Lost But Won
強雨の中、月山ブナの森を歩いた子供たちの雨具が連なる。山形県朝日少年自然の家にて
今年も 山形県朝日少年自然の家チャレンジキャンプ2020 の月山登山引率のご依頼をいただく。
今シーズンは思うところあり、旅行社のガイド業務は自分から志願すまいと決めていた。
コロナ緊急事態宣言明けから、自然の家の月山登山1本に絞り準備を進めていく。
今年はコロナ禍による県内小中学校の夏休み短縮のあおりを受け、例年と異なり日曜に登山日が決まっていた。
コロナ禍の中、日曜の登山者動向を確かめるべく、6月から週末は足しげく月山姥沢ルートに通う。その結果、県外からの登山者も例年と変わりなく多く、登山予定日の8月9日も混雑が予想された。
混雑と共に頭が痛いのが天候だった。
10日程前から停滞前線による悪天、加えて台風4号が発生、8月9日の東北地方に荒天をもたらすことが予想された。
悪天の予想に加えて、今年はコロナ感染のリスクを負うことになる。
5、6、7月と不安と葛藤の中、情報を収集するが、ふと、「コロナ禍の今、山岳地で大人数を引率する行為」に有利な情報だけを集めている自分に気が付く。不安は不安のままに、あらゆる情報を受け入れようと考え直す。
会社が盆休みに突入した8月8日。
公休を取得していたが、取引先からの電話に対応したり、先日までの現場のデータを職場の仲間から引き継いだりとテレワークしながら自宅でパッキング。
夜、自然の家に入所。私にとってチャレンジキャンプ月山登山は、必ず前夜に参加し、子供たちの様子を確認することから始まる。
その後、所長室にスタッフの皆さんと集まり、月山登山の可否と代替プログラムについて話し合う。
2014年の葛藤の再来を覚悟していたが、板垣所長はじめ皆さん月山登山中止の方向で動いてくださった。代替プログラムとして山形県自然博物園のブナ森探検を第一候補とする。
それから所員の皆さんは手分けして、明日参加予定のサポートスタッフに月山登山中止の連絡。私は伊藤ガイドに連絡。急募しておきながら、快くキャンセルに応じてくださった伊藤ガイドには頭の下がる思い。
当日、子供たちを2班に分けて山形県自然博物園に移動。
1、2、4班を私が引率、3,5班は真鍋ガイドが担当してくれることとなった。
止まない雨の中、ブナの森に入る。
意外にも、ブナの木の幹を流れる雨水「樹幹流」が子供たちから「冷たくて気持ちがいい」と好評。
道はドロドロにぬかるみ、ブナの葉と土でブヨブヨになった道は足首まで沈むところもある。
「泥沼のワナにひっかかるなよー」と子供たちに声をかける。職員の小野さんがやはり学校の教員らしく「泥沼のワナに引っかかった人ー」と子供たちに声をかけ、子供たちも「はーい !」と元気よく反応、場を盛り上げてくれる。
「ブナ林広場」に出て、子供たちに休憩をとらせる。そこから先の階段は強雨のため、雨水が滝のように流れていた。子供たちの様子を注視、「寒い・・」と口にする子供のつぶやきをとらえ、私の判断で引き返すことを決めた。
通常の博物園散策であれば、復路は石跳川に通じる道を下る。
今日は何かが違う。山上の散策路をあるきながら「タッキー、あれ何の音?」と子供たちから尋ねられる。この位置から石跳川の様子は見えないが、それは明らかに石跳川が増水した川の音だった。
子供たちの渡渉は絶対に避けようと考え、石跳川方面には下りず、復路は登ってきた道をたどり下山。
博物園では倉本ガイド、近田ガイドが迎えてくれ、1階フロアを荷物置き場として、2階部屋を着替え室として開放して下さった。
折しも、月山登山ツアーの代替プログラムとして立ち寄っていた大先輩の佐藤攻ガイド、我がガイド協会のエース田中ガイドも博物園に詰めていた。今日ここにはいない伊藤ガイドはじめ、多くのガイド仲間に支えられて今日をのりきったことを実感する。
子供たちの反応も様々だ。
「濡れて楽しい」という子もいれば「濡れたくなーい」という子もいる。
同行してくださった前所長の土屋常義氏からは、
「タッキー、いや、子供たちには後から「こんな天気に行ったっけな」という経験として残る。実際に行ってみた経験って絶対大事なんだよ」と熱く激励をいただく。
ブナ森探検で一番問題だった「子供たちが長靴を持ちあわせていない」ことも、自然の家担当の山口さん、小野さん、柏倉さんの見事な連携プレーでビニール袋とマリンシューズを巧く利用し、解決していただいた。
こうして私の「夏山」は終わる。今シーズン前半は月山・姥沢ルートに通い詰めだった。
今度は近くの里山でも登ろう。
所用のため夕食をいただいた後、スタッフの皆さんに挨拶してから退所。
Hans Zimmer のLost But Wonを聴きながら、雨の国道112号を自宅に向かった。
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