朝日連峰・鳥原小屋で感じたこと
13日。
昨年に引き続き、盆の墓参りを夕刻にさせてもらい、日中の時間を利用して朝日連峰・鳥原小屋を訪問。
今年は工事中の登山口視察を兼ねて古寺鉱泉から登る。
これまた昨年同様、登高途中で訪問目的である鳥原小屋管理人・鈴木正典さんとばったり出くわし、お互い苦笑。
「昼までには戻るからっ!小屋で待ってて!」
正典さんは途中にデポしてきたビールを回収するための下山とのこと。私は後の面会を楽しみにしつつ登高。
正典さんの字で、古寺鉱泉に立つ標識から『鳥原小屋推し』が凄い・・・
決め文句は「ビールあります」と「大朝日小屋にはビールありません」(笑)
強い日差しの中、高湿なブナの道を登る。
暑い。蒸し暑い。
ストームゴージュアルパインパンツも吹き出す汗で繊維が飽和してしまい、ピタピタと脚にまとわりつく状態。
ユージン・スミス調に木陰から鳥原小屋を眺める。
正典さん手書きの案内の効果か、木道で行き交う登山者から
「ここビールあるらしいよ」という声が漏れ聞こえる。
汗だくになった鳥原小屋では、正典さんの奥様と初対面。デポしたビールを回収に行った正典さんが到着するまで、小屋で待たせてもらうことにする。
「蕎麦食べていきませんか」という奥様のご厚意に甘え、調理いただいている間、小屋外のベンチで汗まみれの身体を乾かす。
高湿な空気の中に見え隠れする蔵王連峰を眺めたり、
近くのヨツバヒヨドリを眺めたり。
湿原に囲まれたベンチで、静寂な空気の中、ウグイスの声が途切れなく聞こえる。汗まみれの身体に夏の日差しが心地よい。
ルートのことも、お客様のことも、山頂に立つことも考えず、山の中に座っている安らぎ。
先月から続いたガイド山行では味わうことの無い、ゆったりした時間。
先日の某登山用品店主催の山行では、自己紹介で「登山初心者です」という方が多かった。
そういった方に、私は何をガイドしたのだろう。登山を始めたばかりの人たちに、こんな時間、こんな過ごし方、こんな空間があることを知らせたい。
大混雑する月山ばかり登っていた私にとって、今座っている鳥原小屋の光景はまさに別世界だった。
そんな風にぼーっとしていると、「そば茹で上がりましたよー」と奥様から声がかかる。
奥様と一緒に雑談しながら蕎麦をご馳走になっていると、「あ、来た」と奥様が外に出る。正典さんが戻ってきたらしい。
私はなんの気配も感じず、「おおー夫婦の絆か!」と思いきや、正典さんが鳥原小屋に近づくと愛犬ポチが反応するらしい。凄い・・・
汗まみれでビールを担ぎ上げてきた正典さん、沢水でさっぱりしてから小屋に入り、1年ぶりの対面。
インドヒマラヤの未踏峰を数々陥し、冬季ローツェ南壁にもトライした正典さん。知り合った頃はインド、パキスタンにある未踏峰の名前もすらすらそらんじている程だったが、今やそれらの峰々もほとんど既登峰になってしまった。
高所登山の話題も出ず、もっぱら鳥原小屋をとりまく朝日連峰の話題に終始する。お互い、年齢を重ねたのだ。
時間帯はちょうど昼、大朝日岳から下降して鳥原小屋にやってくる登山者もぼちぼち現れた。私も夕方の墓参りに備えて下山しなければならない。正典さん御夫婦に挨拶して鳥原小屋を離れる。
昨年の同じ時期に鳥原湿原を彩っていたチシマゼキショウ、今年はまだ咲き始め。
すれ違う人々に「どこから登ってきたんですか」「今日はどこまで行くんですか」とたずねられる度、「鳥原小屋までです」と答える。
山頂も気にせず、のんびり過ごす。
アルパインクライミングの大センセイには怒られそうだが、ただ安らぎと人との出会いを求めて山に入るのも、いいものでした。
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コメント
ポチ、元気そうですね。
ピークハントだけが登山じゃないそう思えるように最近なりました。ただお山で青空を見上げるだけのしあわせもあり、ですよね。
猛暑も花火大会を過ぎると少しは??収まるのでしょうかねぇ…
山の日の月山大変だったようですね、お疲れ様でした。
投稿: は。 | 2019.08.17 13:13
は。様
賛同ありがとうございます。
天気のいい日ばかりではないですけど、晴れた日に小屋でのんびりするのも、とても贅沢なのかなと思います。
山の日のツアーは昨年に続き2度目ですが、ちょっと人多すぎ・・・登山初心者の方にこそ静かな山を体験してほしいんですが・・・
ポチ元気でした。神社前で昼寝してて、おとなしかったです。
投稿: 大滝勝 | 2019.08.18 22:46