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畏怖の念 【山の神勧進 山形県新庄市 萩野地区】

平成28年12月11日。
今年の4月に引き続き、山形県新庄市 萩野地区で行われる「山の神勧進」を見学させていただく。

 山形県の最上地方で行われている「山の神勧進」とは、集落に祀られている「山の神」を子供達が持ち回り、集落の家々を訪れる行事である。
 最上地方の「山の神勧進」の開催時期は、新暦の4月、12月末、そして今回の12月12日に近い週末の三つに大別される。
 その由来は、最上地方における山の神とは「田の神」に変化すると考えられており、
 ・新暦4月は山の神が田の神に変わる季節
 ・12月末は子供達が冬休みに入り行事が執り行い易い時期
 そして12月12日は、山の神にとっての年越しの日、と信じられていることに由来する。

12月12日に近い週末、新庄市の黒沢、吉沢、萩野の3地区で山の神勧進が行われる。
文献を調べ、ある特色をもつ萩野地区の「山の神勧進」に興味をもち、現地を訪れた。

朝9時、国道の温度掲示板は-2度を示す。
ときおり激しい降雪の中、中学生・小学生の子供達が歩いていた。

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現在各地で行われている「山の神勧進」は付き添いの大人が同行している場合が多いが、この萩野地区では昔と変わらず、子供達だけで集落をまわっていた。
 「山の神」木像を持つ一番大将(リーダー)に見学させていただきたい旨、挨拶してから同行する。

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 萩野地区の「山の神勧進」の特徴は、訪れた玄関で「山の神」木像を転がす点にある。
 訪問先で神像を転がす、という行為は「山の神勧進」以外、近隣の尾花沢市で行われる「地蔵ころがし」行事との共通点がみられる。

 住民の対応は様々だ。
 玄関口で御賽銭を渡して終わる方、玄関口にお膳やお盆に御神酒・灯明を準備して木像をお参りする方。
 昔から伝わる様式は、子供達からいったん木像を預かり、奥の仏間に持ち込んで参拝、それから子供達に木像を御賽銭と共に返す、というやり方である。

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 山の神をお迎えするため、玄関に置かれた御神酒と灯明

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 そして人々は五穀豊穣・家族の健康、未来を祈る。
 この日は前夜からの激しい降積雪、集落の男性は除雪や急な雪囲いに忙しい。
 対応するのは女性が多い。
 どの家も、子供達をいたわり、山の神をうやうやしく参拝する。

 住民からいただくのは御賽銭の他に餅、お菓子などだ。
 廻り始めて10時前には担当の子供が持っているビニール袋はお供え物でパンパンだ。
 途中、大人は車でお供え物を回収にくるのみで、集落をまわるのはあくまでも子供達だけだ。

 つきそいの大人がいないので、子供達の会話も奔放だ。
 住宅を訪れおわった後、
 「ここ、○○円だけだぜ」
 「え~すくねえなー」
 「山の神あるんだから、川の神つくってまたもらえるんじゃないの」
 ※賽銭は子供達で分け合うのが「山の神勧進」共通の習慣である。

 などなど、ずいぶん「すれた」会話だなあ・・・と思っていたが、しばらく子供達につき合うと、次第に子供達の「山の神」に対する気持ちが見えてきた。

 子供A「疲れるなー、もうここ(家)とばしちゃおうか」
 子供B「山の神にとばすなんて、ありえねーべ」
 子供A「山の神(木像)、二つに割ってさ、二手に分かれよーぜ」
 子供C「そんなことできるわけねーべ」
 一番大将がなにげなく山の神の木像をお手玉のように放り投げながら歩き始めると、同じ年頃の二番大将らしき中学生が、

 「山の神様になんてことすんだよ!」

 と声が飛ぶ。
 気温マイナス2度、激しい降雪、長距離を歩いての移動。
 年上の中学生らは楽しげに会話を交わしているが、うしろをついていく小学生は不安げな表情でちょっぴり辛そうだ。
 そんな中でも、「山の神勧進」の口上を唱えながら元気に集落をまわっていく。
 その会話の中に、ときおり現れる子供達の「山の神」に対する畏怖の念。

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 新庄市萩野地区の山の神勧進、一番大将が持つ「山の神」木像
 
 「仲間」をナイフで切り刻み、川に沈めて人命をもてあそぶ中学生もいる。
 東北の山奥で、「山の神」という見えない存在に畏怖の念を抱く中学生もいる。 

 同行して約1時間以上経過、広い県道にでたところで、子供達がまわった家々を確認し始めた。
 立ち休憩も兼ねているのだろう。
 そのタイミングを見計らい、一番大将に御賽銭を渡し、見学させていただいた御礼を述べる。
 「これからまだ何軒もまわるんですか?」
 とたずねると、さきほどの奔放な会話は消え、子供達から丁寧な言葉遣いの回答が返ってきた。
 おりからの激しい雪と積雪、子供達に「どうぞ気をつけて」と挨拶し、私は集落を離れた。

 新庄市萩野地区、山の神勧進の子供達の口上は次の通りである。

 山の神のおいで
 銭なら四十八文
 餅なら十二
 祝ってたもれば亭主殿
 銭倉米倉つぐように
 この家の身上のぼるように
 この家の身上のぼるように

 

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