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ドメン・スコフィッチの生き方

 去る5月末、スロベニアのラドブリツァに、ヤーニャ・ガンブレットと彼氏のドメン・スコフィッチが共同で設立したクライミングジムがほぼ完成しました。
 前々からスロベニア・メディアにおけるヤーニャ・ガンブレットのインタビューでは「自分のクライミングジムを持ちたい」とコメントしていましたが、コロナ禍で五輪延期の騒動の最中、二人は着実に、自分達の人生の「プロジェクト」を完成に導いていたのでした。

 その詳細を、スロベニア地元紙SiolNETが報じています。

Janja in Domen sta nam odprla vrata svojega življenjskega projekta by SiolNET 2020.5.29

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ヤーニャとドメンが人生のプロジェクトの扉を開いた

記事執筆 Alenka TeranKošir
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 ヤーニャ・ガンブレットとドメン・スコフィッチは、家族の助けを借りて、ラドブリツァ近くのヴルニェ地区にクライミングジムを設立しました。ここでは、3種のクライミング全て(リード、スピード、ボルダリング)をトレーニングすることができます。 写真:Peter Podobnik / Sportida

 新しいクライミングジムは、ラドブリツァ近くのヴルニェ地区に建てられました。クライマーとその家族らによる共同出資で作られたクライミングジムには、必要なものがすべて揃っています。

 雪で覆われた山を連想させるプレハブのクライミングジム(ドメンによれば、デザインをカラヴァンケン山脈最高峰のStol峰に似せたと説明した)は、スコフィッチ家のすぐ近くにあります。そのため、世界最高のスポーツクライマーであるドメンのガールフレンド、ヤーニャ・ガンブレットが一日のほとんどをここで費やしています。

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「箱型のオブジェクトをこのような環境に設けることはできません。景観を害しますし、私たちは自然と調和するものを作りたかったのです」と、ジム設立に重要な役割を果たしたドメンの父、パベル・スコフィッチは語る。写真:Peter Podobnik / Sportida

 新しいクライミングジム建設の構想は、少なくとも10年以上前には頭の中に生まれていた。2016年、2018年シーズンで世界3位となったクライマー、ドメン・スコフィッチは語る。

 クライミングウォールの設置と建設を手がけた機械工でありイノベーター(改革者)でもある彼の父、パベル・スコフィッチは、夢と理想を現実に変える役割を担いました。

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10年前、スコフィッチは自分のクライミングジム設立を密かに検討していました。 写真:Peter Podobnik / Sportida

 ドメンは、これまでのところ約30万ユーロ(訳者注 約3700万円)がジムに投資されていると推定しています。彼らが父親と一緒にプロジェクトに費やした肉体労働は含まれていません。

 彼らは壁、建物の外観デザインを自分で描いた。「父はプログラミングを習得し、私たちは一緒に仕事を始めました。パソコンの前に座り、私に自分の考えを説明し、父はそれをすべて描きました」

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ヤーニャは、肉体的・技術的に負担の少ない作業でジム建設を支援します。 写真:Peter Podobnik / Sportida

 箱型の建物はそのような環境には属していません。バベル・スコフィッチは、構造物の最終的なイメージと、屋内に設営されたもの、内側の見えない内装すべてを誇りに思っています。彼はすでに建築家から賞賛の言葉を受けたと言います。

「このような環境では、構造物を靴箱の形に置くことはできません。景観を害しますし、機能的ではありません。私たちの風土・自然に調和するものを作りたかったのです」と彼は説明する。形状も、建物は近くの森の形に似ており、周囲からの突出物は最小限に抑えられています。

 ジムは未開発の土地に建てられ、スコフィッチは同じ地区で他の土地と交換することに敷地を取得しました。

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2018年にクライミングジムが建設される前の土地  写真:AnaKovač

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...そして今日、2020年5月。 写真:Peter Podobnik / Sportida

 彼らは、スポーツ、観光、地域の環境をクライミングジムに結び付けたいと考えています。クライミングジムの後ろには、干し草小屋が立ち、登山者がリラックスして交流できる広大な土地があり、近くに宿泊施設も備えた観光農園もあります。

ジムはいつ一般公開されますか? 完全に完成し、「役者が揃った時」です。

 ヤーニャとドメンがジム公開日を決めるとバベル・スコフィッチは言いますが、ジムが本当に完成し、2人がそれを誇らしく思えることができるとき、そう彼は付け加えました。

 当初、センターは10月に開館予定でしたが、コロナウイルスのパンデミックにより遅れるとドメンは言う。一方で、すべてのクライミングジムが閉鎖された今、ボルダリング壁をより早く完成させたことは、コロナ危機の中でも心強いものでした。

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 スロベニアでの流行が宣言される数日前に、ドメンはボルダリング壁にホールドを集中的に設置し始めました。 「しばらくはどこにも行けなくなるような気がした」と彼は言う。写真:Peter Podobnik / Sportida


「スピードクライミング用の壁はコロナ危機の前に設置されました。コロナ危機の間、私たちはボルダリング壁にホールドを素早く設定し、スムーズにトレーニングすることができました」

 難易度の高いクライミング用の巨大な壁(20m)もあります。これは世界最大ではないにしろ、スロベニアでは大型の人工壁の1つになるため、特別な存在となります。

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 室内にはスピードクライミング用の壁も備えています。室内壁としては2番目で、 1つ目はツェリェ、リュブリャナには屋外に1箇所あります。 写真:AnžeMalovrh / STA

 中央にスピードクライミング用の壁があり(スロベニアでは3箇所目、室内壁では2箇所目)は、ロマン・クライニクコーチの指導を週3回受けるガンブレットにとっては非常に有利になります

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コーチであるロマン・クライニクは、スコフィッチとガンブレットのコーチを務めているため、新しいクライミングジムの常連客です。 写真:Peter Podobnik / Sportida


以下、スロベニア最高のスポーツクライマーの1人であるドメン・スコフィッチへのインタビューです。

ドメン、クライミングジムを自身で建設することから何を学びましたか?

 (コロナで)自粛中でしたが、私たちは多くを学びました。機械工をしている父も含めてね。

 その場で多くのことを学び、臨機応変に多くのことをうまくやり遂げました。今では設計図に書いていたものよりもずっと気に入っています。非常に魅力的であると思います、私はそれぞれの新しい壁を誇りに思っています。

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「建設中に、その場で多くのことを学びました。私たちは多くのことを臨機応変に行い、良い結果が得られました。今では設計図よりももっと気に入っています」 写真:Peter Podobnik / Sportida

自粛中は、ヤーニャと別の場所でトレーニングをしていましたか?

 いいえ、ここですべてのトレーニングを行っていました。興味深いことに、コロナ流行が宣言される前でも、しばらくはどこにも行けないような不思議な気持ちになっていました。私の感覚が正しかったと思っています。

(コロナ)検疫開始の2〜3日前から、いつでもトレーニングができるようにホールドの設置に熱心に取り組みました。新しいホールドの唯一の欠点は、皮膚が早くすりむけることです(笑)。

あなたはどの位の時間をジム建設に費やしたんですか?

え~と、少なくとも10年。子供の頃、私は地元の小学校のあるラドヴリツァでクライミングを練習し、週3〜4回のトレーニングでは不十分でした。もっとやりたくて、家の地下室に小さな壁を立てるように父にせがみました。それが全ての始まり、自分のジムの欲求はどんどん大きくなっていきました。

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「自分の大好きな事で十分に経験を積み、すべての人生をクライミングに繋げたいと思っていました。いつか実現できればいいんです。」 写真:Peter Podobnik / Sportida

それで自分のクライミングジムを思いついたんですが、選手生活を終えてから指導を始めようと思っていました。

私の家族、特に父が私の願いをすぐに聞いてくれたおかげで、私たちはより早くジム建設に着手し始めました。

同時に、ヤーニャと彼女の家族がいなければ、少なくとも不可能だったと言えるでしょう。今現在ヤーニャと私は選手生活に完全に集中しており、すぐに引退するつもりはありません。

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 今シーズン、少しでも機会があればリード部門だけで競います。このクライミングの分野では、彼は2016年シーズンで世界最高でした。 写真:GregaValančič/ Sportida

もし今シーズンなら、今シーズンはどう思いましたか?出場しますか?昨年、ワールドカップの後、人工壁の競技場であなたを見ることができませんでした。

 今年、私はリード競技だけに出場することにしました。今シーズンはベストを尽くせるようトレーニングしています。それができなければ、次のシーズンに備えます。

 現代のクライミングのスタイルに学ばなければならないことが、たくさんあります。特に壁に沿ったダイナミックな動きに関して、多くの革新があり、それが常に課題を生みます。スポーツは常に変化するので、興味深いことです。すでにすべてを知っていると思っていると、それが真実ではないことに気づきます。

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 私はパンデミックの時期が役立つと信じています。私は自分自身に新たな挑戦を課します。モチベーションが枯れることはありません。 写真:Peter Podobnik / Sportida

 しかし、私は自分の進歩に満足しています。多くのことを学びました、ここヴルニェには本当の平和があり、パンデミックの時が私にとって役立つと信じています。

 過去の動画を分析して、自分のミスからも学びます。自分自身に課題を設定します、どんな長期間であろうとモチベーションが枯れることはありません。

主催者がスロベニアで今シーズンのコンペをキャンセルしたとき、失望しましたか?競技はストチツェで行われる予定でした。

 とっても。このコンペのために意欲が高まっていました。しかし、主催者の決定を理解しています。無観客でコンペが行われるならば、キャンセルされて当然です。

 しかし、今は自分の立ち位置を確認するためにコンペに出たい。現時点では、トレーニングとジム、人生のプロジェクトに重点的に取り組んでいます。自分にとっては素晴らしいことです。

すべてが何かのために役に立っています。私たちはジムでさらにトレーニングを重ねます。でも、秋には外岩に戻りたい。スペインには未完成のプロジェクトがたくさん待っています。それまでに国境が開かれることを期待しています。

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五輪延期の混乱で、各種競技の選手達の困惑が伝えられている一方、「パンデミックの時期が役立つ」と言い切るドメン・スコフィッチ。

コロナ禍で前例の無い登山を模索する私たち凡庸な登山者にも、一石を投じる生き方ではないでしょうか。

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