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クルコノギ社 物語

知る人ぞ知る、アイスクライミングギアのメーカー、クルコノギКрюконоги(Kryukonogi)。

ロシアのクライミングサイトなどでよくリンクバナーを見かけるのですが、飾りっ気の 全 く 無いロゴだけのバナー。
一体どんな会社なんだろうと思っていましたが、ロシアの「日本経済新聞」にあたる経済ニュースサイトRBC (RosBusinessConsulting) が急速に輸出ビジネスを伸ばした企業として、クルコノギ社創設のストーリーを紹介しています。

Железные люди: как двое альпинистов наладили экспорт ледорубов by РБК2018.4.10
(鉄人たち 2人のクライマーがいかにしてアイスアックスの輸出ビジネスを確立したか)

以下引用開始
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鉄人:2人のクライマーがいかにしてアイスアックスのビジネスを確立したか
 特殊合金、クライマーコミュニティへのインターネットアクセスによって、クルコノギ社創業者は趣味を輸出ビジネスへと変貌させた

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アレクサンドル・ピンコフ(Alexander Penkov) Photo by Oleg Yakovlev/RBC

 「クルコノギ社を知らないアイスクライマーはいないでしょう」
 ローマン・チェルノフ、キーロフのクライミングギアメーカー「Вертикаль(Vertical)」貿易担当次長は語ります。彼は海外でクライミングギアを販売していますが、 クルコノギ社がこの業界で大きな進歩を遂げたことを認識しています。

 サンクトペテルブルグの企業「クルコノギКрюконоги(Kruconogi)」社の事業は、クライミングギアのハンドメイドによる製造から始まり、今や国際市場でも有名なブランドとなりました。 特殊合金を用いた製品、2017年にアスリート達のネットワーク「Kryukonogov」を創設、利益は870万ルーブルに達し短期間に成長しました。売上高の68%は輸出に由来しています。

 サンクトペテルブルク州立大学で航空宇宙計装を学んだアンドレイ・ヴァルバキン(Andrey Varvarkin)は、1994年に初めてチタンアイス・アックスを製造しました。彼自身が設計し、金属加工工場での生産を進めました。

 登山歴44年になるヴァルバキンが学校を出た1990年代、ロシアでウェアやギアを購入することは困難でした。スポーツ用品店の棚は空っぽでした。 ヴァルバキンは最初に登山用バックパックとジャケットを自分のために作り、次に友人に販売し、その後登山のための装備を作り始めました。

 2007年、彼はクルコノギ社ブランドを登録し、2010年にオンラインストアを開設、サンクトペテルブルグにあるNGO「ミズナギドリ」の小さな製造拠点を借り、現在は工場に6人の作業員と1人のデザイナーが在籍しています。
 初めは知人友人や幾つかの店で販売しましたが、利益は控えめなものでした。この事業は数百万ルーブルの年収をもたらしましたが、利益は一ヶ月あたり約2万ルーブル(約3万5千円)でした。スポーツ用品店の棚には、すでに輸入品の登山用具で占められていたため、中小企業が競争することは困難でした。

 34歳のクライマー、アレクサンドル・ピンコフ(Alexander Penkov)は、ヴァルバキンの小さなビジネスを輸出ビジネスへと変貌させました。彼は2012年にヴィボルグのミックスクライミングコンペでヴァルバキンと知り合い、関心をひかれました。 「私は自分自身でアンドレイの製品を使い、そのブランドが気に入りました。私のパートナーはイデオロギーの持ち主です。彼は技術、生産について熱く語り、目は燃えていました」とピンコフは語ります。

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アンドレイ・ヴァルバキン(Andrei Varvarkin) Photo by クルコノギ社プレスサービス

 2014年8月、2人は一緒にビジネスを進めることに同意しました。 アレクサンドル・ピンコフは運営責任者の役割を引き受け、40万ルーブル(約70万円)を投じた。 クルコノギ社では20%を受け取っています。

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クライミングギアの市場

 ロマーナ・ブリュカ(山岳連盟役員)によれば、ロシアでは約1万人が山岳連盟に登録し定期的に登山活動を行っています。さらに3万人のロシア人が登山を趣味として楽しんでいます。2010年、ロッククライミングは競争としてIOCに加盟し、2020年の東京オリンピックで初めての競技が開催されます。これは新たな競技人口が加わり、専門店では新たな顧客を期待しています。

 ロッククライミングとアイスクライミングは登山の一分野で、岩壁や雪、氷の障害を克服することを意味します。原則として、登山に真剣に取り組む人々はロッククライミングとアイスクライミングの技術を学びます。登山者はさまざまな障害を克服するために数百の異なる道具を使用し、クルコノギ社はアイスクライミングギアに特化しています。
 アルプ・インダストリア(訳者注:ロシアの大手登山用品メーカー)のブランドマネージャー、ディミトリー・セペレフは、ロシアのアイスクライミングギア市場規模を6000万ルーブル(約1億円)と推定しています。これは世界市場の約4%です。 「ヨーロッパ、アメリカ、中国は山岳地帯に恵まれ、主要なロシアの都市のほとんどは山から遠い」しかし、ロシアでは、スポーツアイスクライミングと人工壁でのトレーニングに人気があります。

 クライマーのための設備の生産、ロシアでは登山・アウトドア用品は半世紀以上にわたり、イタリアのグリベル、フランスのペツルなどのブランドに占められ、キーロフの企業「vertical」やモスクワの「オリオン・アルプス」などは「産業クライミング」(訳者注:建物のメンテナンスや冬期の除雪・氷除去など、ロシア特有の産業)の機材生産・販売に特化しています。
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装甲鋼材の強さ

 アレクサンドル・ピンコフは、ゼレノグラードにあるモスクワ電子技術研究所、電子技術・材料設備科の卒業生です。彼はいまだにモスクワでシステム管理者として働いていますが、副業としてほぼすべての時間をクルコノギ社の多忙なビジネスに費やしています。

 ピンコフが取締役に就任して最初に手掛けたのは、賃料と給与に関する借金を返済することでした。 「会社は新製品の開発に力を注いでましたが、財政・組織面の問題は二の次になっていました」

 ピンコフの就業によって製品の生産体制が整えられましたが、彼はロシア国内市場は規模が小さく、輸出のため西側諸国メーカーと競争できる製品が必要であると考えました。

 それが、交換可能なピックでした。アイスアックスの先端です。「西側諸国では一般的な鋼材からピックを生産しており、それは品質的に曲がったり、早く摩耗します。ときには生死に関わる問題です。」 vertical社のローマン・チェルノフ氏がコメントします。

 西側諸国のピックより優れた品質を求め、ピンコフは質の高い素材を探しました。「金属は丈夫なだけでなく、壊れにくいことが必要です。例えばピックには、30種類の鋼材の中から、適しているのは4~5種だけです。」

 解決策は偶然に発見されました。 2014年、鋼材提供企業のための加工会社「レーザー技術センター」で装甲用鋼材を試すことができました。軍用機や装甲車両に用いられる材料です。ピンコフによれば、装甲用鋼材の硬度(HRC)は55~57であり、通常の鋼材は25~27です。

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クルコノギ社ピック

 ピンコフは10kgのサンプルを購入し、40個のピックを製造しました。その後、それらを自分自身でテストしました。彼らはレニングラード地方ヴィボルグキ地区の花崗岩の岩場を登り、その結果から装甲用鋼材からピックを生産することを決断しました。
 ディミトリー・セペレフによれば、通常の鋼材で作られたピックが約1ヶ月間使用できるとすれば、装甲用鋼材は1年は保つと言われています。同時に、それらはシャープさを保ち続け、頻繁に研ぐ必要もありません。

 原則として、メーカーはトン単位で大量に鋼材を販売します。クルコノギは、わずか150gのピックを数十個作るため、 「高品質の金属を、スクラップ材の価格で購入することがあります。同社では装甲車両の車体を製造するため3分の2が用いられ、残りの3分の1の処分に困っていたようです」
 「私たちは、金属加工会社、メーカーのサイトを常にチェックして、興味深いオファーを見逃さないようにしています。」

 ローマン・チェルノフによれば、クルコノギ社が海外展開する際に、西側諸国のクライミングギアの交換用ピックを製造し、それから自社独自のアイスアックスを開発しました。ディミトリー・セペレフが述べるように、アイスアックスには2つのタイプがあります。クラシックなアイスアックスはあらゆる登山者の基本道具であり、通常は片手に一本持ちます。そしてアイスクライマーが使用する、いわゆるアイスツールがあります。アスリート達は常にそのようなアイスアックスを吊り下げています。そのため軽くて強いことが非常に重要です。

 スタンダードな登山に適したシンプルなアイスアックスのコストは、5~6千ルーブルを必要とします。クルコノギ社は経験豊富なアイスクライマー、複雑なルート、競技に適したアイスツールを製作することを決めました。そのような設備の費用は15,000ルーブルを必要とします。

 2015年、ピンコフは航空機用材料として用いられるアルミニウム合金製のアイス・アックスのシャフト製造を決めました。 ピンコフは幾つものメーカーに電話をかけましたが、ごく少量の合金の販売には応じてくれません。そこで彼はAviation Profiles and Rental Factory社のレオニード・ヴァシリエフに頼んでみました。

 「彼はロシア製品のために立ち上がってくれました。300kgしか買えないという要求を汲んでくれ、15%の割引もみてくれました」アルミニウム合金による困難なクライミングのためのシンプルなアイスアックスはわずかに600gです。オンラインストアでは約2万ルーブルの価値があります。

 しかし、商品としてヒットしたのは前年に生産を開始したチタン製のアックスシャフトでした。以前にチタンで試作し、実験した製品で、友人のために製造されたアイスアックスでした。材質は非常に強く軽いものの、高価です。正価でチタンを製造業者から直接購入すれば、それは1kgあたり5.5-6000ルーブルになります。 しかし昨年、彼らは30年前に生産された160kgのチタン材を倉庫の片隅で見つけることができました。購入費用は1kgあたり1500ルーブルでした。

 このおかげで、チタンとカーボンから作られるシャフト、そして装甲用鋼材から作られるピックという新モデルの生産が確立できました。価格3万ルーブルと高価だが重量は490g、ペツル社のアイスツール、ノミックはロシアでは18500ルーブルで重量609gです。
「アスリートにとっては、アルミニウムである以上にチタンであることが重要です。」 セペレフは強調します。
アレクサンドル・ピンコフは、世界中の誰もがチタン製シャフトを手放せないと主張します。

コミュニティの支援

 クルコノギ社はフェイスブック、VK(訳者注:ロシア版フェイスブック)、Instagramに自社ページを立ち上げました。自社のギアを選手達に供給するだけでなく、コンペの主催者に提供も始めました。

 ピンコフによれば、クライマーの世界は非常に狭く、誰もがお互いを知っており、絶えず新製品を求めています。クルコノギ社のギアはロシア人クライマー、ウラディミール・ベルーソブ、ポール・ドブリンカらによってアイスクライミングW杯で使われました。そこで海外のクライマーが新しいブランドに興味を持ちました。

 最初の1人はスイスのクライマー、イヴ・ヘルベルガーでした。クルコノギ社はヨーロッパにおいて代理販売をするように持ちかけました。その後、日本のアイスクライマーであるナキア・マサト(訳者注:原文発音のまま)が自国でギア販売に興味を持ちました。
「日本の市場は非常に限定されており、競争は低いものの、私たちが協力できれば面白い」とピンコフは語ります。
 カナダでは、ロシアから移住したStas Beskinがクルコノギ社の貿易相手になりました。現在、同社は世界各地で複数の輸入業者と協力しています。それらを通じた売り上げは小規模ですが、ピンコフが強調しているように、製品は地元の人々によく知られており、彼らは地元のコミュニティでも積極的なメンバーです。
「彼らのような人々のおかげで、私たちはコミュニティで信頼を得ています。」

 クルコノギ社の商品は高価で、さほど利益はあがりません。 1つのピックのコストは50ユーロ、アイスアックスのコストは300~400ユーロです。ディーラーを通じた卸売販売による利益率は25-30%、ウェブサイトの通信販売で60-70%です。輸出額の80%は、オンラインストアによる小売注文で、ピンコフが郵送を担当しています。

 海外におけるネットワーク拡張と並行して、ピンコフは国内販売を拡大しました。 2014年まで、クルコノギ社のギアは極東のPrimalp、エカテリンブルクのManaraga、サンクトペテルブルクのTramontanaなど3つの小型スポーツ専門店で販売されました。
  ピンコフは他の小売店にも営業をかけたものの、新しいブランドが突然に取り入れられることはありませんでしたが、コミュニティによる支援によってアルプ・インダストリアのネットワーク、スタームショップ、スポート・マラソン社への供給が実現しました。「このギアは専門家による専門家のものと言えるでしょう」とドミトリー・セペレフは説明します。

 ピンコフは、クライミングに熱心な人々がビジネス構築に役立つことが多いと言います。彼らはギアを購入し、クライミングコンペでブランド「クルコノギ」を知ります。最近では、フランスのスポーツ用品デカスロン社の従業員であるクライマーと親密になりました。両社は商品に関する交渉を開始しました。

 2017年には、アメリカの業者であるRock and Iceと Rock and Resoleがピンコフに接触してきました。新しい顧客はアイスクライミングの製品だけでなく、クルコノギ社の他のギアにも関心を示しています。2社は既に2,500ユーロで最初の注文を行っています。そして最近、同社のスタニスラフ・ロブゾフとヴァシーリー・テレキンらが中国のアイスクライミングチームを指導しました。彼らは最初のアジアからの注文を3000ユーロで受注しました。

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海外におけるロシア産金属に関する神話

ローマン・チェルノフ、Vertical社・貿易担当次長

 クライミングは狭い業界であり、アイスクライミングはさらに狭いという事実にもかかわらず、クルコノギ社はブランドとして台頭してきました。世界のアイスクライマーで同社のピックを知らない者はいません。"クルコノギ社は世界に高品質の製品を提供することを可能にし、生産を開始しました。ロシアでは、ヨーロッパのメーカーが手に入れることのできない特殊合金があると多くのクライマーが信じています。またロシアのメーカーは海外向けのギアを生産しています。しかし、海外での収入のシェアはそれほど多くありません。

「彼らは非常に狭いニッチ市場を持っていますが、彼らはそれに精通しています」

ドミトリー・セペレフ アルプインダストリア・ブランドマネージャー

 クルコノギ社は独自の技術とビジネス手法で利益を得ています。彼らは設備の設計や生産もよく熟知しています。非常に狭いニッチ市場でありながら、彼らはそれに精通しており、何をすべきかを知っています。もちろん、いくつかの点で彼らのアプローチは手工業です。大量生産の方法は確立しないままに多くのモデルが完成され、様々な材料の実験が行われ、設備が試験されています。私たちの店に来ると、従業員は彼らが改良した小さな点でも興味を持って話します。同社の従業員は、アイスクライミングや登山に関わり、その本質を理解しています。これが他社と違う点です。
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以上引用おわり

まさに手探りで事業を進めていった2人のクライマーがたちあげたクルコノギ社。
現在迷走していますが五輪競技種目化を目指すアイスクライミング競技、またロシアという世界的には特異なクライミング界を足がかりに、西ヨーロッパ、アメリカのメーカーが幅をきかせるクライミングギア市場にどこまで食い込めるのか、注目です。

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