映画『富士山頂』のリアリズム
2月16日、当ブログでもお知らせした映画『富士山頂』の上映会にて映画を視聴。
所用のため、途中から会場入り。
映画では高度障害に苦しめられる作業員たちが次々と離反。
現場監督役の山崎務がその暗い雰囲気とあいまって、現場監督の辛さ・苦しさがよく表現されている。
私自身が建設会社で現場管理に首を突っ込むようになったため、映画を見ていても
「ああ! あのヘリで運んでいる生コン、単価いくらなの~」
とストーリーをよそに現実的なところが気になって仕方ない。
大変な苦労を重ねて実現したヘリ荷揚げによって、レーダードームの骨組みが富士山頂の施設に運び込まれる。
高度経済成長期を象徴するような、渡哲也扮する自信満々の若手操縦士がついに骨組みの荷下ろしに成功。
その瞬間、作業員たちがシノと呼ばれる道具をボルト孔に差し込み、土台と骨組みを固定する。
私たち現場作業員も、普段の鉄骨材組み立てではラチェットと呼ばれる道具をシノ代わりに使って同様の作業をしているため、そんな映像に思わず興奮する。現場作業部門で働いた10年は私にとってやはり短くなかったのだ、とあらためて思う。
登場人物たち皆の血のにじむような苦労で、富士山頂のレーダー施設が完成。
映画のラスト近く、現場作業員たちはブルドーザーの巨大バケットに乗り込んで富士山を下山する。(ご存じない方も多いですが、富士山頂には荷揚げのためのブルドーザー道が存在します)
勝新太郎演じる土建会社の親方が部下に「これからどうする」とつぶやく。
勘違いした部下は、「箱根か熱海に行ってぱあーっとやりましょうや」と答える。
勝演じる親方は、硬い表情でこう答える。「測候所ができたら、荷揚げのブルドーザーは一台で済む。これからブルドーザーの仕事をさがさなくちゃな。」
レーダー施設建設のため、大量荷揚げを行うために何台ものブルドーザーを導入していた。その行く末を案じているのである。
勝演じる親方の、気っ風のいい姿勢ばかりでなく、経営者としての先を読むその姿。
映画『富士山頂』が石原裕次郎のカッコつけ映画でも、レーダー施設建設の美談映画でもなく、建設業のリアリズムを感じさせる映画だと痛感した一場面である。
映画上映会は、地元の年配の方が大勢集まっていた。
スクリーンの前でお話されているのが、実際に富士山頂レーダー建設の責任者であった大江町・小見地区出身の故・伊藤庄助氏のご兄弟である伊藤宗三氏。
伊藤宗三氏のお話によれば、実際に建設を担当した大成建設では、
『建設担当者には大学山岳部出身者は採用しない』
と決めていたのだという。その理由は「大学山岳部出身者は無茶をするから」というものだったそうな。
ま、たしかにこのレーダー建設直前の1963年には愛知大山岳部の大量遭難事故があった、そんな時代でしたからね。1950年代、西堀栄三郎が先頭切って山岳部出身者を採用した南極観測隊とはずいぶん違うなあ、と感じながら伊藤氏のお話を拝聴。
伊藤庄助氏がレーダー建設プロジェクトに採用されたのは、趣味の絵画を通じてゼネコン重役たちとのつながりができ、「山形出身で蔵王でスキー経験もあるし、富士山でもやれるだろう」とピックアップされたとのこと。
伊藤宗三氏いわく、「趣味を持ち、人とのつながりは大事にしてください」とおっしゃる。
会場は年配の方ばかり、若い方がほとんどいなくて実にもったいない、そんな上映会でした。
ちなみにNHKの『プロジェクトX』第一回がこのレーダー建設の話。当時のNHK取材班も大江町でロケしており、会場でその第一回の番組が流され、懐かしい大江町の風景に皆さん大盛り上がりでした。
このような貴重な機会を作ってくださったOe EXPO実行委員会の皆様、主催の大沼兄昌様に深く感謝いたします。
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