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Wild Country : The man who made Friends

Wild_2 Mark Vallance著 『 Wild Country : The man who made Friends 』 (ワイルドカントリー フレンズを世に送り出した男) を読む。
 クライミングのカミングデバイス、「フレンズ」開発者といえば、レイ・ジャーディンを思い起こす方がほとんとであろう。
 この本はフレンズを「商品」として創り、ワイルドカントリー社を創業したマーク・バランス氏の自伝である。

 バランス氏の生い立ちから語られるのだが、なんといっても注目されるのはフレンズが製品化されるまでのストーリーであろう。
 クライマーな皆様はご存じのとおり、フレンズそのものを開発したのはアメリカ人クライマーであるレイ・ジャーディン氏であるが、それを製品化し、商品として世に送り出すため奔走したのがイギリス出身でやはりバリバリのクライマーであったマーク・バランス氏である。
 
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山岳博物館に保存されている、レイ・ジャーディン氏によるフレンズ初期の試作品(本書掲載写真)

 バランス氏が初めて試作品を手にし、クライミングに用いたのが1975年、場所はヨセミテのワシントンコラム。
 知られているエピソードどおり、試作品は周囲のクライマーたちには秘密にされ、青い袋に入れて持ち運ばれ、「フレンズ」と呼ばれていた・・・という経緯はあっさりと記述されている。
 本書によれば、レイ・ジャーディン氏は「フレンズ」以前に「グラバーズ」(grabbers、つかむやつ、ひったくり の意)と呼んでいたことが紹介されている。
 この呼び名に対してバランス氏は「あんまりイケてない」と不評だったようです。
 何かのはずみで、もしかしたら「フレンズ」は商品名「グラバーズ」になっていたのかもしれません。

 ジャーディン氏が開発した「フレンズ」、これを製品として生産し、流通させるため、ジャーディン氏とともにバランス氏の奮闘が始まります。
 デザインの改良、それに伴うスプリング、カム、本体の材料となるアルミ合金の選定、調達、金属を加工する技術者探し、会社「ワイルドカントリー」創設、それにともなう法人税etc、etc・・・・

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ワイルドカントリー社創業に際して書き込まれた、会社のクリティカル・パス。(本書掲載画像) 拡大してみられないのが残念・・・

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新工場設立時の記念写真、前列中央の男性がマーク・バランス氏。
中列、左から6人目、濃いスーツ姿の男性は名クライマーであるジェリー・モファット氏。

 こうして世に送り出された「フレンズ」がクライマーに受け入れられ、さらにキャメロットなど類似製品が続いたことはクライマーの皆様ご存じのとおり。本書には、ギアマニアならたまらないエピソードが満載である。
 営業活動を兼ねて日本山岳会の招聘で来日した際のエピソードも、詳しく書かれている。
 来日時に日本側の同行者として、バランス氏にとって深く印象に残っているのが坂下直枝氏。冬季アンナプルナに単独で挑んだクライマー、そして「綺麗な英語を話しユーモアに長けた人物」として評価されている。やっぱり英語とユーモアって大切なんですね。
 バランス氏は坂下氏らと谷川岳でクライミングを楽しむ・・・はずだったのだが、そこで転落事故に遭遇。坂下氏の活躍で遭難者は搬送されるが、バランス氏は谷川岳の遭難碑、あの600名以上の名前が連なる石碑を、驚きをもって描いている。

 バランス氏はビジネスを軌道に乗せた後、自分の夢絶ちがたく、ラッセルブライスら率いる商業公募隊に参加してヒマルチュリ、シシャパンマ、ブロードピークなどに遠征。

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ヒマルチュリを登高中のマーク・バランス氏

そしてクライミングは人工壁全盛の時代を迎え、人工壁に関するビジネスを手掛けるようになる。
イギリスでは1961年に既に人工壁の先駆けとなる壁が作られていたことが明らかにされている。

クライマーとして世界中の壁、チベット、ネパール、カラコルムの山を登り、ビジネスをこなすバランス氏。
そんな氏を病魔が襲う。パーキンソン病である。
パーキンソン病が進行しながらも、イギリス中を巡るサイクリングに熱中するなどアウトドアに活躍する氏。
しかし病は進行する。
少しずつクライミングにも限界を感じ、そんな自分を受け入れ、「人工壁を登った後、早めにパブで一杯やる」という氏。
そして2012年、ワイルドカントリー社のサレワへの買収。

マーク・バランス氏は最終章において、「夢」の存在を熱く語る。
パーキンソン病にむしばまれても、夢が幻のようになろうとも、クライミングの如く重力に逆らうように諦めない。

読み進んでいる間、私は本書はギアマニアにお勧めの本だと思っていた。
読了後はまったく違う感想を抱いた。

我々が普段用いているギアが、いかなる情熱の下に産み出されてきたのか。
登山、クライミング、そして仕事。そのバランスをとって生きていくことの困難さ、そのやりがい。
本書はマーク・バランスというクライマー、ビジネスマンの自伝という形で、クライミング(登山)のある人生の素晴らしさを教えてくれる。

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