以心電信
8月12日午後、朝日連峰・鳥原小屋へ。
目的は小屋管理人の鈴木正典氏に会い、山の話をして過ごすこと。
毎夏、日帰りで訪れていたのだが、昨年は
「日帰りはもういいから、来年は絶対泊まりに来て!」とおっしゃって下さった。
人付き合いが苦手で山仲間もさほどいない私に、「泊まりにきて」と誘ってくださるのもありがたい話である。今夏の盆休みは雑事が多く、日中の時間があまりとれない。午後に入山して鳥原小屋に一泊し、翌朝早く下山は願ったり叶ったりだ。
よく拝読している長井の八木先生のブログでも、既に正典さんは鳥原小屋に入っている様子。
今年も事前連絡無しに、押しかけ訪問することにする。
古寺口から入山。
10分も歩かないうちに、全身汗まみれになる高湿な空気。さらに断続的に激しい雨。
メジャーな山岳雑誌は、朝日連峰といえば、せいぜい『花の山』か『紅葉の山』特集でしかとりあげない。
歩いてまもなく全身汗まみれになるような、高湿な真夏の東北の山は記事にならない。
しかしこれが、真夏の東北地方、樹林帯の山の現実である。ゴアテックスの提灯記事書くのに懸命なライターは記事にすることもないだろう。
ジーン・ケリー並みのハイテンションで雨の中を2時間半かけて歩く。
古寺から鳥原小屋にたどる道筋の最大の魅力は、高層湿原にたどり着く瞬間にある。
灌木に覆われ鬱蒼とした道が続き、突然視界が開け、目の前に大空と湿原が広がる。何度訪れても、この瞬間がたまらない。
「あ~久しぶりに正典さんと会うな~」と鳥原小屋に入ってみると、
小屋内にも生活感は無い。正典さんがこの時期に入山していないところをみると、なんらかの事情があるのだろう。
せっかく来たし、外は大雨に強い風も吹いてきた。今夜は一人、鳥原小屋で静かな夜を過ごすことにする。
性格が暗い私は、避難小屋で一人で過ごすことは全く苦にならない。
簡単な夕食を済ませ、会社の仕事、ガイドの事、自分のやりたい「山」のことなど、色々考えながら眠りにつく。
一晩中、外は激しい雨と風だった。
翌日、夜明け前から日の出を待つ。
東の空が明るくなる頃から、一斉にウグイスが大合唱を始める。
今日の日の出は、暦では4時52分。やる気満々の雨雲が空を覆い、東の空にも厚い雲。
5時00分、厚い雲間からの日の出。仕事仲間、ガイド仲間、家族、ブログご覧の皆様の安全と健康、その他欲張りな願い事。
本日13日は、下界で野暮用が多数待っている。朝6時前に下山開始。
鳥原小屋前の湿原、例年だとチシマゼキショウが沢山咲いているのだが、今年は数えるほど。
キンコウカが出始めていました。
歩きながら撮影したためブレましたが、登山道はオクモミジハグマで彩られていました。
山ぶどうはまだまだ青い。
小屋を出て間もなく、ザックに入れていたスマホが鳴る。アラームの切り忘れだった。
スマホを確認すると、不在着信のSMSが届いている。
確認すると、昨夜に正典さんからの不在着信だった。
え゛え゛~! 留守の鳥原小屋に入った時点、このタイミングで正典さんから携帯に着信とは・・・
私と正典さんは
アムロとシャア並みに繋がっているのか!?
いやいや、どうせ繋がるんなら年上の素敵なお姉さまの方がいいんだよな~と思いつつ、早く正典さんに連絡をとらなければと考えるが、古寺鉱泉付近は一切の携帯電話が通じないエリアなので、西川町の大井沢集落に出るしかない。
古寺方面に向かう登山道は粘土質で枯れ葉も多く、雨の直後で滑りやすく、時間も稼げない。
8時前、古寺口に下山。古寺登山センターに顔を出したかったが、正典さんへの連絡を優先し着替えもそこそこに駐車場を発つ。
西川町の国道に出たところで、車のハンズフリー画面に着信。正典さんから再びの電話だった。
私が鳥原小屋に一泊して下山直後であることを伝えると
「いや、留守していてゴメン!」とおっしゃるが、毎年連絡も無く勝手に押し掛けるのは私なので、「こちらこそ連絡もせず出向いてすみません~」と、お互い「すみません、すみません」を繰り返す。何かアメリカあたりのテレビCMで放映されている「典型的日本人」みたいな会話になる。
挨拶も済み、少し山の情報を交わして「また次の機会に」ということで電話を切る。
正典さんとも少し話したし、久々に山小屋にも泊ったし、今日から盆の雑事に突入するに十分なリフレッシュタイムの二日間だった。
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