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7月の長い1日

某教育施設職員の皆様6名に同行して月山・姥沢ルートを登る。

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山形は猛暑日、月山も山腹は暑く、山頂で涼しい風を受ける。

頂上直下の月光坂を下ったところで、登ってくる西川山岳会のK澤さんと出会う。
「今日は日帰りですか?」
「んなわけねーよ、もう歳だよ。」

K澤さんは、私がガイドなりたての時、初めてのガイド山行で一緒だった方だ。
当時はまだ山頂直下の鍛冶小屋も営業しており、緊張しっぱなしだった私をリードしてくれた。
K澤さんのように永く登山とつきあいたいものだ。

ほどなく分岐点、「牛首」に到着。
ここで姥ヶ岳方面からやってきた見知らぬ男性に話しかけられる。
男性によれば、姥ヶ岳中腹で登山者が倒れ、心臓マッサージを受けているという。
話が話なので、注意深く聞く。
蘇生法の支援を要請にきているのではなく、ただ途中で見聞きしたことを興奮気味に話しているだけの様子。

牛首の分岐を歩きながら、考える。
CPR施術中ということは、支援の必要があるのではないか。

 今私が引率しているメンバー6名のうち、1名は両膝の内側が不調、もう1名は体調不良で山頂は諦め牛首で待機していただいた。
 目前に控える牛首直下の雪渓では、16日に2件の滑落事故が別々に発生、いずれも足を骨折負傷し搬送されている。私には6名を安全に下ろす責任がある。
 既に消防が出動していることを考慮し、私はそのまま引率を続行、雪渓に向かう判断をとる。

 16日の事故に関しても、「え?あそこで?」というのが正直な思いだが、慣れない登山者にとって雪渓にはリスクが存在することをあらためて認識させられる事故だった。
 牛首直下の雪渓はピッケルのカッティングで対応しよう、と考えていたが、16日の事故の報を受けて考えを改めた。急遽用意した軽アイゼンを着用してもらい、雪渓を下る。
 14時を過ぎて雪渓の雪もグズグズに腐っている。アイゼンは必要無いかという思いにとらわれるが、油断はすまい、と思い直す。

 雪渓を下降中に県の防災ヘリが姥ヶ岳上空にやってきた。
 しばらくホバリングの後、ストレッチャーがつり上げられ、病院のある山形市内方面に飛び去っていった。

 リフト駅に帰着し、同行した職員皆さんと軽く体操してからリフトに乗る。
 上駅には警察官、下駅には消防関係者が待機しており、要救助者搬送の生々しさが伝わる。

 姥沢駐車場で同行した職員の皆様と別れ、私は弓張平の公園へ。
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 使用した軽アイゼンの汚れをとり、猛暑日の厳しい日差しの下で日干し。
 その間、私も休憩。
 軽アイゼンを片付け、車で月山山麓の西川町に走る。
 月山朝日ガイド協会事務局の横山氏宅へ移動。
 横山さんにアイゼンを返却し、今日のヘリ搬送の件も報告。「難しい判断だけど、この場合クライアント優先だよね」と横山さんに言われるが、なんとなく重い感情が残る。

 そこへ近田郁子ガイドが軽アイゼンを借りに来た。
 えらい久しぶりに会う近田ガイド、パリッとした登山ウェア姿でバリバリ活躍している雰囲気にあふれる。
 一方の私、ヨレヨレの短パンにヨレヨレの着古したノースフェイスのTシャツ姿。
 横山さんがふざけて「大滝くん神様みたいな人だからな」と言うと、近田ガイドもおどけて私に向かってパンパンと参拝する。私は優柔不断の未熟ガイドです、やめてくれー。

 いや。
 1日だけでも、神様だったらどんなによかっただろう。
 要救助者を救えたかもしれないのに。

 翌日の報道では、搬送されたのは関東からいらっしゃった二人とも70歳のご夫婦のご主人で、登山道で倒れていたところを後続のパーティーが発見したらしい。
 ご夫婦は10年前に登山を始め、今日の月山登山が5年ぶりの登山。
 リフト上駅から姥ヶ岳まで約4時間かかったため(通常のコースタイムは約30分)、月山登頂を断念し昼食を摂った後、戻ろうとしたところで倒れたとのこと。
 まことに残念ながら、病院搬送後に亡くなられた。ご冥福を心よりお祈り致します。
 (以上、山形新聞社、NHK山形支局報道より)

 久々の登山、ご高齢に加え、今日は稜線も場所によって暑かった。
 私の推測ではあるが、今夏の連日の猛暑も体調に影響していたのではないだろうか。
  

 ヒナウスユキソウ(月山山頂にて)

夕暮れの国道112号線を車で自宅に向かいながら、

『もう歳だよ』

泊まりがけで山頂に向かう西川山岳会のK澤さんの言葉を、幾度も頭の中で反芻する。
年齢・体力に合わせて山に登るということの重要性、難しさ。

月山はそのたおやかな山容ゆえ、高齢の登山者も多い。
ネット上で「月山は簡単」 「ハイキング程度」と書いている方を散見するが、私にとって月山は「山」であることに変わりは無い。

雑誌に掲載されるような小手先の登山技術や道具の選択よりも、「自分自身を知る」ことの重要さを思い知らされた1日だった。

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