏教伝来とほぼ同時代の仏像が、なにゆえ、おそらくは当時の日本の辺境の地である東北に位置することになったのか。
 また、なにゆえ普段は山中に隠され、年に一度の公開という形式をとるようになったのか。
 史学・民俗学の研究もまだ解明には至っていない。

 宮城の登山家である深野稔生氏が著作で推定しているように、当時の中央政府の重要な拠点であった宮城県多賀城、そしてそこに移り住んだ渡来人に由来するのではないかという説があるが、菩薩像と渡来人を結ぶ確たる証拠は無い。

 日本最古ともいわれる金銅像が、人の目にふれることなく山中に潜み続け、年に一度、豊作祈願の神事で人々に笑みをもたらす。

 鈍感な現場作業員にすぎない私にも、古代朝鮮から渡ってきた菩薩像に歴史の流れというものを感じずにはいられなかった。

船形山神社 金銅菩薩像の御開帳までの流れを記録した動画はこちら↓
(お社での神事の場面は割愛しています)

参考文献
 門脇佳代子・渡邊泰伸共著論文「陸奥国色麻郡所在の渡来仏 -船形山神社御神体を巡って- 」 東北福祉大学研究紀要 第40巻
 深野稔生著『宮城 山遊び山語り 栗駒・船形編』 無明舎出版1999

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