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高い山

5月13日。
山形県の伝統行事である「高い山」の祭日である。
高い山、といっても鳥海山や月山のことではない。

旧暦の4月17日、現在は5月13日。
開運と五穀豊穣を願い、親しい人と共に近郊の里山に登り、お重や酒を持ち込み、宴会を行う。
この行事を終えてから、人々は水田の仕事を始める、農作業の節目ともいわれる。
古来、山形の人々は行事そのものを「高い山」と呼んだ。

この「高い山」行事は、山岳信仰、特に虚空蔵尊信仰の祭日として行われ、山形県中央に位置し虚空蔵尊が祀られている白鷹山(994m)に多くの人々が登る。

そんな行事をこの目で確かめるべく、なんとか休暇が取れた5月13日、白鷹山に向かう。

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白鷹山は幾つもの登山口があるが、この日は山辺町・厳原登山口へ。
集落には大きな幟旗。

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湧水で知られる「五番御神酒湧水」の大木の下で、高齢の男性お二人がシートを敷いて酒を酌み交わしていた。

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お社の脇には、音も無く砂を巻き上げて湧水がこんこんとわき出ている。
この日は朝から気温も高く温暖な日。お話を伺うべくお社に近づくと、
「まあ御神酒飲んでいけ!」
「今日はお祭りの日ですか」
「高い山の日っていうお祭りだ。」
「ここ数年天気わるかったげど、今日はいい天気だがらなー」
「なんだ、今日は祭りの日ってしゃねで(知らないで)来たのが?」
「いえ、高い山っていう行事があるとはお聞きしてたんですけど・・・これから登ってきます」
「じゃあ、これ持ってけ」
と、柿ピーの袋を幾つも頂戴する。
さあ、いざ白鷹山・厳原登山口へ。さきほど少しだけいただいた御神酒で、気分はお祭り状態。

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チゴユリ。

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登山道を彩るスミレ。標高1000mに満たない白鷹山は、花盛り。

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登山口から1時間ほどで頂上。既に多くの人々が集い、休憩所では神事が行われている。
白鷹山は山形市、上山市、南陽市、白鷹町、山辺町の境界に位置するため、自治体の長はじめ官庁職員も登り、「白鷹山山頂サミット」と称している。「高い山」という伝統的な行事名を用いず「サミット」という言葉を用いるところに、醜悪なセンスが表れている。

時間は10時半、どんどん登山者がやってきて、頂上広場はいっぱいになってくる。
地元の消防団の皆さん、登山者の皆さんはあちこちに陣取り、酒盛りや弁当開きの用意をしている。

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そして小学生たち。
山辺町や白鷹町の小学生たちが集団登山、山頂で交流会をするのだ。
先生の話を横から聞いていると、
「他の学校のお友達と積極的に名刺交換するように!」

え?名刺交換?
子供達をよくみると、手に何枚ものカードを持っている。自作の名刺らしい。す、すごい・・・

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私も白鷹山の虚空蔵尊に参拝。
家族の健康からガイド仲間の安全、自分の今季の安全やら何やらを祈る、欲張りな参拝。

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人は多いけれど、私も少しのんびりしよう。
山頂には売店も設けられている。焼きそば400円、玉こんにゃく100円、ワラビ汁200円、ジュース50円。
商魂たくましいというよりも、郷土資料を調べると、昔も「高い山」で里山に露店が出るくらいにぎわっていたらしい。
本日はワラビ汁をいただきます。ワラビと油揚げ、一緒に煮込まれたニシンの切り身がいい味だしてます。

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今日の気象予報では最高気温28度、意外に空気は澄んでいて、月山と葉山の間に鳥海山がうっすら見えました。
庄内地方と違い、山形県の内陸部で鳥海山が見えるというのはなかなか無い。それだけに人々にとっても山の眺めで会話が盛り上がります。
「おい、鳥海山見えるぞ!」
「あの白いの月山だべや」
「んねず、月山と葉山の間に白い山見えんべ!あれ鳥海山だず!」

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各地から集う登山者、そして各地の小学校から来た子供達で山頂はカオス状態。
ワラビ汁で一息いれたところで下山します。

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グループで下っていく方々、そしてこれから登ってくる方々。
登山道はおしゃべりの声が絶えません。

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雪椿を眺めながら、のんびり下りました。

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 この「高い山」行事、民俗学において様々なアプローチがなされているが、飯豊や月山にみられる成人儀式、霊山的な儀式に対して開運・豊作を祈る「作神」的儀式として位置づけられている。
 長い歳月を経て、いつしか宴会としての性格が強くなり近隣の人々と酒と食を共にする行事に変化したとみられている。
 この「高い山」と同様の行事はかつては日本全国でおこなわれ、、世界的には中国西南部の少数民族にもみられる行事である。 しかし現在の山形県において、「高い山」として大々的に行われるのはこの白鷹山の祭日が最も大きいものだろう。
 私にとっては、白鷹山に入山前、五番御神酒湧水でみかけたお二人の静かな酒宴に、本来の「高い山」を見る思いがした。

 最近、『外道クライマー』なる書籍を楽しく拝読した。
 どうにも気になるのは著者その人ではなく、著者をとりまくクライマーとかいう輩の言動である。
 登山の反社会性?
 どっかの探検家ヅラしたライターや、一部のクライマーと称する輩は、登山に反社会性を求めたいらしい。

 山に登り、人々が酒と食事を共にし、開運と豊作という自分たちの生活の未来を祈る風習が今もなお続いている。
 
 東京という都会に住み、記事という情報を右から左へ流す山岳メディアに関わる人々にとっては、山に登るという行為が、人々の生活とコミュニティにとって大きな役割を果たしている現実と歴史をご存じないらしいし興味も無いのだろう。

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参考文献
 菅原健治 「高い山」と「登高」 『置賜の民俗』 置賜民俗学会誌 第20号 2013年12月
 佐野賢治 山岳信仰の重層性-羽前置賜地方「高い山」行事の周辺- 日本民俗風土論 1980
 大江町老人クラブ連合会 大江町の年中行事 1984

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コメント

1,2年前までここの山岳会にいたので、白鷹山には冬場に何度か登り、山小屋で焚火を焚いてご飯を食べたものですが、夏場の白鷹山がこんな風になってるとは思いもせなんだ(笑)。

露店まで出るのですね。
わらび汁200円、食べたいです。^^

re:やま・ゆり様

 返信おくれましてすみません。
 私も山形市内に住んでいながら、白鷹山は小学生の宿泊訓練での登山以来でした。

<<夏場の白鷹山がこんな風になってるとは
 頂上着いた時には地元消防団の皆さんが盛大に酒盛りしてるしで私もビックリでした(笑)
 
 ワラビ汁200円高いかな~と思いましたが、前述のようにニシン(たぶん)がいい味で、暑いくらいの陽気に塩気のある味噌汁がちょうど美味かったです。

 あらためて県民の森や白鷹山周辺の山深さに浸りました。今度は静かな時に再訪したいと思っています。

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