2018年ピオレドール生涯功労賞に、アンドレイ・シュトレムフェリ

今年はフランスを離れポーランドで開催されるピオレドール。
2018年の生涯功労賞に、スロベニアの重鎮であるアンドレイ・シュトレムフェリ(Andrej Štremfelj)が決まりました。

El esloveno Andrej Stremfelj, Piolet de Oro 2018 por el conjunto de su carrera by Desnivel 2018.6.12

1956年スロベニアのクラーニ出身、ユーゴスラビア時代の1977年にユーゴスラビア登山界の『伝説』ナイツ・ザプロトニクと共にガッシャブルムⅠ峰南西稜新ルートから登頂、1979年にはエベレスト西稜ダイレクト、1990年には今度は奥様のマリヤ・シュトレムフェリと二人でエベレスト登頂(夫婦一緒の登頂は世界初)、そして1991年にはカンチェンジュンガ南峰南稜をアルパインスタイルで、マルコ・プレゼリと共に登攀、92年のピオレドール受賞に輝きます。

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プレゼリと共に登っていた現役バリバリの頃のシュトレムフェリ

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若き日のシュトレムフェリとプレゼリ。
このカンチェンジュンガ南峰登攀では、

シュトレムフェリ 「あれ?ロープは?」
プレゼリ 「テントに置いてきちゃったあはは~ん」
(詳しく知りたい方はBernadette McDonald著 『 ALPINE WARRIORS 』 読んでくだされ)

というような感じで、若き日のプレゼリをリードして登る旧ユーゴ時代からのベテランクライマーでした。
たしかだいぶ以前のロクスノで、来日した際の記事を掲載していたはず。
奥様のマリヤさんがトモ・チェセンについて「トモって変な人なのよ」とコメントしていたのが私にはエラい笑激あいや衝撃的な記事でした。

ヴォイティク・クルティカに続いて東欧諸国、登山大国である旧ユーゴ時代から活躍していたアンドレイ・シュトレムフェリが選ばれたことは大いに支持したいと思います。

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アメリカ日記 ジョシュアツリー国立公園にてクライミング

社員研修4日め。
ロサンゼルスでのフリータイムで単独行動をとらせてもらい、ジョシュアツリー国立公園でクライミング。
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計画立案段階でまず問題だったのは、宿泊地であるロサンゼルスのダウンタウンからの「足」がないこと。
フリータイム当日は日曜日なので、レンタカー会社も休日か営業時間が極端に短い。

そこで目を付けたのが、24時間体制でダウンタウンとロサンゼルス空港を結ぶシャトルバス「FLY AWAY」。
ロサンゼルス空港のレンタカー会社は24時間営業で開いている。
朝4時発のFLY AWAYバスで空港に行き、レンタカー会社で車をピックアップ、夜明けのハイウェイをジョシュアツリー国立公園目指して走る。
昔々、デビルズタワー登攀のため約一週間にわたりワイオミング州をレンタカーで一人旅した経験があり、アメリカの交差点、右折左折もすぐに順応できた。

途中の名も知らぬ街のサブウェイで休憩を兼ねた朝食を摂り、再びハイウェイを走り、ジョシュアツリーの街に到着。
9時半、ジョシュアツリー国立公園ビジターセンターの駐車場でクライミングガイドのライアン・スコットと合流。
ライアンの車に便乗してジョシュアツリー国立公園へ向かう。

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今回お世話になったライアン・スコット(Ryan Scott)
社員旅・・じゃなかった、社員研修という枠の中でクライミングというリスキーな活動をするに際し、クライミングガイドを依頼することは私にとっては当然の選択だった。またAMGA(American Mountain Guides Association)認定のガイドと一緒に登りたいという気持ちもある。

 ジョシュアツリー国立公園のゲートに来た。
 皆様ご存じの通り、アメリカの国立公園は入場料が必要である。
 財布を用意していたが、ライアンがゲートで許可証らしいカードを提示すると我々はそのままスルーとなった。クライミングというアクティビティに対して、アメリカ社会での認知度を感じる一場面だ。

 駐車場に到着、日本から持ってきたシューズとハーネスを装着、レンタルのヘルメットを被る。
 周囲は魅惑的な岩塔だらけだ。
 正面にひときわ大きな岩塔がある。
 「ライアン、あれ登るのか?」
 「あれじゃない。あそこは難しいんだ。メイビー(できればな)。」
 
 私たちは最初に「サイクロブス」という岩塔に向かった。
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今回のガイド依頼に際して、経歴申請では「人工壁・外岩の経験はあるがブランクがあるので初心者同然」とする一方、「クラック、トラッドクライミングを経験したい」と希望を書き添えておいた。
私の使い古された装備、戸惑い無く結んだエイトノットで技量を測られたのだろうか、ライアンは「Good」と言ったまま、細かく技術を説明することなく登っていく。

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中央のルンゼっぽい凹部の右壁を登る。
花崗岩の粒子は粗く、スメアリングを多用してぐいぐい登る。
終了点からは、急傾斜のスラブをシューズのフリクションを最大限に発揮して歩いて降りる。

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岩塔の上にはオブジェのような岩塊がいっぱい。

ルート2本登ったところで車に戻り休憩。
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ライアンが所属するMojaveGuidesと提携している Happybar のグルテンフリーバー、チョコレートベリー味をもらう。グラノラバーをがっつりチョコで固めたタイプ。

Happybarを囓りながらたずねる。
「ライアン、さっき登ったルート、5.6くらいかい?」
「いや、5.3だな。」
「ええっ!」
「いやいや、5.5くらいだ。ここのグレーディングは辛め(Hard)なんだ」

3本目に登ったルートは他パーティーが先行しており、ライアンはそこを避けて隣のルートに移った。
ここは私からみても比較的簡単そうなので、ザックを残置せず背負ったまま登る。

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先行するライアン

今日私が依頼したガイド形態はHalf Dayという形式で、4時間のクライミングだ。
時間的に次の1本が最後だろう。
最後に私たちが向かったのは、ライアンも私の技量をみてくれたのか、到着した時に彼が「あそこは難しい。メイビーな。」と言った岩塔「Intersection インターセクション」だった。

核心部は、2つの岩塊が接した部分、ちょうど三角フラスコの内部のように下に行くほど拡がっているクラックだ。
左側に握り拳大のブロックがあり、
「マサル、ここフットホールドな。ここだぞ。」と何回も強調してから登っていく。

私の番だ。
ライアンが強調したスタンスに左足をめいっぱい伸ばして立ち込むが、右足をひっかけるところが無い。
ここで落ちれば、下に拡がる空間に突っ込むことになる。
私の足は短い。
左足をとにかくめいっぱい伸ばしたまま、スメアリングで強引に立ち込み、上体を引きつけ登り切る。
それからは粒子の粗い花崗岩を掴んで登る。

ようやくライアンがビレイしている所にたどり着く。
「ライアン、見てくれよ!俺の脚は短いんだぜ!」
「わかってる」(即答)

大きな岩塔だけあって、そこは360度眺めの良い頂だった。
「マサル、ここは一番人気のあるエリアなんだ。」
ライアンのしみじみとした言い方に、あー、ホントにこのクライミングエリアを愛してるんだなあと思う。

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Intersection の懸垂下降アンカーにて。

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クレオソート・ブッシュの花

クライミングエリアのあちこちに花が咲いている。
ライアンの話ではもう花のシーズンは終わりとのことだったが、それでも私のジョシュアツリー → 砂漠というイメージを覆すに十分な花々が咲いている。

楽しいクライミングの時間はあっというまに過ぎた。
前述のとおり、今日依頼したガイド形態はHalf Dayの4時間。
帰路、ロサンゼルス市中で夜間運転を避けるためには、日程的にこれが限界だ。

国立公園からジョシュアツリーの街に戻る。車中でたずねる。
「ライアン、ボルダリング、スポーツクライミング、アルパイン、いろいろあるけど君は何が好きなんだ?」
「全部さ!」
フルタイムでガイド業を務める彼はこれからも、様々なクライアントと共にクライミングの楽しさを伝えていくんだろう。

カリフォルニアの空の下、楽しいクライミングのひとときは過ぎ去った。
帰国したら、また現場仕事に、ガイド業に、頑張ろう。

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公園名の由来となったジョシュアツリー。
サボテン、椰子の木に似ているが、リュウゼツラン科の植物。

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クルコノギ社 物語

知る人ぞ知る、アイスクライミングギアのメーカー、クルコノギКрюконоги(Kryukonogi)。

ロシアのクライミングサイトなどでよくリンクバナーを見かけるのですが、飾りっ気の 全 く 無いロゴだけのバナー。
一体どんな会社なんだろうと思っていましたが、ロシアの「日本経済新聞」にあたる経済ニュースサイトRBC (RosBusinessConsulting) が急速に輸出ビジネスを伸ばした企業として、クルコノギ社創設のストーリーを紹介しています。

Железные люди: как двое альпинистов наладили экспорт ледорубов by РБК2018.4.10
(鉄人たち 2人のクライマーがいかにしてアイスアックスの輸出ビジネスを確立したか)

以下引用開始
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鉄人:2人のクライマーがいかにしてアイスアックスのビジネスを確立したか
 特殊合金、クライマーコミュニティへのインターネットアクセスによって、クルコノギ社創業者は趣味を輸出ビジネスへと変貌させた

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アレクサンドル・ピンコフ(Alexander Penkov) Photo by Oleg Yakovlev/RBC

 「クルコノギ社を知らないアイスクライマーはいないでしょう」
 ローマン・チェルノフ、キーロフのクライミングギアメーカー「Вертикаль(Vertical)」貿易担当次長は語ります。彼は海外でクライミングギアを販売していますが、 クルコノギ社がこの業界で大きな進歩を遂げたことを認識しています。

 サンクトペテルブルグの企業「クルコノギКрюконоги(Kruconogi)」社の事業は、クライミングギアのハンドメイドによる製造から始まり、今や国際市場でも有名なブランドとなりました。 特殊合金を用いた製品、2017年にアスリート達のネットワーク「Kryukonogov」を創設、利益は870万ルーブルに達し短期間に成長しました。売上高の68%は輸出に由来しています。

 サンクトペテルブルク州立大学で航空宇宙計装を学んだアンドレイ・ヴァルバキン(Andrey Varvarkin)は、1994年に初めてチタンアイス・アックスを製造しました。彼自身が設計し、金属加工工場での生産を進めました。

 登山歴44年になるヴァルバキンが学校を出た1990年代、ロシアでウェアやギアを購入することは困難でした。スポーツ用品店の棚は空っぽでした。 ヴァルバキンは最初に登山用バックパックとジャケットを自分のために作り、次に友人に販売し、その後登山のための装備を作り始めました。

 2007年、彼はクルコノギ社ブランドを登録し、2010年にオンラインストアを開設、サンクトペテルブルグにあるNGO「ミズナギドリ」の小さな製造拠点を借り、現在は工場に6人の作業員と1人のデザイナーが在籍しています。
 初めは知人友人や幾つかの店で販売しましたが、利益は控えめなものでした。この事業は数百万ルーブルの年収をもたらしましたが、利益は一ヶ月あたり約2万ルーブル(約3万5千円)でした。スポーツ用品店の棚には、すでに輸入品の登山用具で占められていたため、中小企業が競争することは困難でした。

 34歳のクライマー、アレクサンドル・ピンコフ(Alexander Penkov)は、ヴァルバキンの小さなビジネスを輸出ビジネスへと変貌させました。彼は2012年にヴィボルグのミックスクライミングコンペでヴァルバキンと知り合い、関心をひかれました。 「私は自分自身でアンドレイの製品を使い、そのブランドが気に入りました。私のパートナーはイデオロギーの持ち主です。彼は技術、生産について熱く語り、目は燃えていました」とピンコフは語ります。

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アンドレイ・ヴァルバキン(Andrei Varvarkin) Photo by クルコノギ社プレスサービス

 2014年8月、2人は一緒にビジネスを進めることに同意しました。 アレクサンドル・ピンコフは運営責任者の役割を引き受け、40万ルーブル(約70万円)を投じた。 クルコノギ社では20%を受け取っています。

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クライミングギアの市場

 ロマーナ・ブリュカ(山岳連盟役員)によれば、ロシアでは約1万人が山岳連盟に登録し定期的に登山活動を行っています。さらに3万人のロシア人が登山を趣味として楽しんでいます。2010年、ロッククライミングは競争としてIOCに加盟し、2020年の東京オリンピックで初めての競技が開催されます。これは新たな競技人口が加わり、専門店では新たな顧客を期待しています。

 ロッククライミングとアイスクライミングは登山の一分野で、岩壁や雪、氷の障害を克服することを意味します。原則として、登山に真剣に取り組む人々はロッククライミングとアイスクライミングの技術を学びます。登山者はさまざまな障害を克服するために数百の異なる道具を使用し、クルコノギ社はアイスクライミングギアに特化しています。
 アルプ・インダストリア(訳者注:ロシアの大手登山用品メーカー)のブランドマネージャー、ディミトリー・セペレフは、ロシアのアイスクライミングギア市場規模を6000万ルーブル(約1億円)と推定しています。これは世界市場の約4%です。 「ヨーロッパ、アメリカ、中国は山岳地帯に恵まれ、主要なロシアの都市のほとんどは山から遠い」しかし、ロシアでは、スポーツアイスクライミングと人工壁でのトレーニングに人気があります。

 クライマーのための設備の生産、ロシアでは登山・アウトドア用品は半世紀以上にわたり、イタリアのグリベル、フランスのペツルなどのブランドに占められ、キーロフの企業「vertical」やモスクワの「オリオン・アルプス」などは「産業クライミング」(訳者注:建物のメンテナンスや冬期の除雪・氷除去など、ロシア特有の産業)の機材生産・販売に特化しています。
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装甲鋼材の強さ

 アレクサンドル・ピンコフは、ゼレノグラードにあるモスクワ電子技術研究所、電子技術・材料設備科の卒業生です。彼はいまだにモスクワでシステム管理者として働いていますが、副業としてほぼすべての時間をクルコノギ社の多忙なビジネスに費やしています。

 ピンコフが取締役に就任して最初に手掛けたのは、賃料と給与に関する借金を返済することでした。 「会社は新製品の開発に力を注いでましたが、財政・組織面の問題は二の次になっていました」

 ピンコフの就業によって製品の生産体制が整えられましたが、彼はロシア国内市場は規模が小さく、輸出のため西側諸国メーカーと競争できる製品が必要であると考えました。

 それが、交換可能なピックでした。アイスアックスの先端です。「西側諸国では一般的な鋼材からピックを生産しており、それは品質的に曲がったり、早く摩耗します。ときには生死に関わる問題です。」 vertical社のローマン・チェルノフ氏がコメントします。

 西側諸国のピックより優れた品質を求め、ピンコフは質の高い素材を探しました。「金属は丈夫なだけでなく、壊れにくいことが必要です。例えばピックには、30種類の鋼材の中から、適しているのは4~5種だけです。」

 解決策は偶然に発見されました。 2014年、鋼材提供企業のための加工会社「レーザー技術センター」で装甲用鋼材を試すことができました。軍用機や装甲車両に用いられる材料です。ピンコフによれば、装甲用鋼材の硬度(HRC)は55~57であり、通常の鋼材は25~27です。

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クルコノギ社ピック

 ピンコフは10kgのサンプルを購入し、40個のピックを製造しました。その後、それらを自分自身でテストしました。彼らはレニングラード地方ヴィボルグキ地区の花崗岩の岩場を登り、その結果から装甲用鋼材からピックを生産することを決断しました。
 ディミトリー・セペレフによれば、通常の鋼材で作られたピックが約1ヶ月間使用できるとすれば、装甲用鋼材は1年は保つと言われています。同時に、それらはシャープさを保ち続け、頻繁に研ぐ必要もありません。

 原則として、メーカーはトン単位で大量に鋼材を販売します。クルコノギは、わずか150gのピックを数十個作るため、 「高品質の金属を、スクラップ材の価格で購入することがあります。同社では装甲車両の車体を製造するため3分の2が用いられ、残りの3分の1の処分に困っていたようです」
 「私たちは、金属加工会社、メーカーのサイトを常にチェックして、興味深いオファーを見逃さないようにしています。」

 ローマン・チェルノフによれば、クルコノギ社が海外展開する際に、西側諸国のクライミングギアの交換用ピックを製造し、それから自社独自のアイスアックスを開発しました。ディミトリー・セペレフが述べるように、アイスアックスには2つのタイプがあります。クラシックなアイスアックスはあらゆる登山者の基本道具であり、通常は片手に一本持ちます。そしてアイスクライマーが使用する、いわゆるアイスツールがあります。アスリート達は常にそのようなアイスアックスを吊り下げています。そのため軽くて強いことが非常に重要です。

 スタンダードな登山に適したシンプルなアイスアックスのコストは、5~6千ルーブルを必要とします。クルコノギ社は経験豊富なアイスクライマー、複雑なルート、競技に適したアイスツールを製作することを決めました。そのような設備の費用は15,000ルーブルを必要とします。

 2015年、ピンコフは航空機用材料として用いられるアルミニウム合金製のアイス・アックスのシャフト製造を決めました。 ピンコフは幾つものメーカーに電話をかけましたが、ごく少量の合金の販売には応じてくれません。そこで彼はAviation Profiles and Rental Factory社のレオニード・ヴァシリエフに頼んでみました。

 「彼はロシア製品のために立ち上がってくれました。300kgしか買えないという要求を汲んでくれ、15%の割引もみてくれました」アルミニウム合金による困難なクライミングのためのシンプルなアイスアックスはわずかに600gです。オンラインストアでは約2万ルーブルの価値があります。

 しかし、商品としてヒットしたのは前年に生産を開始したチタン製のアックスシャフトでした。以前にチタンで試作し、実験した製品で、友人のために製造されたアイスアックスでした。材質は非常に強く軽いものの、高価です。正価でチタンを製造業者から直接購入すれば、それは1kgあたり5.5-6000ルーブルになります。 しかし昨年、彼らは30年前に生産された160kgのチタン材を倉庫の片隅で見つけることができました。購入費用は1kgあたり1500ルーブルでした。

 このおかげで、チタンとカーボンから作られるシャフト、そして装甲用鋼材から作られるピックという新モデルの生産が確立できました。価格3万ルーブルと高価だが重量は490g、ペツル社のアイスツール、ノミックはロシアでは18500ルーブルで重量609gです。
「アスリートにとっては、アルミニウムである以上にチタンであることが重要です。」 セペレフは強調します。
アレクサンドル・ピンコフは、世界中の誰もがチタン製シャフトを手放せないと主張します。

コミュニティの支援

 クルコノギ社はフェイスブック、VK(訳者注:ロシア版フェイスブック)、Instagramに自社ページを立ち上げました。自社のギアを選手達に供給するだけでなく、コンペの主催者に提供も始めました。

 ピンコフによれば、クライマーの世界は非常に狭く、誰もがお互いを知っており、絶えず新製品を求めています。クルコノギ社のギアはロシア人クライマー、ウラディミール・ベルーソブ、ポール・ドブリンカらによってアイスクライミングW杯で使われました。そこで海外のクライマーが新しいブランドに興味を持ちました。

 最初の1人はスイスのクライマー、イヴ・ヘルベルガーでした。クルコノギ社はヨーロッパにおいて代理販売をするように持ちかけました。その後、日本のアイスクライマーであるナキア・マサト(訳者注:原文発音のまま)が自国でギア販売に興味を持ちました。
「日本の市場は非常に限定されており、競争は低いものの、私たちが協力できれば面白い」とピンコフは語ります。
 カナダでは、ロシアから移住したStas Beskinがクルコノギ社の貿易相手になりました。現在、同社は世界各地で複数の輸入業者と協力しています。それらを通じた売り上げは小規模ですが、ピンコフが強調しているように、製品は地元の人々によく知られており、彼らは地元のコミュニティでも積極的なメンバーです。
「彼らのような人々のおかげで、私たちはコミュニティで信頼を得ています。」

 クルコノギ社の商品は高価で、さほど利益はあがりません。 1つのピックのコストは50ユーロ、アイスアックスのコストは300~400ユーロです。ディーラーを通じた卸売販売による利益率は25-30%、ウェブサイトの通信販売で60-70%です。輸出額の80%は、オンラインストアによる小売注文で、ピンコフが郵送を担当しています。

 海外におけるネットワーク拡張と並行して、ピンコフは国内販売を拡大しました。 2014年まで、クルコノギ社のギアは極東のPrimalp、エカテリンブルクのManaraga、サンクトペテルブルクのTramontanaなど3つの小型スポーツ専門店で販売されました。
  ピンコフは他の小売店にも営業をかけたものの、新しいブランドが突然に取り入れられることはありませんでしたが、コミュニティによる支援によってアルプ・インダストリアのネットワーク、スタームショップ、スポート・マラソン社への供給が実現しました。「このギアは専門家による専門家のものと言えるでしょう」とドミトリー・セペレフは説明します。

 ピンコフは、クライミングに熱心な人々がビジネス構築に役立つことが多いと言います。彼らはギアを購入し、クライミングコンペでブランド「クルコノギ」を知ります。最近では、フランスのスポーツ用品デカスロン社の従業員であるクライマーと親密になりました。両社は商品に関する交渉を開始しました。

 2017年には、アメリカの業者であるRock and Iceと Rock and Resoleがピンコフに接触してきました。新しい顧客はアイスクライミングの製品だけでなく、クルコノギ社の他のギアにも関心を示しています。2社は既に2,500ユーロで最初の注文を行っています。そして最近、同社のスタニスラフ・ロブゾフとヴァシーリー・テレキンらが中国のアイスクライミングチームを指導しました。彼らは最初のアジアからの注文を3000ユーロで受注しました。

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海外におけるロシア産金属に関する神話

ローマン・チェルノフ、Vertical社・貿易担当次長

 クライミングは狭い業界であり、アイスクライミングはさらに狭いという事実にもかかわらず、クルコノギ社はブランドとして台頭してきました。世界のアイスクライマーで同社のピックを知らない者はいません。"クルコノギ社は世界に高品質の製品を提供することを可能にし、生産を開始しました。ロシアでは、ヨーロッパのメーカーが手に入れることのできない特殊合金があると多くのクライマーが信じています。またロシアのメーカーは海外向けのギアを生産しています。しかし、海外での収入のシェアはそれほど多くありません。

「彼らは非常に狭いニッチ市場を持っていますが、彼らはそれに精通しています」

ドミトリー・セペレフ アルプインダストリア・ブランドマネージャー

 クルコノギ社は独自の技術とビジネス手法で利益を得ています。彼らは設備の設計や生産もよく熟知しています。非常に狭いニッチ市場でありながら、彼らはそれに精通しており、何をすべきかを知っています。もちろん、いくつかの点で彼らのアプローチは手工業です。大量生産の方法は確立しないままに多くのモデルが完成され、様々な材料の実験が行われ、設備が試験されています。私たちの店に来ると、従業員は彼らが改良した小さな点でも興味を持って話します。同社の従業員は、アイスクライミングや登山に関わり、その本質を理解しています。これが他社と違う点です。
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以上引用おわり

まさに手探りで事業を進めていった2人のクライマーがたちあげたクルコノギ社。
現在迷走していますが五輪競技種目化を目指すアイスクライミング競技、またロシアという世界的には特異なクライミング界を足がかりに、西ヨーロッパ、アメリカのメーカーが幅をきかせるクライミングギア市場にどこまで食い込めるのか、注目です。

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第2の人生 ナタリア・グロスの場合

かつてクライミングコンペのトップ選手として活躍していたスロベニアのナタリア・グロス(Natalija Gros)。

2018年の現在、ダンス・パフォーマーとして活躍しています。

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ナタリア・グロス、ミハ・ペラットのダンスペア

Natalija Gros: Najtežje stvari v življenju so največ vredne! by GOBORI.se 2018.4.12

 2011年にコンペを引退したナタリア・グロスですが、2015年に夫であり映像作家のJure Breceljnik氏を脳卒中で亡くすという悲劇に見舞われました。
 一人娘を抱えたナタリア・グロスは夫の遺作を完成させ、自身はダンスパフォーマーの道に進みました。

上記リンクの『ナタリア・グロス 人生で最も困難なことに価値がある』と題したインタビュー記事では、「ダンスシューズはもう第2の皮膚のようになってるけど、履きにくかったり足の臭いはクライミングシューズと同じよね」とユーモアを交えながら、亡くした夫のこと、子供のこと、そして今輝いているダンスの事について語っています。

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在りし日の夫Jure Breceljnik氏と

クライマーらしく、屋外で岩壁を見ると今でも興奮と心が沸き立ちます、と語っています。

まずは動画で現在のナタリア・グロスのダンスをご覧下され。
かつて男性雑誌を飾ったプロポーション、世界トップレベルのクライミングで鍛えた身体能力がダンスに生かされています。

ナタリア・グロスの第2の人生に、幸あれ。

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キム・ジャインちゃんは歌も上手いらしい

半島問題があってもキム・ジャインちゃんファンの日本全国1億2千万の皆様こんにちわ。

キム・ジャイン、クライミングだけでなく歌も上手いらしい・・・・

Kata
韓国tvN制作の人気番組で『カタツムリホテル』という番組がありまして、タイトル名の架空のホテルに著名人ゲストを客として招き、まったりしたトークを楽しむというバラエティ番組。

去る3月20日に韓国で放映された『カタツムリホテル』にキム・ジャインが旦那様と共に出演。
韓国の歌手ソヌ・ジョンアが奏でるギター生演奏をバックにキム・ジャインが歌声を披露しています。
キム・ジャインちゃんの歌声を聴きたい方は動画開始0:50からご覧下さい。

韓国メディアいわく、『キム・ジャイン、クライミングクイーンのイメージに隠された美しい歌声の実力を披露』などと報じられております。
彼女が唄った歌は、プロポーズの際に歌った歌だそうな。
東京五輪のクライミング競技めざしてファイテン~

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舞台なきアスリートたち

平昌オリンピック開催を目前に控えて盛り上がる1月の韓国。

大韓山岳連盟の新年レセプションの会場の片隅で、鉢巻きにプラカードを持ったクライマー達の集団がありました。

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右端で白いダウンコートを着ている男性はアイスクライミング競技の第一人者、パク・フィヨン氏。(画像:月刊『人と山』誌ウェブサイト掲示板)
プラカードやハチマキには韓国語で『辞任せよ』という文字が読み取れます。
平昌オリンピックにおけるアイスクライミング公開競技開催失敗は、大韓山岳連盟キム・ジョンギル会長の辞任を求める運動に発展、アイスクライマー有志が会長辞任を求める声明を文書で提出する事態となりました。

アイスクライミング公開競技の「催行失敗」に至るまでの経緯を、ついに全国紙である韓国・中央日報もとりあげました。

「アイスキング」パク・フィヨン 「オリンピック正式種目になる機会を失った山岳連盟は責任を負わなければならない」 by 中央日報 2018.3.1

以下引用開始
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「アイスキング」パク・フィヨン 「オリンピック正式種目になる機会を失った山岳連盟は責任を負わなければならない」 キム・ヨンジュ記者 

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 パク・フィヨン(36)は「アイスキング」と呼ばれる。2000年にスポーツクライミング代表を経て2006年以来、アイスクライミング(アイスクライミング)国家代表として活動中である。
 アイスキングは海外でもトップレベルである。国際山岳連盟(UIAA)が主催するアイスクライミングワールドカップでは上位を守り、昨年はワールドチャンピオンの座に登り詰めた。また韓国は2011年から開催された青松ワールドカップを成功裏に誘致し、全世界のアイスクライミングをリードしてきた。UIAAもその点を高く評価し、今回の平昌冬季五輪を迎え、平昌でアイスクライミングショーケース競技(試験プログラム)を開くため、昨年12月にパク・フィヨンを広報大使に任命した。

 彼は議論の中心に立たされた。アイスクライミングショーケースが、最終的に主管競技団体である大韓山岳連盟の未熟な業務処理のために失敗に終わると、彼は山岳連盟を相手に責任論を提起した。そんな彼の主張に対し歓迎する人もいたが、一部では彼を山岳連盟から除名せよという声も出ている。

 パク・フィヨンは先月21日、中央日報とのインタビューで「アイスクライミング競技を世界に知らせ、2022年の北京冬季五輪で正式種目となる絶好の機会だったが、理解できない理由でショーケースが開催されなかった。選手として指導者として、声をあげるしかなかった」と話した。
 彼はソンナム(城南)クライミングジムを運営し、スポーツ・アイスクライミングの人材を育てる指導者でもある。パク・フィヨンは「大韓山岳連盟が生まれ変わらない限り、2020年の東京オリンピックで初めて採用されるスポーツクライミング競技も傍観者となるしかないだろう」と述べた。

一進一退の連盟は国際的な恥

-オリンピックショーケース競技には、どんな意味があるのか。

「ショーケースはカルチャープログラムです。しかし単にデモンストレーションのためのショーではありません。正式種目採択という目標を持ち、オリンピックに出場する楽しさと興行性を、全世界のIOC委員たちにアピールする場なんです。アイスクライミングは、ロシアのソチ冬季五輪に続き、平昌で2番目のショーケース開催が期待されていた。平昌でショーケースが盛況であれば、2022年の北京冬季五輪に正式種目になる可能性が高まったはずなのに、惜しいです。韓国が過去10年間、実質的にアイスクライミング界をリードしてきたので、さらに惜しいんです。

-ショーケースが失敗に終わった理由をどう見るか。

「最初は「予算がない」というのが理由でした。しかし、そのような大金ではありません。当初は5億ウォンで財政難と言われ、1億~2億ウォンまで予算を減らしました。選手たちもお金がないということは知っていました。
 山岳連盟は他の競技団体のような大企業のスポンサーもなく、クライマー達がずっと会場を管理・運営してきたからです。だから選手たちも「それなら私たちも十匙一飯に加えよう」との意見が出ました。(訳者注:十匙一飯とは、「十匙の御飯を足せば一杯の飯になる、皆で力を合わせれば人を助けられるの意味)
 一部の選手は、「国際大会で獲得した賞金を出す」と言ってくれました。しかし予算より連盟の実行力不足が大きかった。ここ半年の間に「ショーケースをする、しない」と声明を変え、国際的にも恥をかいた。大会が開会されなかったことよりも胸が痛みます」

-何度も翻意した理由は何でしょう。

「キム・ジョンギル会長や他の役員に理由を尋ねましたが、まだ回答を聞いてません。前後の説明もなしに「残念だ」の一言だけです。連盟は昨年11月頃に「開催しない」と決定した後に、国内はもちろん国際的に問題になることから「開催する」とした。しかし、その後も一進一退でオリンピック開催月まで氷壁の設置場所も割り当てられませんでした。それまでも「無条件に開催する」という言葉を繰り返していました。開会式を3週間前に控えた今年1月中旬、平昌鱒釣り祭り会場でショーケースを開催する」としました。」

-鱒釣り祭り会場でオリンピックショーケースを開くことができるんでしょうか。

「オリンピック開催地から数十kmも離れたところでショーケースを開くという言葉にあきらめました。ところが、その後も海外の選手たちに「ショーケースのボランティア(選手)に参加してください」というeメールを送っていました。すでにUIAAで「白紙」と発表した後です。恥ずかしいことです。韓国はこれまでアイスクライミングのグローバル化への貢献が非常に高かったが、これまで築きあげた信頼が崩れました。個人的にも信頼を失いました」

-他の国の選手たちから恨み言をたくさん聞いたんですか。

「恨み言とまでは言いませんが、物足りなさを伝えてくる選手が多かったです。アイスクライミングは選手生命が長いので、十数年間かけて親交を積み重ねた選手がかなりいます。友人として、海外でトレーニング中に会えば、技術的な事を助言したりしてくれる。韓国で開催されるショーケースにみんな来たがっていましたが「飛行機のチケットをキャンセルすべきかどうか」訴えてくる友人が多かったです。なんと言えばいいか言葉もなく、困惑しました」

-物足りなさがたくさん残ったようですね。

「半年の間に沢山の失望を重ね、また不本意な論議の中心に立たされてつらかったです。たとえ正式種目ではないとしても、韓国で開かれたオリンピックでアイスクライミングの魅力を見せたかった。もうこのような機会は来ないと思うとより悔しいです。」

-もし北京で正式種目になれば出場するつもりですか。

「それはいいのですが、現在では可能性が低いでしょう。また北京で正式種目になるといっても、そのときには私の年齢は四十を越えています。個人的な成績よりも後輩たちの力になりたい。まだ現役選手ですが、今は後輩の面倒をみるべき時だと思う。今シーズンはクライミングの才能に恵まれた中高生10人を無料で個人指導していました。素晴らしい後輩を育てることが、私が過去10数年間クライミングに投資したことに対する答えだと思っています。」

-スポーツクライミングジム代表として韓国の登山界の将来はどう思いますか。有望な人材はいますか。

「一般の方々は韓国をスポーツクライミング最強国として認知していますが、世界のクライミングの傾向は変わりつつあります。このままの状態であれば、東京オリンピック出場も難しいでしょう。リードとスピード、ボルダリングを全て上手くこなさなければなりません。オリンピックのメダルも三種目を合わせた結果によります。」

-山岳連盟に言いたいことは。

「アイスクライミングのオリンピック正式種目採択は、今回のショーケース開催失敗のためにやむを得ず待たされることになるでしょう。連盟には、より責任のある姿勢を示して欲しい。スポーツクライミングは事実上、監督・コーチがいないのが実情です。国際大会を控えて、その都度に代表チームを作っているためです。そんな状況では体系的なトレーニングを行うこともできない。技術習得も選手自身が処理しなければならない課題です。選手と指導者層との乖離がとても大きすぎる。コーチの中に、選手に技術的アドバイスをしてくれる人がいない。その間、連盟の動きは停滞していました。改革が必要でしょう。」

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以上引用おわり

パク・フィヨン氏のfacebookを閲覧しましたが、会長辞任を求める抗議行動に関する記事でも「自分は(後輩達に対して)恥ずかしい人間でありたくない」という短い文を記しているだけでした。 上下関係が厳しい韓国社会、表だって山岳連盟の先輩方を糾弾することは大変な勇気が必要だったはずです。

さて、結局アイスクライミング競技の行方はどうなるのでしょう。
その方向性を示唆する文言が、韓国の山岳雑誌・月刊『山』2018年3月号のUIAAフリッツ・ブリジランド(Frits Vrijlandt)氏インタビューにうかがえます。

以下引用開始
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Q.アイスクライミングの冬季オリンピック正式種目採択のために、今後どのような計画がありますか。

A.冬季ユニバーシアード大会など、できるだけ多くの大会にアイスクライミングを参加させようと努力します。また、アジアチャンピオンシップをはじめ、アジアユース選手権、ナショナルカップ、ヨーロッパカップなどの大会を開催します。オリンピックのような世界大会にショーケースやオープン戦を徐々に拡大していく計画です。その後、自然に底辺も拡大して選手層も広がり、五輪正式種目に採択されることが可能だと思います。

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以上引用おわり

大韓山岳連盟の失策はさておき、UIAAではアイスクライミング競技の冬季五輪種目採択にむけて今後も活動していくようです。

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【訃報】 ジム・ブリッドウェル逝く

Jim
 ミスター・ビッグウォール、ジム・ブリッドウェル (Jim Bridwell) 氏が長い闘病生活の末、亡くなりました。73歳でした。
 昨年から腎臓病と肝炎を併発し、ご子息のレイトン氏を中心に治療費募集が呼びかけられ、世界中からの寄付金が約3万8千ドルに達しているところでした。

 私がジム・ブリッドウェルの名前を知ったのは、リック・リッジウェイらと共に敢行したボルネオ横断行の記録からでしたが、残念なことに、このときに現地人から入れてもらった入れ墨によって肝炎に感染したものといわれています。
 私生活の方では、あのリーマンショックによる影響で家計が破綻し自宅を失い、このときもクライミング関係者らによって援助をもとめる活動が展開されていました。
 
参考サイト:当ブログ ジム・ブリッドウェルが大変らしい。2008.12.08

その生涯はまさに「ミスター・ビッグウォール」。その記録を綴ればそのままヨセミテの登攀史になりますし、足跡はアラスカ、ヒマラヤ、パタゴニアにも及んでいます。UKCは特筆すべき記録としてエルキャピタンの「シー・オブ・ドリームス」、そして1975年にジョン・ロングらと果たしたノーズの「ワンディ・アッセント」初成功を挙げています。

im Bridwell dies aged 73 by UKClimbing 2018.2.16

1975_westbay_bridwell_long_nose
1975年のノーズ・ワンディアッセント成功時、エルキャピタンの前に立つ、若き日のレジェンド達。左からビル・ウエストベイ、ジム・ブリッドウェル、ジョン・ロング。この写真の真似をした日本人クライマーも少なくないよね。

79年にはパタゴニア、セロトーレ南東稜(アルパインスタイルでは初)、81年にはマッグス・スタンプとアラスカのムースズ・トゥース、82年にはネッド・ジレットらとネパールのプモリ南壁冬季登攀遠征に赴いています。

これだけの素晴らしい経験・技術をもつクライマーでありながら、単独登攀の記録がありません。
Rock and Ice誌ウェブサイトに素晴らしい追悼記事が掲載されています。

Jim Bridwell, Founder of YOSAR and Big-Wall Godfather, Dead at 73 by Rock and Ice 2018.2.16

上述の記事の中から、ジム・ブリッドウェル氏の名言を引用します。

‘I’m not friends with climbers, I’m friends with people.’
(私はクライマーと友達なんじゃない、人間と友達なんだ。)

“I don’t need to solo, I got friends.”
(単独登攀するつもりなんかないよ、友達がいるからね)

そんな言葉を口にしたジム・ブリッドウェル氏は人を殺めることを嫌い、ベトナム戦争に従軍することを拒否、60~70年代のベトナム戦争激しき時代、ひたすらヨセミテの大岩壁に足跡を残していきました。

また一人、世界の登山史を彩ったクライマーが世を去りました。偉大な先達の死に哀悼の意を表します。

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日本のメディアが報じない平昌五輪アイスクライミング競技のゴタゴタ

結論から書きますと、平昌冬季五輪におけるアイスクライミング競技開催は未だ「はっきりしない」模様です。

 既に当ブログ1月12日記事で韓国・月刊『山』誌の記事を引用して競技催行に言及しましたが、月刊『山』誌の記事は12月20日現在の動向、その後に大韓山岳連盟が方針を変えたようです。
 関係者の方を混乱させた可能性がありますので、お詫び申し上げます。

1月17日付「東京新聞」において八木名恵選手および東京新聞記者が公開競技は行われない事に言及していますが、その内幕を韓国の毎日新聞(韓国・大邱市の地方紙、日本の毎日新聞社とは無関係)が報じています。

平昌アイスクライミング競技霧散・・・青松W杯シリーズに冷たい風 by 毎日新聞(韓国) 2018.1.4

以下記事引用開始
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山岳連盟、予算の問題でキャンセル・・・選手達の嘆願書の提出など反発

 2月に平昌冬季五輪でのショーケース(オープン戦)開催予定のアイスクライミング競技が失敗に終わり大きな波紋が予想される。

 イベントを主催する大韓山岳連盟が、財政上の問題でイベント放棄の意思を最近になって国際山岳連盟に伝達し、この内容がオリンピック組織委に伝えられたことが分かった。

 大韓山岳連盟側は「平昌冬季五輪のアイスクライミングのデモのために設営する人工氷壁など約5億ウォンの予算がかかり連盟で負担しきれない規模」とイベントのキャンセル経緯を明らかにした。

 先にこの事情を察した青松郡は、現在青松氷谷アイスクライミングセンター前に設置された人工氷壁を無償で貸与すると提案した。 構造物等を無償で借りても解体しての輸送、再建設にかかる費用が1億ウォンを超えると予想され、連盟はこの提案も放棄した形だ。

 平昌冬季五輪の公開競技開催白紙によって、アイスクライミングをオリンピックの正式種目に推進しようという計画に大きな支障をきたすことになった。
 国際山岳連盟は過去2014年にロシア・ソチ冬季五輪の際、初めてアイスクライミング公開競技を披露した。当時の青松郡もアイスクライミングW杯開催地としてソチと共にアイスクライミングの広報に貢献した。 国際連盟は平昌冬季五輪の公開競技を経て、2022年の北京オリンピックで正式種目に採択という計画を立て、積極的な活動を進めていた。
 実際に、韓国で創始されグローバル化された国際公認スポーツである「テコンドー」も、1988年のソウルオリンピックに初めて公開競技に採用されてから、1992年のバルセロナ五輪の公開競技を経て、2000年のシドニーオリンピックから正式種目に採択された先例がある。

 アイスクライミング公開競技のキャンセルが報じられ、大きな波紋も予想される。
 まず、選手たちが大きく反発している。毎年2月のW杯シリーズが開催される期間なのに、同時期に計画された平昌冬季五輪公開競技のために別々にスケジュールを組んで練習してきたからだ。選手たちは嘆願書を提出するなど、大きく動揺している。
 青松郡もオリンピック公開競技によるハロー効果を狙っていたが、開催取消決定によって同月開催されるW杯開催に悪影響を与えないか懸念している。

 これまで冬季五輪で韓国にもう一つの金メダルをもたらす種目と評価されていた国内の選手たちとファンも失望している。 昨年1月に青松で開かれた2017アイスクライミングW杯で大韓民国代表のパク・フィヨン(35歳 ノースフェイスクライミングチーム)選手、ソン・ハンナレ(25歳 アイダークライミングチーム)選手がリード部門で男女そろって優勝するなど、韓国選手たちの世界最高の技量が知られているからである。国内のアイスクライミング選手は、「ロシアのソチ五輪の時も小規模で公開競技が運営されたし、多くの予算が負担であれば規模を縮小してでも開催することが正しいと思う。予算が問題ではなく、連盟の意志が問題のようだ」と非難した。

 ギム・ジョンギル大韓山岳連盟会長は「別のスポンサーなどを調べて各所で努力したが、良い結果を得られなかった。内部的には公開競技のキャンセルが決定されたが、それでもオリンピック開幕まで方法を模索するつもりだ」と述べた。

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以上引用おわり

続く1月19日、同じ韓国・毎日新聞社が記者コラムの中で、今回のアイスクライミング公開競技開催に関する内幕を明かしています。

【記者ノート】山岳連盟内紛にアイスクライミングは後回し by 毎日新聞(韓国) 2018.1.19

以下引用開始
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 大韓国山岳連盟(以下連盟と略)が、来月開催される平昌冬季五輪期間中のアイスクライミング公開競技を開催するかどうかを巡って内紛が続いている。

 当初、連盟は競技場の建設などの予算を確保できず、イベントを放棄した(本紙4日付10面の報道)。しかし、アイスクライミングの選手たちが、これに反対する集団声明を出し、アイスクライミングがオリンピック正式種目採択を願うファンまで連盟の決定を非難し、公開競技再開の議論を再燃させた。

 結局連盟は5日に公開競技推進委員会を立ち上げ、公式ホームページを通じてボランティア募集を掲げ、8日には公開競技施設の建設に関する提案募集の発表を出し公開競技準備を主張した。

 一段落したとみられるこの問題に、最近再び水面上に問題が浮上している。連盟の予算、日程を巡って内紛が続いているからだ。

 匿名希望のある連盟会員は、「公開競技が失敗に終わったら、現会長の立場も揺らぐために発表などを公開して体裁だけ整えようということだ。公開競技を開催するには少なくとも1億ウォンがかかるが、この予算も確定していないし開催日すら決まっていない状態」と話す。

 一方、公開競技を準備する連盟関係者の言葉は違った。むしろ、幾人かの連盟会員から公開競技の進行を妨害されていると主張した。

 連盟のある関係者は、「公開競技の進行を妨害しようという一部会員がいます。大企業に公開競技関連のスポンサーをお願いしたが、これを再びご破算にしてしまうなど、公開競技開催計画に関してあらゆる雑音を外部に流されて苦労している」と訴える。

 連盟の今回の問題は、単に公開競技が成功するかどうかを離れ、大韓山岳連盟内部の「派閥争い」と指摘する人もいる。
 イ・インジョン アジア山岳連盟会長が11年間にわたり連盟を率い、後任のキム・ジョンギル会長が2016年からバトンを譲り受けた。 この過程の人事で「不協和音」が生じ、公開競技開催にまで火の粉が飛び散っているという分析だ。

 連盟会員はそれぞれの胸にシンボルを着用する。このシンボルは、11個のエーデルワイス文様が描かれている。朝鮮統一を念願する南北の11地方を象徴する。最近の連盟の会員の胸には、このシンボルが見られなくなっている。
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以上引用おわり

というわけで、アイスクライミング公開競技開催のゴタゴタの陰に、大韓山岳連盟の内部事情が絡んでいるという韓国・毎日新聞の分析です。

日本のメディアでは連日、南北統一チームによる韓国女子アイスホッケーチームの惨状、そして韓国首相が吐いた「女子ホッケーはメダルに遠い」発言が報じられています。
今回の報道を読む限りでは、韓国が世界に誇る実力を持つアイスクライミング競技の芽を、自らの手で摘み取ってしまっている現実が見えます。

もうすでに平壌あいや、平昌五輪まで時間が無い状態ですが、アイスクライミング公開競技を巡る混乱は日本、韓国いずれのクライマーにとっても不幸な状態といえるでしょう。

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で、平昌冬季五輪でアイスクライミング競技はどうなった?

そんでもって、平昌冬季五輪でのアイスクライミング競技はどうなった?

Showcase公開競技(メダル無しの公開競技)が決定した模様です。

平昌冬季オリンピックアイスクライミングショーケース開催確定 by 月刊『山』2018.1.11

以下引用開始
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大韓山岳連盟、12月21日UIAAに公式開催の通知

 キム・ジョンギル会長は12月20日、国際山岳連盟UIAA事務局に平昌冬季オリンピック開催期間(2018年2月9日~25日)中に会場内に人工氷壁を設置して、ショーケース公開競技を開催することを発表した。

 2014ソチ冬季五輪で行われた初のアイスクライミング公開競技では、世界的なスター選手招待コンペ、テストクライミング、クライミング体験などのプログラムが行われた。平昌ショーケース公開競技のイベント内容は、UIAAと協議を経なければならないが、ソチ冬季五輪と同様のプログラムが進められると思われる。
 オープン戦の一種であるショーケース公開競技開催確定は、12月20日キム・ジョンギル会長が訪韓したUIAAトーマス・キャル副会長と面会した席で確定した。これはUIAA側が大会成功のために2万5000ユーロをサポートすることを約束した。キム・ジョンギル会長は、追加の資金援助を要請したが、トーマス・キャル副会長は、帰国後に執行部と検討するとした。

 一方、トーマス・キャル副会長はアイスクライミングワールドカップ公式スポンサーであるヨンゴン・アウトドアのソン・ギハク会長との面会を通じ、スポンサーシップが続くことを希望すると依頼し、続いてペ・キョンミ国際交流委員長、アイスクライミングのワールドチャンピオンであるパク・フィヨン、国際ルートセッター、キム・ジョンホンさんと一緒に会場である平昌を訪問した後、帰国した。

 実地踏査に同行したパク・フィヨン選手は「当初、200坪を超える良いスペースの割り当てを受けたが、大韓山岳連盟が大会開催について明確な意志を示さなかったために他の企業に取られてしまった。今回の踏査で100坪にもならない狭いスペースの確保をお願いでき、主催側の回答を待っている状況だ」とした。

 パク・フィヨン選手は
 「平昌冬季五輪ショーケース公開競技に合わせて青松W杯と北京W杯がUIAA 2018年行程表に記載されたように、UIAAだけでなく、全世界のアイスクライマーが信じてきた行事」
 「もし平昌でアイスクライミング公開競技が催行されない場合は、先にソチで開かれた大会は意味を失うことになる。また、アイスクライミングの分野で顕著に活動する選手がいない中国でも2022年北京オリンピック時の公開競技をあえて開こうとしていないことはもちろんであり、それによってアイスクライミングの冬季オリンピック正式種目化ははるかに遠いことになるだろう」と述べた。

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以上引用おわり

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「クライマーは清貧であれ」という幻想

このネタは前々から気になっていましたが、年末に駆け足で紹介します。

Climbing誌ウェブサイトにおいて、クライマーのCM出演に関する是非が話題になりました。

Opinion: Chris Sharma's Polo Ad—Climbers, Cologne, and Confusion by Climbeing 2017.11.10

Cr
発端は、クリス・シャーマがラルフ・ローレン・PoloのコロンのCMに出演、インスタグラムでも画像が公開されたことにあります。

これを受けてクライマーからは「残念」 「次はグッチか?」などの非難めいたコメントが続々寄せられたとのこと。

クライマーがCM出演して何が悪いのか?
と私が吠える前に、上記Climbing誌ウェブサイト記事にあるコメント欄の一言が正論といえると思います。

いわく、
『Why should modern climbers be held to "standards" that never actually existed?』
(現在のクライマーが、存在もしないスタンダードに束縛される必要はない。)

いわゆるレジェンドと言われるクライマー、失業保険で生活し、クライミング一筋の人生を送り・・というのが、クリス・シャーマを非難する人々の頭にあるようです。

現実には、以前から幾人かのクライマーがCMに出演しているという現実があります。
その例を動画で見てみましょう。

ラインホルト・メスナー。
「超人」も山でモノ落っことすんですねw

ロン・カウク。フォード社のCMです。

ケティ・ブラウンとアレックス・オノルド。

「清貧」が一部のクライマーの理想像らしいですが、2人が出演してるのは金融業CITIBANKのCMだなんて、なんて皮肉でしょう(冷笑)

さらに動画・画像は見つけられませんでしたが、ジョン・バーカーもヒゲ剃りで有名なジレット(Gillette)のCMで38000$の収入を得ています。

今回のClimbing誌の記事を一読して奇異に思ったのは、私が記憶している限り、ケティ・ブラウンのCITIBANKのCMは当時のアメリカ国内ではかなり好意的に受け入れられ、CNNでもCM制作の背景や音楽に関して特集が組まれるほどでした。

クリス・シャーマがコロンのCMに出演して、何を今さら問題視されなければならないのか?

さらに記事中では韓国のキム・ジャインのCM出演が引き合いに出されています。
同じ化粧品でもクリス・シャーマが問題視されてキム・ジャインのCM出演は容認されている、とライターのJohn Burgman氏は記述していますが、彼は韓国事情を知らないのでしょう。
キム・ジャインは今や韓国国内では国民的英雄であり、プライドが高く同胞意識の強い韓国のクライマーがキム・ジャインのCM出演を非難することなど無いでしょう。(少なくとも私は見聞したことがない)

クライマーは「清貧」であれ、という幻想を抱いている方は、残念ながら時代に取り残されていると言わざるを得ません。(理想像を抱く方は、どうぞご自由に。)
このような問題は、クライミングの五輪競技採用となった今後、必ず再浮上することでしょう。

五輪競技に採用された瞬間から(まあ五輪競技に関係なくともいえますが)、クライマーも他種目のアスリートと同様、スポンサーや商業主義との関係において倫理性を求められることになります。

だいたい、クリス・シャーマを問題視するくらいだったら、実現しそうもない計画をふりかざして「夢」を語る似非単独登山家を血祭りにあげてもらいたいものです。

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